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 翌日、母は精密検査でどこも問題がないとわかり、無事に病院から家に戻った。そして、再び元の、灯美との二人暮らしが始まった。だが、以前とは違い、灯美は母と一緒に食事を取るようにしたし、ごくあたりまえに会話をするようにもなった。やはりまだ、母というよりは歳の離れた姉のような感覚だったが、家族として一緒にいることにもはや違和感はなかった。ただ安息だけがあった。


 やがて、そんな生活にも慣れたころ、灯美はふと自分の部屋の片隅に、薬のたくさん入った瓶が転がっているのを発見した。ウロマにもらったものだ。そして、灯美にはもう必要のないものだ。


 よくわかんないけど、返しに行ったほうがいいわよね、これ?


 一応、謝礼もまだだし。仮に高額な料金をふっかけられても、こっちは未成年だから法の加護のもと、踏み倒せるはずだし……。とりあえず、そう考えて、翌日の放課後、学校帰りに、ウロマのところに向かった。


 もしかしたらまた見つからないのかと危惧していたが、その日はすんなり、ウロマのカウンセリングルームのあるビルを発見できた。さっそく、中に入り、階段を上って、三階の例の部屋の扉を開けた。


「やあ、灯美さん。お待ちしていましたよ」


 ウロマは最初に訪れたときと同じく、まるで灯美がここに来ることをあらかじめ予見していたかのような態度だった。


「あの、これ、余ったんで返しに来たんですけど。あと、ついでにちょっとはお世話になったことだし、そのぶんのお金を払いたいなって……あ、あんまり高いお金は払えませんよ? 最初に言っておきますけど」

「はは、あなたからの謝礼のお金なんて、はなから期待していませんよ」

「え」

「あなたからのお礼はお金ではない、違う形で頂くつもりでした」

「ま、まさか体?」


 灯美はたちまち血の気が引いた。気持ち悪い男だとはずっと思っていたが、まさかそんなことまで要求されるなんて! すぐにここから逃げないと!


「はは、体といえばそうなんでしょうけれども、変な勘違いをされては困りますよ。とりあえず、そこを見てください。その、壁に貼ってある紙をね」

「紙……?」


 そんなもの、前来たときにあったかしら? ひとまず、言われたとおりに、ウロマの指差した方向の壁に貼られてた紙を見た。そこには、「急募! アシスタント募集! 時給は応相談! おやつ付き!」と書かれていた……。


「……なんですか、これ?」

「見ればわかるでしょう。求人広告です」

「私と何の関係が?」

「ついでに言うと、バイトすらしたことのないずぶの未経験者でも大歓迎、学生さんでも全然ウェルカムなのですよ」


 と、ウロマはじーっと灯美を見つめた。半開きの、濁りきった二つの瞳で。


「灯美さん、現在はお母さんとはうまくいってるのでしょう? でしたら、今までの非礼を詫びるためにも、何かプレゼントでもしたほうがいいですよね?」

「ええ……」

「そう、例えば、自分で何かバイトでもして稼いだお金を使って……」

「わ、わかったわよ! ここで働けばいいんでしょ!」


 ウロマの視線に耐えかねて、灯美は叫んだ。実際、きちんとしたお礼ができるほどのお金は持っていなかったし、ほかに選択肢はなさそうだった。


「ほほう。それはそれは、ありがたいことです。灯美さん、雇用決定です」


 ウロマはわざとらしく手を広げ、高笑いした。何が雇用決定だ。はいと返事をしないと、おとなしく帰してくれそうにない雰囲気だったではないか。


「では、灯美さん、今後ともよろしくお願いしますよ。僕のアシスタントとして」

「え、ええ……」


 二人は握手をした。アシスタントというが、いったいこれから、自分は何をやらされるのだろう。灯美の心は不信と不安でいっぱいだった。

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