俺の彼女はマリナストライア
ぽつんと居間に立ち尽くす俺は、まるで滅ぶ世界に一人取り残されたような気分になった。
先程まで聞かされていたぶっ飛んだ内容の話が全部夢だった気さえしてくる。
それでも。
掠れた虚無感の中、ひとつ、とても大きなことに気付く事ができた――。
「ん……ユウスケ、さま……?」
倒れて眠っていたマリナが一番最初に目をさまし、スローモーションのように体を起こしながら、
「ユウスケ様、ご無事ですか」
まだ開ききっていない眼で俺の方を向き、真っ先に俺の心配をしてくれた。
「うん、無事だ」
「結局、あの人は誰だったのですか? 修正するとか、修正はやめるとか、よく分からないことを……。ユウスケ様が出かけている間も、ずっと笑っていまして、話しかけることも
「あの人はね、まあ、そうだな」
――修正されなくて本当に良かったと思っている自分に。
――自分が思う以上に、俺はマリナのことを好いていたという事に。
「希望、かな」
「?」
マリナは折れそうなくらい首を傾げて、青い瞳を真っ直ぐ俺に向けてくる。
「マリナ」
「は、はい!」
「俺のこと、好き?」
「え、ど、どうしたんですかユウスケ様」
マリナは分かりやすくあたふたして、碧眼を床と俺に往復させながら顔を赤らめた。
「確認だよ。一緒に居たいってのはどういう意味かなって。
「全部、全部です」
「全部?」
「はい。
頬に朱を染めたまま、マリナはキリッと凛々しい顔を俺に向けた。
「ユウスケ様のことが好きなのも、本当です」
潤んだ瞳のマリナが唐突に愛おしくなり、気づけば俺はマリナを抱擁していた。
「ユ、ユウスケ様……?」
「なんでだろうね。まだ出会って全然経ってないのにさ。俺も、マリナと同じ気持ちになってるよ」
「ユウスケ様、こういうことに、期間は関係ないのですよ。きっと、ですけど」
マリナの綺麗な金髪から香る良い匂い(俺んちのシャンプーだけど)を感じながら、やっぱり元の世界には返したくないな、などと思い始めていると、
「あらあら、人間。意外と大胆ですのね。ですが、人前でいちゃつくのはさまざまな
気づけばヘカテーがふわふわと浮きながら俺とマリナをニヤニヤと見下ろしていた。
慌てて俺はマリナから離れ、何故かマリナから目を逸らしてしまった。
恥ずかしさと気まずさで、こういう時どんな顔をすればいいのか分からないの状態な俺に、
「爆発すればいいと思うよ」
これまたいつの間にか目を覚ましていたつかさから、温い罵声が浴びせられた。
「爆発って」
「リア充は爆発するもんなんだよ。ユウスケも爆発しとけ」
「あら? 爆発ですの? 爆発の魔法なら使えますわよ」
「いやいや駄目だってヘカテーちゃん! 本当に爆発させないでよ? 俺はマリナやヘカテーと違って普通の人間だから死んじゃうよ?」
「ユウスケ様ひどいです、私も普通の人間です!」
「いや、そうだけど」
「じゃ、もうみんな纏めて爆発させときましょうかしら?」
「やめてってば!」
こんな感じの小うるささで
皆、まるでさっきの異空間や修正の危機やみなかの存在が夢だったかのように小気味よく立ち振る舞えている。
しかしながらやっぱり全部本当にあったことだった。
証拠に、エリュはここに居ないからだ。
しばしの会話の後、マリナは「身体を清めて参ります」と言って風呂場に消えていった。
……深い意味はないよね?(動悸)
そしてつかさも、「明日も一限からだからそろそろ帰るわ」と帰っていった。
何故かヘカテーが玄関まで見送って、ふわりと赤い髪を
「そういえば、ヘカテーちゃん、普通につかさの前に現れたね。これまで会うのを避けてた気がしたんだけど気のせいだったのか」
ふとした疑問をヘカテーにぶつけると、ヘカテーは顔を曇らせながら、
「気のせいじゃないですわ。だってあの言葉の汚い女の方、やっぱり
「詳しくっていうのは、正体が悪魔とかそういうこと?」
「ええ、まあそれもそうですけど……それだけじゃないですわ」
「どういうこと?」
俺が訊けば訊く程、ヘカテーは顔を顰めていく。
「要するに、あの言葉の汚い女の方は、
そうだった。
つかさはライトノベル『グリースの四半魔』を過去に読み、マリナやヘカテーの世界のことを知っているんだったな。
その内容について俺は、つかさに掘り下げて訊いていない。
近々つかさに詳しく聞かねばな、と心の中で決意していると、
「キャァアアアアアア!!」
風呂場から悲鳴が聞こえた。
考えるより先に身体が動き、俺は風呂場に向かっていた。
「マリナ!?」
これまた考えるよりも先に浴室の扉を開けてしまった。
「「あっ」」
案の定、そこには一糸纏わぬマリナがシャワーヘッドを手に立っていた。
驚嘆顔と共に真っ赤になったマリナが色々と隠すようにシュバッと向こうを向いた。
俺もすぐさま顔を背けて、
「ご、ごめん!! あの、違くて!! 悲鳴が聞こえたもので、その、背中しか見てないから!!」
「ほ、んとうですか?」
「本当本当! ほら湯気とか濃くて良く見えなかったし!」
嘘ですいろいろ見えましたごめんなさい。
ヘカテーのも一瞬見ちゃったけど、比べて(比べるなよ)マリナは、こう曲線美と言うか大きいと言うか、女性らしかったというかなんというか、うん、悪気はなかったんだうん。
じゃなくて!
「あの、大丈夫? 悲鳴が聞こえたけど」
俺は脱衣所の鏡の中の自分を見つめながらそう訊いた。なんて間抜けな顔してるんだろうね自分。
「は、はい、その、とてもお湯が熱かったものですから、ビックリしまして」
「お湯?」
そう鸚鵡返してから、脱衣所側に設置されている給湯機の設定温度を見ると、いつの間にか五十度になっている。なんで。
「あー、そのへんな箱、さっきエリュが弄ってましたわよ」
どこからともなくヘカテーが肘枕の体勢で浮いたまま現れてそう言った。
俺は溜息をついてから設定温度を四十度に戻し、マリナに「もう大丈夫だ、ごめんな」と声を掛けた。
あの暴食め。ナイスプレーだぞ。
「あの……ユウスケ様が望まれるのなら、私はご一緒でも――」
「いやいや! ダメ!」
「……そんなに嫌ですか」
「いや! そうじゃなくて!」
そういうのは順序が大事っていうか、大切にっていうか、なんというか……。
「あらあら、人間、稚拙な色欲がダダ漏れですわよ」
「う、うるさい! 童貞で何が悪い!」
「……いえそんなこと言ってませんけど」
ヘカテーはあからさまに煙たそうな顔を向けてきた。
自爆したところで、八つ当たり気味にヘカテーの足を掴み、引っ張るようにして俺は脱衣所を後にした。
数歩歩いたところで
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