従った転生者(リインカーネイテッド)
俺はそれなりに料理はできる側の人間で、あまりにも凝った料理以外なら大抵作ったことがあった。
しかし残念ながら冷蔵庫には大した食材が無かったため、最も手早く済みそうな
冷凍庫から米を取り出し、温めたフライパンにゴマ油を敷き、溶き卵を投入。
固まるか固まらないかのところですかさず解凍した米を投入し、万遍なく振り混ぜ合わせながら醤油、ダシ、塩こしょうを投入。
全体に味が馴染んだ頃合いで皿に盛りつけ、ねぎを少々刻んで散らして完成。
所謂男飯と言うかシンプルで味気はないかもしれないが、少女の空腹を満たすのが急務であったので致し方ない。
事実、十分も掛からずにできた。
居間のテーブルについて背筋を伸ばす金髪少女の目の前に、できあがった
少女は皿の中身と俺の顔を交互に見つめて、
「ユウスケ様、これは……」
「
そう言って俺は先に食べ始めた。
うん、なかなか。まあ間違いない味だ。
シンプルイズベストとも言うが、ダシ調味料を開発した味○素さんが最強だよね、本当に。
咀嚼をしながら少女を見つめていると、恐る恐る、といった感じにスプーンを掴んで少量の米を拾い、小さな口に持っていった。
すると一呼吸もしないうちに少女はクワッと大きな目を更に見開き、次第にパクパクと凄い速さで食べ始めた。
相当お腹減ってたんだね。
「そんな慌てて食べないでも、炒飯は逃げないよ」
「いえ……、……ちが……、うん……です、……」
食べるか喋るかどっちかにしてくれ。
半分程食べた頃合いで、マリナなんとかは大きく呼吸をしてから、
「違うんです、ユウスケ様」
そのユウスケ
「私、ここまで美味しいものを口にしたのは生まれて初めてでございまして……手が勝手に」
「それはありがとう。凄く簡単に作れるものなんだけどね」
「ユウスケ様は
その金髪碧眼の容姿で割烹って……。
「その、ユウスケ様って言うのやめてくれないかな?」
「
「俺はヒトに様を付けられるような人間じゃないからだよ」
「はあ……ですが、私は貴方に忠誠を――」
「その喋り方も何とかならない? もっとこう、友達とかと話す感じで良いよ、別に」
そっちの方が俺も楽だし。
「しかしながら、私は……」
「忠誠だか何だかよく分からないけど、とりあえず堅苦しい言葉はやめよう。折角そんなに可愛いんだから、もっと普通に話しなよ。まだ十六歳なんでしょ」
そう言うと少女はみるみる頬に朱を差し始め、
「か、可愛いだなんて、そんな……」
細い声で力なく呟き、俯いてしまった。
俺まで恥ずかしくなってしまった。
「ま、まあとにかく、食べてよ! 食べ終わったらいろいろ話をしよう。訊きたい事たくさんあるし。口調は普通で良いからな?」
「わかりました」
俺の言葉に控えめに返事をし、食事を再開するマリナなんたら。
夜中の好戦的な態度が嘘のように大人しく、その姿は正に十六歳の幼気な少女だった。
取り敢えず訊きたいことを整理しながら、俺も残りを平らげることにした。
* * *
「はい、私はプリュギアの勇者の子孫で、悪事を働く悪魔どもから国を守るために日々鍛錬してきました」
「勇者ねえ……」
「はい。ここに来る直前まで、国より東の森を根城とする悪魔の一人、ヘカテーと剣と魔法を交えていました」
「悪魔ねえ……」
俺とマリナは食後の珈琲を片手に、マリナがここに来た経緯の話をしていた。
マリナのマグカップにはミルクと砂糖をそれはもうたっぷりと入れてやった。
「はい。その交戦中、ヘカテーが見た事のない魔法を使って……」
「気が付いたら俺の部屋にいたと」
「はい」
「そのヘカテーさんは魔法を使うときに何か言ってたりしなかった?」
「そうですね……確かですが、
ですわねって……お嬢様悪魔?
「んー……やっぱり何度聞いてもよく分からないね」
「ごめんなさい」
「いや、謝ることではないけど」
うーん。この少女のいう事を信じるなら、やっぱり異世界から来たとしか考えられない。
マリナも、俺が働いている間に辺りを軽く散策し、
「聞く限りだと、そのヘカテーさんがマリナをこの世界に飛ばしたとしか考えられないね」
「マリナ……」
「あ、ごめん、勝手に略しちゃった。だって君の名前長いんだもん」
「マリナ……」
「気に障ったのなら謝るよ」
「いいえ、嬉しいです。ユウスケ様」
マグカップを両手で持ち、マリナは美しい笑顔をした。可愛すぎる……。
「様はやめてってば」
「では、ユウスケ殿」
「ダメ」
「我が
「普通に呼べないの? ユウスケでいいのに」
「それは嫌です! 私のお慕いする方を呼び捨てになんてできません!」
「えー……それは、そのプリュギアの規則なの?」
「いいえ、私のこだわりです」
「…………」
お慕いって……。
会って一日も経ってないのに。
「どうしてマリナは、その、俺に忠誠を誓う事にしたの? 突然だったけど」
「はい。私の暮らす国、プリュギアにはプロフェットと呼ばれる、誰よりも神聖かつ不可侵な存在があります」
「プロフェット……?」
俺は慌ててスマホを素早く駆使してプロフェットという単語を検索する。
Prophet――預言者という意味の英単語がすぐに表示された。
「はい。そしてプリュギアの人間は十五歳の生誕の日に、必ずプロフェットによるお言葉を受ける習わしがあります」
「お言葉……預言ってこと?」
「はい。それはもう、外れたことの無い未来予知とまで称されるほどの、絶対的なお言葉なんです」
絶対当たる預言……うさんくせえ。
でも、魔法が存在する世界なのだとしたらあっても不思議ではないのか。
まあまだちゃんとした魔法をこの目で見たわけではないけども。
「そのプロフェットが、なんだって?」
「はい。【
マリナは少し照れくさそうに、しかし真っ直ぐ俺の眼を見て言った。
「介抱って、大したこと俺してないだろ」
「いいえ、寝具に寝かせて頂き、傷には異世界の包帯の類……れっきとした介抱です」
「それに永久に……って」
「はい。ですから、この命尽きるまで、私はユウスケ様に付き従わせていただきます」
「いやいや。いやいやいやいや」
永久に付き従うって、永遠に一緒ってこと?
「プリュギアはどうなるの? ここ、君にとって違う世界なんだろ?」
「異世界でもどこでも、私はユウスケ様にこの身を捧げます。それがプロフェットのお言葉なのですから」
そう言ってまたしても頬を赤らめて俯くマリナ。
いやいや。
おい! どこぞのプロフェットだか!
なんてことをこの子に吹聴するんだよ! どうすんのさこれから!
「ユウスケ様、何なりとご命令を」
「ご命令って……」
マジどうしたらええねん。
いやこんな可愛い女性と一緒に居られるのは男冥利に尽きると言えばそうなんだけど。
命令を待つ期待の眼を向けてくるマリナに、俺は名称不明の感情が湧きあがった。
差し当たりそれを誤魔化すように、
「とりあえず、そしたらこのマグカップを流しに持って行ってくれ」
「わかりました、ユウスケ様」
初めての命令(?)が嬉しいのか、満点の笑顔でマリナは俺のマグカップを受取り立ち上がる。
そして三歩進んだところで、
「キャッ」
突き刺すような悲鳴を上げ、派手に仰向けに転倒した。
またしても野球ボールを踏んづけたようだ。
同時にマリナの手から離れ、ふわりと垂直に宙に浮くマグカップ。
まずい、このままではマリナの顔面目がけて落下する!
「っツ!」
咄嗟のことだった。
冷静に考えれば手でキャッチしに行ったり、吹き飛ばせたりしたら良かったと思う。
しかし反射的に俺はマリナを覆いかぶさるようにして庇い、案の定後頭部にマグカップが命中した。
運が良かったのか、俺の頭をバウンド後、そのまま絨毯に落ちたが割れることはなかった。
「っててて」
無意識に片目を閉じて鈍めの痛みを感じていると、半分の視界の先には控えめなバンザイのような恰好の真っ赤なマリナが居た。
そして、なんと俺の右手はマリナのそれなりに大きめな胸に着地していたのだった。
傍から見れば、俺とマリナは完全に
「えーと……」
動けずに言い訳を考えていると、
「…………ユウスケ様が望むのなら……」
マリナはそう言って眉を浅いハの字にして、綺麗な青い瞳を閉じた。
「ちち、違うから!」
慌てて俺は立ち上がって数歩後ずさりのように歩いたところで、何かを踏んづけて派手に転倒した。
衝撃で視界に星がチラつき、全身を打った痛みがじわりと広がる。
言葉も出ずに痛みに耐える俺の視界の端からコロコロと転がってくるものが見えた。
やるじゃん、
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