願掛け

第25話 お姉ちゃんになるから

 果てしなく続く水平線。永遠かと錯覚してしまうほどの、長い時間。隣にいることが当たり前になりつつあった、わたしたち。

 その横には、いつのまにか一人、またひとり増えた。

 はじめはすぐにいなくなると思っていたけれど、ずっと一緒にいた。


 どうしてだろう。


「大丈夫だよ、優樹菜ちゃん」

「なにが大丈夫なの?」


 果鈴ちゃんが海のすぐそばにある防波堤に乗って、足をバタバタさせてた。わたしはそれをするのが怖くて、防波堤には座らずにもたれかかっていた。だって、落ちたら怖いじゃない。どうして、そんなことができるんだろうって不思議だった。


「あたしが優樹菜ちゃんの“お姉ちゃん”になってあげるからさ」

「おねえちゃん?」

「そう。だって、そのほうがいいよ」

「どうして?」


 そうやって聞いたら、果鈴ちゃんは黙っちゃった。

 うんうん唸ってるから、きっと考えごとをしてるんだと思う。果鈴ちゃんは物知りだから、きっとなにかすごいことを考えてるのかな。


「このままじゃ、一緒にいられないんだよ」


 果鈴ちゃんがわたしのお姉ちゃんになる。それって、どういうことなんだろ。

 わたしが果鈴ちゃんのことをお姉ちゃんだと“思う”だけじゃだめなのかな。やっぱり、それじゃだめ?


「今のままじゃ、だめなの?」

「それだとこれから先、一緒にいられないかもしれない」

「それって…それってさ? 果鈴ちゃんが、本当はわたしのお姉ちゃんじゃないから?」


 海の上に夕陽が浮かんでた。真っ赤っかで触ると熱いだろうなとか、そんなおかしなことを思いつくくらい、わたしは果鈴ちゃんから逃げ出したかった。

 どうして、そんなこと言うの。果鈴ちゃんはわたしのお姉ちゃんで、わたしは果鈴ちゃんの妹ってことにしちゃ、だめなの?

 きっとわたしは、あの夕陽を掬いたかったんだ。海水で溶けてしまう前に。


「うん。島の掟は破っちゃだめ、なんだよ」

「でも、今までずっとそうしてきたのに。おかしいよ、こんなの」

「だってそれは、わたしたちが子どもだったから曖昧になってただけだよ。はっきりさせないと、怒られちゃう」


 怒られるのは嫌だ。果鈴ちゃんと一緒にいられなくなるのは、もっと嫌だ。


「だから、お願いしに行こう」

「どこに?」

「島の神社。石段を夜に登ってお願いごとすると、必ず叶うんだって」


 理由とかそんなのは、きっとどうでもよかった。なにかに縋りたいという気持ちだけで、わたしと果鈴ちゃんは手を繋いで真っ暗な神社にお参りした。誰にも気づかれないように、静かにゆっくりと。


 帰り道の果鈴ちゃんは、スッキリした顔をしてた。わたしと同じように、もやもやしていたのかな。


「これからは、呼び捨てでいいよね」

「うん、いいよ。じゃあ、わたしもお姉ちゃんって呼ぶね」



 果鈴ちゃんの記憶が抜け落ちていることに気づいたのは、四人が二人になってからだった。なにがきっかけなのか、原因がなんなのか。なにも分からないまま、原因不明の記憶障害は治らないまま、果鈴ちゃんは“お兄ちゃん”になって帰ってきた。

 そうなってしまうと、一緒にいられないのに。どうしてかな。

 お姉ちゃん。帰って来てほしいよ。

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