第24話 嘘の記憶
暗闇の道の真ん中で、俺と中津さんは向き合うようにして立っていた。
明かりは道の片側に、等間隔で並ぶようにして立っている電灯。そのせいで、お互いの顔がはっきりと見えずにぼやけていた。
「念のために確認させて。いいかな」
「どんな質問かにもよるけど」
「それはそうよね」
中津さんの態度が、先ほどから安定していない気がしていた。強気で向かってくるかと思いきや、急に弱々しい一面を見せてきたりもする。まるで坂道を転がり続けるボールのように、非常に不安定な様子だった。
「優樹菜と初めて会ったときのことも、覚えてない?」
「それは、家に妹として来たときが初めてだから……」
「あのね、そこがまずおかしいのよ」
「どういうこと?」
「少なくとも、の話なんだけど。優樹菜と果鈴は、私が小学生のときに会っているの。写真、あなたも持っているはず」
「写真…?」
証拠となるものを指していっているのだろう。なので、きっと俺と優樹菜がそれ以前から会っていたということを証明する写真というわけだ。しかし、そんなものは家の中にはなかったはず。それならば、中津さんが嘘を吐いているのか? いや、わざわざこんなに手の込んだ嘘を吐くだろうか。その線は薄い。
「もしかして失くしちゃったの? 最後の日に四人で撮った、集合写真」
「集合写真…あっ…。家にあるかは分からないけど、さっき和泉さんに見せてもらった」
「それなら話は早いわね。そういうことよ」
「どういうことだよ」
「優樹菜が嘘を教えてるってこと」
頭の中が掻き回されているような感覚だった。聞いてはいけなかったであろうことを聞いてしまった。嫌でも、そういうことなのだと分かった。
もし、この話を口だけで聞いており、話す人も中津さんだけだったとしたら、俺はなにも思わなかっただろう。おそらく、そのまま話を聞いたことすら忘れていった。
けれど、どうだろう。和泉さんと中津さんの言っていることは、写真の件も相まってかなり信憑性が高い。それこそ、天と地がひっくり返るほどの出来事だった。そんなことを平然と話してくるものだから、俺のほうが頭がおかしかったのかと思わざるを得ない。
「そして、合言葉は『お姉さま』だった。四人で集まるときは、果鈴のことをそう呼ぶと決めたから。だから、私は真っ先に気づいてもらえるように言ったのよ。お姉さまに会いに来たんです、と」
「人違いってことじゃないんだ」
「そんなこと、まだ言うの? 何回でも言うけど、私は果鈴と優樹菜のことをずっと昔から知ってるよ」
嘘だとはとても思えない。二人の話も、優樹菜の話も。
二人の話を否定することはできても、優樹菜の話を否定することはできそうにない。それをすると、優樹菜との生活を否定することに繋がる。
それなら、あの写真はなんなんだ。真実を写しているのだから、信じるしかない。現実に起きていることを否定するのは、自分を見失ってしまうような気がした。
「それなら、お姉さまが昔に女装をしていたことも覚えてないの? 今している女装は関係ないとして」
「親が勧めてきて、それでしたことはあったけど……」
「なに言ってるのよ。そのあたりも覚えてないのね」
「ちょっと待て。さっき見せてもらった写真、俺が女装してた」
「かわいかったもん。今でもはっきり覚えてる」
それは昔のことを懐かしむような語り口だったが、当の本人であるはずの俺がまったく思い出せていなかった。思い出そうとするどころか、彼女の口から出てくる話に俺が混じっていることが信じられないのだから。
「お姉さまはね、自分から女装していたのよ」
「そんなわけあるかよ。…無理やり着せてきたりしたんじゃないのか?」
「まだ寝ぼけてるの。違うわ。だってあの日のお姉さま、やっと服を買ってもらえたってすごく喜んでいたもの」
否定することを諦めた瞬間だった。これが嘘なら、なぜこんなことを言う必要があるんだ。わざわざ俺のことを待ってまで言う話じゃない。
そもそも、話を創作したにしては不自然なところもある。
けれど、その話を聞けば聞くほど疑問が湧いて止まらない。
なぜ優樹菜は“隠している”のだろうか。もし仮に俺と優樹菜の初対面の時期や、俺が女装をするきっかけが違っていたとして、それを隠す必要性はどこにあるのか。
そして、なぜ義妹であると偽る必要があったのか。これが本当ならば、とんでもない。知らぬ間に本の結末が変わっていたかのように、優樹菜との関係性が変わってしまうなんてことは、信じたくなかった。
ひとまず、血縁関係うんぬんを置いておいたとしても、優樹菜とは一度きちんと話をする必要があるみたいだ。それがたとえ、これまでの日々を否定することになったとしても。
「とにかく、お姉さま。気をつけてね」
「なにに気をつけるの」
「嘘をつく子ども」
話はもう終わりということか、中津さんはその場から離れていった。
自分の記憶に向き合う日が来ようとは、考えてもいなかった。俺にとって、優樹菜から聞いた
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