第44話 最終決戦1
「大変です! ダラム軍が間近に迫っています」
偵察兵が馬上のタルミの元に飛んでくる。
「ほら、言わんこっちゃねえ。今の内に目の前の魔族部隊を蹴散らしてサザランドを落さねえと手遅れになるぞ」
アルテリオが焦ったようにタルミに言う。
「もうすぐチェスゴー正規軍も到着する。それまでの辛抱だ」
タルミがそう返事をしたが、ターシアンには少し不安に思う事がある。もうすぐ合流するであろうチェスゴー正規軍から、何も指示が来ていないのだ。
「大変です! チェスゴー正規軍が右側平原から現れました」
別の偵察兵が報告に現れる。
「何が大変なんだ! 味方だろ」
「その筈ですが、正規軍が我が軍を攻撃しているのです!」
「ええ!!」
一同が驚きの声を上げた。
「私が見てくる」
そう言うと、タルミが止める間も無くアリアが瞬間移動で消える。
「どう言う事だ、なぜ正規軍が……」
タルミは訳が分からず呟く。
「もし、この状態でダラム軍に攻撃されたら逃げ道が無くなりますね」
ターシアンも深刻そうな顔でタルミに言った。
アリアがタルミの前に現れた。
「エリオンが指揮している。どうやら私達は嵌られたみたいね」
「くっ」
アリアの報告を受け、タルミの表情が屈辱で歪む。
「大変です! 左側平原よりダラム軍の攻撃です!」
最悪の事態だ。タルミは覚悟を決めた。
「全力で目の前の魔族の部隊を突破する。チェスゴー、ダラムの両軍からの攻撃は全力で逃げ切れ」
タルミは叫んだ。
「俺は前線で突破する。任せてくれ」
「私達もアルと行くよ」
馬上のアルテリオとアリア、モニカの姉妹がタルミに言う。
「すまん、アル。迷惑を掛ける」
「遠慮するな。俺達は兄弟だろ」
「二人とも身の安全を第一に無事で居てくれ」
タルミは無理な事と分かりつつ、姉妹に言った。
「あんたこそ死んじゃいけないよ。この世界に必要な人なんだから」
アリアは馬を近付けタルミにキスをした。
「さあ、行くぞ!」
アルテリオが馬を飛ばす。
「エルミーユ! この人を頼むよ!」
アリアはエルミーユに声を掛けアルテリオに続いた。
「さあ、全軍、アルテリオに続け!」
タルミは叫んだ。
アルテリオは前線に出ると馬を降り、魔獣化する。背中に背負った大きな斧を力任せに振り回し敵の魔物をなぎ倒して行く。
同じく前線に出たアリアとモニカの姉妹も魔獣化し馬上で鞭を振るい進んで行った。
「後続が次々と壊滅しています!」
進んで行くタルミに連絡が入る。
「まずいですね。何とかサザランドに入り、城門を閉ざせられれば良いんですが」
ターシアンが暗い声で言う。
状況はかなり悪い。目の前の魔族の部隊だけなら数に勝るが、ダラムとチェスゴー軍が相手では数が違い過ぎる。
奇跡が起きなければ全滅は避けられない状況だ。
と、その時、タルミ軍の周りに大きな竜巻が巻き起こる。
竜巻はダラム軍やチェスゴー軍の兵士を巻き上げ、ダラム兵の逃走を助けた。
「何が起こったのだ」
タルミだけでなく戦場に居る全ての者が天を仰いだ。
上空には翼を広げた一匹のドラゴンが舞っている。
「風神雷神(ダブルゴッド)」
レオの上でジョエルが叫ぶ。
台風のような突風と晴天の霹靂がダラムとチェスゴーの前線を襲い混乱の渦が巻き起こる。
「何が起こっているのだ! 風ごときに怯まず突き進め!」
ラスティンが馬上で叫んだ。
「慌てんなよ。お前の相手は俺がしてやるぜ」
近くに居た兵士がラスティンに言う。
「お前何者だ」
二人の兵士が兜を取ると、隆弘とハンナだった。
「お前死んだ筈では……」
「伝説的な薬草ってのが有るんだよ。|不見草(ふみぐさ)って言う死人でも目を覚ますくらいのな」
隆弘は馬を降りた。
「ハンナ」
「はい」
ハンナは馬から飛び降り隆弘から離れた。
「はああ!」
隆弘が気合を込めると周りに居た者が吹き飛ばされる。そのまま腕を旋回させると直径十メートル程の光の壁が周りに出来た。
「さあ、これで邪魔が入らないぜ」
隆弘はにやりと笑う。
「面白い」
ラスティンが馬を降り、体を丸める。
「はあああ」
ラスティンは体を伸ばし魔王の本性を表した。
「邪魔だ」
ラスティンは気功弾を手の平から放ち馬を消滅させる。
隆弘はポキポキと指を鳴らした。
「今度は卑怯な真似は出来ねえぜ」
二人の間に緊張が走った。
「これでは手出しが出来ない」
ヘルムは光の壁を見て呟いた。ふとヘルムは近くに居るハンナに気が付いた。
あの娘を始末すれば魔王様も喜ぶ筈。
ヘルムが動き出そうとしたその時。
「ぎゃあ!」
右足に激痛が走り、見るとハリスが剣を突き立てている。
「今の内に攻撃を!」
ハリスの叫びを聞く以前からハンナはヘルムに向け魔法の詠唱を開始していた。
「|怒れる太陽の裁き(アングリーサン)」
ハンナが叫ぶとヘルムの頭上に円状の渦が現れ、光のシャワーを浴びせる。
「ぐあああ!」
寸前で飛び退いたハリスは難を逃れ、ヘルムは跡形も無く消えてしまった。
「大丈夫ですか!」
ハンナはハリスに駆け寄る。
ハリスはすぐに立ち上がり叫んだ。
「全軍一次撤退! 相手と距離を取れ!」
ハリスは光の壁の中で行われている戦いの結果を待とうと考えた。もしラスティンが勝ち、自分が処刑される事となっても構わないと。
「ダラム軍が下がったぞ!」
レオの上でシュウが叫ぶ。
「じゃあ、後はチェスゴー軍ね」
ジョエルの言葉にレオはチェスゴー軍の上に移動する。
レオは口から火炎を放射し、チェスゴー軍を威嚇する。
「お! レオあそこに近付いてくれ」
何かを見つけたシュウが指差す。
シュウが見つけたのは、チェスゴー軍の後方の丘で戦況を見詰めるエリオンの姿だった。
「ジョエル、後は頼む」
シュウはエリオン目掛けて飛び降りた。
「お前は……」
エリオンは目の前に現れたシュウに驚く。
「あの時の借りを返しに来たぜ」
シュウの言葉を聞きエリオンは馬を降りる。
「下がれ」
エリオンは右腕を横に広げ、兵を下がらせる。
「あの時の俺と同じだと思ったら痛い目を見るぜ」
シュウが身構える。
エリオンが腰の剣を抜いたがシュウは怯まない。
最初にシュウが仕掛ける。
一蹴りでエリオンの目の前に飛び込む。完全に距離を詰めると逆に剣は使えない。以前の戦いから、エリオンはシュウのスピードを侮っていたのだ。
シュウの拳がアッパー気味にエリオンの腹に向う。
エリオンは体をひねって避けるが、拳が腹を掠る。鎧が砕け、血が滲む。
体制が崩れたエリオンをシュウの連続攻撃が追う。
拳、蹴り、拳、拳。
エリオンは防戦一方でシュウの攻撃から逃げ続ける。
「まずいね。精神を操っている分、反応が鈍い」
下がって二人の戦いを見ているカーラが呟いた。
カーラが手を額に当てると、全身が鱗に覆われた緑色の魔獣に姿が変わる。
「あの小僧を止めないと」
カーラはシュウに指を向ける。
「ぐえ……」
その瞬間、カーラの胸から氷の剣先が飛び出る。背中から氷の剣を突き立てられたのだ。
「お前なぜ……」
カーラは後ろを振り返りレイラを見る。
「やはりあなたがエリオン様を操っていたのですね」
レイラが冷静に呟く。
「卑怯な……」
「あなたを倒す為にはこうするしかなかった……」
レイラは剣を引き抜く。
「うっ」
エリオンは洗脳から解け、動きが自由になる。一旦後ろに跳ね退き距離を取る。
すぐにシュウが追撃し、戦闘が再開する。
「もう止めて、二人が戦う理由はないの!」
レイラが声を上げるが二人には届かない。
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