第43話 勇者伝説2

「レオが人間じゃないって言うの?」


 ジョエルが徳次郎に聞く。


「竜族は数少ない人間と交われる種族だ。人間と魔物の間に立てる者。だからこそ魔王が器として選んだのであろう」

「俺、人間じゃないの? 悪い奴なの?」


 レオが泣きそうな顔になる。ジョエルは可哀想になり、レオを抱き寄せた。


「レオ、人間じゃないから悪い奴ではないんじゃ。悪い心を持つから悪い奴なんじゃよ」


 徳次郎はレオの頭を撫ぜて諭した。


「レオがシュウの所に現れたのは意味が有る。勇者と一緒に人間と魔物が共存出来る世界を作りたかったのだろう」


 徳次郎はシュウに向け話す。


「魔王が死んでからはどうなったのですか?」

「続きを話そう」


 徳次郎は話を続けた。




 魔王が死んだ後、ワシは人間と魔物の共存を求めて双方を説得した。だが反発も強く簡単な事ではなかった。

 ワシは勇者の特性と鍛錬のお蔭か、人間としてありえないくらいの長生きをした。だが三百年経ち体の限界を感じたワシは古い文献で読んだ方法で異世界から人間を召喚した。

 召喚する人間を選ぶ事は出来なかったが、 エリオンは優秀だった。

 ワシの技と志を受け継ぎ、人間と魔物の共存の為に働いてくれた。だが、エリオンは妻の死によって人が変わってしまった。魔物を憎み無差別に殺し始めたのだ。

 ワシはエリオンを止めたが奴は聞き入れない。戦いの末、なんとか文献に書かれた特殊な鉱石を使い、エリオンを元の世界に送り返す事に成功した。だが、その戦いでワシも体を失った。

 今のワシは三百年に一度しか実体を再現出来ない意識体なのだ。




「ええ! 徳ちゃん幽霊なの?」


 ジョエルが驚いて声を上げた。


「そうじゃの、幽霊と言われればそうかも知れん」

「へー、こんなに実感があるのに」


 ジョエルは徳次郎のほっぺを両手で引っ張った。


「やめろよ、お前は。話の腰を折るなよ」

「うむ、続きを話そう」


 徳次郎は話を続けた。




 勇者が居なくなった事で人間同士にも争いが増えた。国家が形作られ、貧富の差も増えた。

 貧しい者の不満は、居なくなった勇者を熱望し伝説として語られ始め、宗教として定着し始める。だが、その伝説は支配者達や布教者達に良いように書き換えられ、ワシの目指した人間と魔物の共存は意味を薄められた。

 魔物の中には人間に化け、教団の中枢に入る者まで出始める。それにより、更なる弱者からの搾取や教団を利用した女性の人身売買まで起こった。

 三百年が経ち、実体化したワシはもう一人の男を召喚した。シュウの父、隆弘じゃ。

 隆弘も勇者として技能をマスターしたが、誤算だったのはエリオンが異世界トリップの秘密を知っており、同時に現れた事だ。

 隆弘は人間と魔物の共存を目指す事より、エリオンとの戦いに集中せざるをえなかった。

 隆弘は戦いに勝利したが、苦し紛れにエリオンから鉱石で元の世界に戻されてしまった。怪我を負ったエリオンも自ら元の世界に戻ってしまい、また勇者無き世界が続く。

 また三百年後、今度は歳で衰える可能性を考えた隆弘が助っ人を連れてきた。




「シュウ、それがお前じゃ」


 徳次郎がシュウを指差した。


「俺が……。どうして父さんはそれを言ってくれなかったんだろう」

「簡単に決められた道を進むのではなく、困難に立ち向かう方がシュウは成長すると考えたんじゃないか」


 過去の真実を知り戸惑うシュウに徳次郎は言った。


「レオ、ここにおいで」


 徳次郎はレオを呼び寄せた。


「レオはこのまま人間として暮らす方が良いか? それとも竜王としてシュウと一緒に戦う方が良いか? どちらかを選べ」

「え?」


 レオはそう聞かれて戸惑った。幼いレオに取ってどちらを選べば良いのか分からなかった。

 迷ったレオはシュウを見る。


「レオ、無理しなくても良い。普通の人間でも、俺やエルミーユはレオの事が大好きだからな」


 シュウは優しく微笑む。


「私も! 私もどちらでもレオの事が好きだよ」


 ジョエルはレオに近づき抱きしめた。


「俺、竜王になる。シュウやジョエルと一緒に戦うよ」


 レオははっきりと言った。


「分かった。目を閉じろ」


 徳次郎に従いレオは目を閉じる。


「レオはまだ器の状態だ。その器にワシが入り芯を入れる。安心せい、それでもレオはレオのままだから」


 そう言うと徳次郎は両手でレオの顔を挟むように掴んだ。


「さらばじゃ」


 そう言うと徳次郎は煙になりレオの中に入っていく。


「老師!」


 シュウが駆け寄った時にはもう姿は消えていた。


「レオ大丈夫か?」

「大丈夫。さあ、早く行かないと」

「行くってどこに?」

「タルミのおじさんを助けに行くんだよ」


 そう言うとレオは家から出た。

 レオの後に付いて家を出るシュウとジョエル。庭でレオは天を仰いでいる。


「見ていてね」


 レオの体が変化していく。首が伸び、体が大きくなり、尻尾と翼が生えてくる。


「本当にこれがレオなのか……」

「さあ、俺の上に乗って」


 レオは体長十メートル程度のドラゴンになっている。

 シュウとジョエルはレオの上に乗った。


「行くよ」


 シュウとジョエルを乗せたレオは翼をはためかせて空に舞い上がった。




 ダラム内の国境付近、チェスゴー正規軍が野営している。中心のテント内でアーロルフとエリオンが対面していた。


「どうして味方であるタルミ卿を潰さないといけないのですか」


 アーロルフはエリオンに食って掛かった。


「彼は私の命令も無しに自軍をダラムに派兵しました。立派な謀反人です。それが分かっているからこそあなた達は動かなかったのでしょう」


 エリオンは平然と反論した。


「ダラム国王のラスティン様とも話がついています。タルミを討てばチェスゴーへは派兵しないと」


 アーロルフはエリオンの言葉が信じられなかった。ターバラを攻略したダラムがチェスゴーを見逃してくれるなんて事が有り得るのかと。


「さあ、サザランドが攻略されるまえにタルミを討ち取ります。夜を徹して進軍してください」


 エリオンはアーロルフに指示した。

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