第33話 超怒級打撃・ギガトンパンチ
「おい、こんな可愛い娘達がミンチになるなんて辛いな」
顔の大きい魔物がハンナの前に立ち塞がる。
「ミンチに出来ると思うなら来てみなよ。その大きな顔を丸焦げにしてあげるから」
「おい、威勢がいいねえ」
大顔は残忍な笑顔を見せ、大きな顔がさらに大きく伸びた。その顔を、ハンナを潰す為にハエ叩きのように床に叩き付ける。
「クッ」
ハンナは後ろに飛び退く。
大顔は追撃で何度も何度も顔を床に叩き付け、テーブルや椅子など会議室の中の物も構わず壊し続けた。レイラとエルミーユも大顔の攻撃から逃れる為に後ろに飛び退く。
「|赤い雫(ファイシャワー)」
ハンナが隙を見て、顔を目掛けて魔法を放つが全くダメージは与えられない。
「おい、無駄な事をするなあ。俺の顔はオリハルコン並に固くてその程度の魔法なんて蚊が刺した位にしか感じないぜ」
大顔は尚も顔を振り回して攻撃してくる。大したスピードも無く攻撃自体は単調だが、パワーと迫力に三人は押されてしまう。
「私は大丈夫だから、レイラも戦って」
エルミーユの言葉を聞いた瞬間にレイラは動き出した。
「|氷の秘剣(アイスソード)」
レイラは一瞬の内に氷の剣を作り出し、大顔に切り付ける。
だが、剣は大顔を切り裂く所か、顔に当った瞬間に真ん中から折れてしまった。
「まさか……」
レイラは驚いて折れた剣を見る。
調子に乗った大顔の攻撃は続き、壁までぶち壊し三人諸共中庭に出てしまった。
「じゃんけんぽん、あいこでしょ」
「おい、お前ら何をしているのだ?」
足が異常に長い魔物は、目の前でアリアとモニカの姉妹がジャンケンを始めた事を不思議がった。
「やった! じゃあ私の獲物ね」
モニカがジャンケンに勝って嬉しそうにはしゃいだ。
「おい、もしかして俺を舐めているのか?」
「お前の方こそ私を舐めたいんじゃないのかい? 土下座して頼むなら靴ぐらいは舐めさせてあげるよ」
ボンテージファッションのような服を身に着けたモニカが、淫靡な表情を浮かべて唇を舐める。
「おい、お前後悔するぞ。|鞭脚乱舞(レッグダンス)」
足長は足を鞭のようにしならせながら早い回転数で蹴りを入れてくる。
「きゃっ!」
モニカはかわし切れずに蹴りを受け、後ろに飛ばされた。
「おい、俺の実力が分かったか」
足長は得意げな顔をしてモニカを見下した。
「痛ったーい……」
「情けないねえ。代わってあげようか」
アリアが、立ち上がって腰を擦るモニカを馬鹿にする。
「私に恥を掻かせた罪は重いよ」
モニカは両方の角を持ち、引き抜いた。両手に持った角からは何本もの鞭が伸びている。
それを見た足長はまた鞭のような蹴りを入れる。
「|女王様とお呼び(コールミークイン)」
モニカは両手を同時に振るった。左手の鞭は足長の攻撃を全て弾き飛ばし、右手の鞭は足長の体に巻き付いた。
「他愛のない奴」
「ぎゃあー!」
モニカが鞭を引き戻すと、足長は全身の皮膚が破れ血まみれになって倒れた。
モニカは息も絶え絶えの足長の顔を踏みつける。
「さあ、靴をお舐め」
「すぐに出て行くなら見逃してやっても良いぞ」
アルテリオは面倒くさそうな表情で、手の長い魔物に言った。
「おい、許して欲しいなら土下座して謝るんだな」
手長はアルテリオの言葉を意にも介さず、挑発する。
「しゃあねえな。相手してやるから来なよ」
アルテリオは欠伸をしながら大きく伸びをした。
「爆弾打撃(ロケットパンチ)」
手長はそう叫んで左のパンチを放つ。左腕はゴムで出来ているかのように真っ直ぐ伸びて来る。
間合いが掴みにくいが、スピード自体はたいした事もない。
アルテリオは少し体を開き、パンチを難なくかわした、と思った瞬間。後頭部に強い衝撃を受けて前に倒れ込んだ。
アルテリオは何が起こったのか理解出来なかった。衝撃を受けた頭が重く、ゆっくりと立ち上がる。
「爆弾打撃(ロケットパンチ)」
またも手長が左腕を伸ばす。アルテリオはパンチをかわす瞬間、手長の右腕の肘から先が無い事に気が付いた。
「ぐっ」
今度は左の脇腹に衝撃が走る。
だが、今度は衝撃の元を確認した。手長の肘から外れた右腕が脇腹にめり込んでいたのだ。
「そう言う事か……油断し過ぎたぜ」
今度は倒れ込まずに踏ん張った。
「超金剛力(スーパーハードモード)」
アルテリオの体が|金剛力(ハードモード)よりさらに黒く硬く変質した。
「爆弾打撃(ロケットパンチ)」
手長が|三度(みたび)左腕を伸ばし、右腕を飛ばして来る。
だが今回は、アルテリオは少しもかわす事はせず、左腕も右腕もどちらもそのままの威力で体に受けた。
「俺はよ、単純馬鹿だからこんな技しか持っていないけど、自分に良く合っているんだよな」
アルテリオはパンチのダメージを全く受けていないようだった。
「爆弾打撃(ロケットパンチ)」
手長はもう一度攻撃するが、全く効果が無い。
アルテリオは平気な顔でどんどん手長に近寄って行った。
「残念だったな。お前位の攻撃力ではこのアルテリオ様は倒せねえよ」
アルテリオが手長の目の前まで来て、右の拳を振り上げた。振り上げた拳が|怒級打撃(メガトンパンチ)よりさらに黒く硬く変質していく。
「超怒級打撃(ギガトンパンチ)」
アルテリオの拳が手長の顔面を捉えた。
拳の衝撃で床が円形に大きくへこみ、その中心には手長がめり込んでいる。
「お前は、俺に当ったのがついてなかったんだよ」
アルテリオは床のへこみに向って哀れみを込めて言った。
大顔とシスター達の戦いはまだ続いている。
大顔の攻撃は庭に穴を開けるだけで単調だが、ハンナとレイラの魔法もダメージを与える事は出来ない。
エルミーユは逃げながらも、何か策はないかと考えていた。
二人の魔法も避けながらなので威力の高い魔法は使えない。当っても、硬い顔に阻まれてダメージを与える事が出来なかった。
硬い顔を何とかしないと……。
「そうだ!」
エルミーユは閃いた。
「レイラ、私が敵を引き付けるから強い氷系の魔法を唱えて。ハンナ、私と一緒に敵を引き付けて」
レイラとハンナはエルミーユの言葉に従った。こう言う手詰まりの時にエルミーユのアイデアは頼りになるのだ。
「こっち、こっち」
ハンナが手を叩き引き付ける。
「こっちよ、こっち」
エルミーユも手を叩いて挑発する。
大顔は挑発に乗り顔を右や左に振り回す。
何度か繰り返した後、レイラの準備が出来たようだ。
「|極点の吹雪(スーパーブリザード)」
強力な氷の粒が吹雪となった大顔の頭上から降り注ぐ。
「今度はハンナが炎系の魔法を唱えて」
ハンナはエルミーユの指示に従った。
吹雪が大顔を埋めつくしそうになったが、大きく顔を振るわせ抵抗する。半分凍った状況で大顔が姿を現した。
「|地獄の劫火(ヘルズボム)」
ハンナの両腕から凄まじい勢いの火炎が大顔に向けて放たれた。シュウと出会った時に放った物とは勢いが違い、ハンナの成長が感じられる。
「ぐわわわ!」
大顔は苦しみ、その顔に亀裂が走った。温度が下がり切った状態から急激に熱したので、熱膨張に耐え切れず亀裂が出来たのだ。
「レイラ!」
エルミーユの掛け声の前に、もうレイラは動き出していた。手には氷の剣が握られている。
「ハッ!」
掛け声と共にレイラは亀裂に剣を突き刺す。
「ぐっ……」
亀裂から血が噴き出し、大顔はその場に崩れ去った。
「やった!」
ハンナとエルミーユがレイラの元に駆け寄る。三人のチームワークの勝利だった。
「お嬢、大丈夫か?」
アルテリオ達三人が、シスター達を心配して中庭まで出てきた。
「私達は大丈夫。それよりお父さんは?」
皆が部屋に戻ると、エリオンの作った箱はそのまま宙に浮いている。今も隆弘とエリオンはあの中で戦っているのだ。
皆は心配そうに箱を見詰めた。
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