第24話 ファーストコンタクト
隆弘はアリアを自分から抱き締めた。アリアの着ている薄いシースルーのドレスを通して、体の柔らかい部分を全身で感じる。
アリアの頭を押さえ、乱暴に唇を奪う。逆効果だと分かっているのに舌と舌を濃厚に絡め、唾液を交換する。
「うっ……」
アリアの手が下半身の熱い部分に触れ、声を漏らしてしまった。
「ふふ、意外と可愛いのね」
アリアが淫靡な笑顔で隆弘を嗤う。
だが、隆弘はもう馬鹿にされているとかどうでも良かった。このまま欲望に身を預けて滅茶苦茶に抱いてしまいたい。
アルもモニカも責めはしないだろう。元々そうするつもりだったんだし。
隆弘はアリアをベッドに押し倒した。アリアも抵抗する事無く、むしろ自分から隆弘に抱きつく。
体全体が熱い、抱いているアリアの体は柔らかく気持ち良い。首筋にキスをし、胸をまさぐった瞬間、隆弘の脳裏に妻である裕子の顔が浮かんだ。
隆弘の動きが止まり、手を胸から外した。
「どうしたの。ここまで来て怖気づいた?」
アリアはそう言うと隆弘の下半身に手を伸ばした。
「うう……」
全身に快感が走る。
堪らず隆弘はまたアリアの体を抱きしめる。その時、「お父さんは向こうの世界に奥さんが居るんだよ。絶対に駄目!」と叫ぶハンナの顔が浮かんだ。
「うわああ!」
隆弘はベッドから飛び退いた。
「どうしたの?」
アリアが驚いて隆弘を見る。
隆弘は自分の太ももを思いっ切りつねり上げた。
「痛てええ!」
鉄の鎖を千切る隆弘の力でつねり上げたのだから、皮膚は破け、肉は千切れ、血が滴った。
「何してるのよ、血が出てるじゃない!」
驚いたアリアが隆弘に近づく。
「俺はお前を抱く事は出来ない」
隆弘はなおも太ももをつねり続ける。
「どうして、そうまでして抱きたくないくらい私は汚いとでも言うの?」
「違う、こうでもしないと抱いてしまうくらいお前は魅力的なんだよ……」
「だったらなぜ? モニカだって本当はあんたが私を抱くと思っているよ!」
アリアは隆弘の気持ちが分からず、責めた。
「俺には待っている女(ひと)が居る。信じてくれている娘もいるんだ」
「そんな者の為に快楽を捨てられる訳が無い。お前は私を抱くよ」
アリアは隆弘を抱き締め、下半身をまさぐった。
「いや、お前は知っている筈だ。モニカを見ているからな。大切な人が居るって事がどう言う事か、知っていて認めたくないだけなんだ」
「うるさい!」
怒りで興奮したアリアは魔物本来の姿に変わり、角が生え髪の毛の色も金髪に変わっていた。アリアは意地になって隆弘の体にキスをしたり、硬くなった下半身を手で刺激したりする。
だが逆に、隆弘はそんなアリアの姿を見て冷静になった。
「大丈夫だ」
隆弘はアリアを強く抱き締めた。
「お前にもきっと、モニカにとってのアルテリオのような奴が現れる。心配しなくていい」
隆弘がそう言うと、アリアは大きな声で泣き出した。
「私……モニカ、モニカが憎かった訳じゃ……」
アリアは言葉が続かなかった。きっと二人は本当に仲の良い姉妹だったのだろう。
隆弘はアリアの頭を優しく撫ぜた。
しばらくしてアリアが落ち着くと、抱きかかえてベッドに寝かし、自分もその横に寝転んだ。
隆弘はアリアを抱き締めたまま、眠ってしまった。
翌朝、隆弘が目覚めると横にアリアの姿は無かった。
ベッドを降りて立ち上がろうとすると太ももに痛みが走る。昨晩、気を紛らわせる為につねり傷付けた場所が痛んだのだ。
隆弘が太ももを見ると、布が巻かれて止血されていた。
「これは……」
この布地に見覚えがあった。血で染まって色が変わっているが、昨晩アリアが着ていたドレスの切れ端だ。
「あいつ……」
淫乱にしか見えなかったアリアの女性的な一面を見て、隆弘は心が和んだ。
部屋を出てアリアを探すが姿は見えない。アリアに会わないといけない。肝心のシュウの居場所を聞いて居ないのだ。
広間に行くとモニカが居た。
「アリアを見なかったか? 朝には居なかったんだが」
モニカは隆弘の顔を見るとにやりと笑った。
「やるねえ、タカ兄。姉さんから聞いたよ。我慢して抱かなかったみたいね」
「そりゃあ、俺は愛する妻が居るからな」
「ホント、お父さん!」
いつの間にか部屋に入って来たハンナは、二人の話を聞いていたのか嬉しそうに隆弘に駆け寄ってきた。
「本当だよ。これ見てみろよ」
隆弘は足を上げ太ももを見せた。
「うわ、酷いね。ちゃんと治療しなきゃ! モニカさんお薬ある?」
ハンナはモニカに薬の場所を聞いて取りに行った。
「アリアはシュウの居場所は教えてくれたのか?」
「もちろん。それは大丈夫」
隆弘はハンナに治療して貰いながら、後から来たアルテリオと一緒に皆で、情報を聞いた。
シュウは今、チェスゴーの小さな漁村シエランにいた。シスターと一緒に漁の手伝いをしながら夫婦のように暮らしている。最近小さな男の子の孤児も一緒に暮らしていて、まるで家族みたいに見えるそうだ。
「夫婦みたいに……」
ハンナが呟く。
エルミーユと一緒に居る事が分かり隆弘は安心したが、ハンナにしてみれば夫婦のように暮らしていると聞いたのは少なからずショックだった。
隆弘はハンナに言ってあげる言葉が見つからず、肩に手を置いた。
「ただ、一つ問題が有るの。この情報は北の地に降臨した勇者、エリオンも知っていてもう向っているらしいの」
「エリオン!」
アルテリオが声を上げた。
「アル、エリオンって奴を知っているのか?」
「ああ、でも一番知っているのは兄貴自身だけどな。エリオンは三百年前に兄貴と勇者の座を争った二代目の勇者なんだ」
「ええ!」
隆弘とハンナは同時に声を上げた。
「俺もモニカも一緒に戦ったが、それ以上は詳しく知らない。だが、今回もエリオンがこの世界に来ているのなら、若の命を狙って来る筈だぜ」
「じゃあ、急いで行かないといけないな」
隆弘がそう言うとモニカはすぐに動き始めた。
「すぐに出発の用意をするよ」
四人はチェスゴーの漁村シエランに向けて、その日の内に旅立った。
エリオンは聖シスター二人と騎士十人を連れて、シエランのメイン通りの広場に到着していた。
少人数なのはスピードを重視した為で、実際勇者同士が戦えば騎士が何人居ても意味がないとエリオンは思っていた。
「あの、勇者様がお着きになったと伺いましたが、こんな小さな漁村になんのご用でしょうか?」
村の代表として漁師の親方がエリオンの前に進み出た。
「ここに記憶を無くした男とそれに付き添う若い女の夫婦が居ると思うが」
エリオンは親方に何の感情も篭らない声のトーンで聞いた。
親方は正直に話すべきか迷った。あの二人が罪人だとは思えない。だが、こうして最近国内で噂の勇者様本人が、わざわざこんな小さな村まで出向くと言うのは余程の事だろう。出来れば二人が無事に済むようにしてやりたいと親方は考えていた。
「その二人は何かの罪人なのですか?」
「それはあなたが知る必要はない。ここに連れて来てくれれば良いのだ」
親方は仕方がなくシュウとエルミーユを呼ぶしかなかった。
シュウの仕事が終わり、エルミーユとレオの三人で食事をしていると、ドアが激しく叩かれた。叩いていたのは、親方に指示されて来た村の主婦だった。
「勇者様が村に来て、あんた達夫婦を出せって言っているんだけど」
主婦は早口で用件をまくし立てた。
「勇者が?」
シュウとエルミーユは顔を見合わせた。
「もし、捕まるとまずいのなら今の内に逃げなよ。私達でなんとか時間を稼ぐから」
主婦は親切にそう言ってくれた。普段からシュウ達が好意的に思われていた証だろう。
「ありがとうございます。でも村の皆さんに迷惑が掛かります。俺が行ってみます」
「シュウ、私も行きます」
「いや、エルミーユはここでレオと一緒に残ってくれ。俺に何かあれば二人で逃げて欲しい」
「嫌です! シュウを残して二人だけでなんて」
「そうだよ、俺も嫌だよ」
珍しく素直な二人がシュウの言う事を聞かない。
「大丈夫必ず戻るから。念の為だよ」
そう言ってシュウは二人を家に残し、広場に向った。
広場に着くとシュウは白馬に跨るエリオンの前に進み出た。
「あなたが俺を探している勇者か?」
「お前、タカじゃないのか?」
エリオンはシュウの顔を見て驚いている。
「タカ? 誰の事だ。人違いなら俺は戻るぞ」
シュウは踵を返し立ち去ろうとする。
「待て、お前はターバラにトリップして来た異世界の人間だろ?」
「さあ、俺は記憶をなくしているんだ。知らないな」
歩き出したシュウの前に騎士の一人が馬を回し退路を防ぐ。騎士は馬を降り、シュウに近付いて来た。
「貴様、エリオン様の質問に答えんか!」
騎士が伸ばして来た手を、シュウは難なくかわす。
「貴様……」
騎士は怒り、剣に手を掛けエリオンをちらりと見た。エリオンは黙って頷く。
騎士は剣を抜き取り、シュウ目掛けて打ち下ろす。騎士は普段から鍛練に励みそれなりの腕前なのだろうが、所詮は普通の人間だ。異世界に来て超人的な身体能力を持つシュウには動きがスローモーションのようにはっきりと見える。
シュウは振り下ろされた剣をかわし、騎士の腹を蹴り上げた。手加減はしていたのだが、騎士は自分の身長程宙に浮いた。
「やはりお前は異世界から来た人間なんだな」
エリオンは確信して馬から降りた。
エリオンは地に降り立つと腰から剣を鞘ごと抜いてシュウの前に投げた。
「使えよ」
エリオンは不敵な笑顔を見せた。
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