第6話 シスターは後2人いる
隆弘とハンナは山に入る前に装備を整えた。
食料と水や防寒衣服はもちろんだが、隆弘は『蜥蜴王の篭手』も装備した。
「例の蜥蜴のおっさんがくれた篭手だね」
「そうだ、山に入れば爬虫類の情報が必要になるかも知れんからな」
準備が完了し、教会の人間に馬車の操作を頼み出発した。
麓に到着するとそこに馬車を待たせた。
伝説によると山頂付近で「不見草」を発見した記述がある事から、それを目指して隆弘とハンナは山に入って行った。
「お父さん危ない!」
ハンナが前を歩く隆弘に注意する。
「ええ、どこよ?」
「その右手の前にある雑草。それ触れるだけでしびれがくる毒草だよ」
「ええ!」
「もう、私が前を歩くよ。お父さんは後ろから付いて来て」
ハンナは隆弘を押し退け前を歩き出した。
「ハンナもエルミーユも凄いな。知識は豊富だし、行動力もあるし」
「だってそうじゃなきゃ今ここに居ないよ」
ハンナは剣で道を作りながら、隆弘を振り返りもせず応える。
「優秀じゃなきゃここに居ないって事か?」
「そう、凄い競争率を勝ち抜いてここに居るんだから」
「そんなに凄いのか?」
「二百人以上の中から四人だけなんだよ。聖シスターに選ばれたのは」
「四人?」
ハンナの足が急に止まり、隆弘はぶつかりそうになった。
「急になんだよ。びっくりするな」
「私、四人って言った?」
ハンナが振り返って尋ねる。
「言ったよ、四人って。ハンナとエルミーユの他に二人居るのか?」
「……」
ハンナは考え込んで、しばらく沈黙が流れた。
「まあ、言えねえ事なら無理には聞かんよ。先を急ごうか」
「いや、言うよ。絶対に秘密にしないといけない事じゃないし」
隆弘とハンナは休憩がてら岩に座り話をした。
「残りの二人はレイラとジョエル。二人とも飛びっきり美人よ」
こいつ何気に必要な情報を入れてくるな。出来る奴だ。
「わたし達四人は聖シスターと呼ばれ、一人の大教皇さまと二人の教皇様の、教団のトップ三人のすぐ下の位を与えられているの」
「二人とも、三国全てに影響力を持つ教団でそんなに偉い人だったのか」
「勇者様に仕える以外は何の権限もない名誉職みたいなものだけどね」
「で、レイラとジョエルって娘はどこに居るんだ?」
「教団で凄く信頼されている占い師のばあさんが居てね……」
ばあさんってハンナの言い方に悪意を感じる。仲が悪いのだろうか。
「そのばあさんが言ったのよ。北の国チェスゴーと南の国タバーラに大いなる力が同時に降臨するって。そのばあさんもいい加減なんだよ、そのどちらかが勇者でどちらかが魔王だって」
「じゃあ、ハンナとエルミーユはタバーラに行き、レイラとジョエルはチェスゴーに行ったのか」
「そう言う事。混乱させたくないから、シュウとお父さんにはまだ黙っていようと話していたんだけどね。レイラ達が心配だよ。早く連絡が入ると良いんだけど……」
そう言う事だったのか。
と言う事は、二人はシュウに会うまでは勇者かどうか分からなかったって事か。
隆弘はふと、今はどうなんだろうか、と疑問に感じた。
「ハンナとエルミーユはシュウの事を勇者と思っているのか?」
「え? それどう言う意味……」
隆弘の疑問に、ハンナは何を言っているのか分からない顔をしている。
「いや、シュウに会う前は勇者かどうか分からなかったんだろ? 今はどうなのかと思って……」
ハンナの顔に怒りの色が現れた。
「当たり前でしょ! そんなの確認する事なの?」
ハンナは悲しそうな顔になった。
「シュウとお父さんを初めて見た時、悪意の欠片も感じなかった。話をしてこの人は優しい人だ、勇者なんだと思った。一緒に過ごしてそれが確信に変わった。信じていないのなら今頃はもう一緒に行動していないよ!」
しまった。これは失言だった。
隆弘は後悔した。ハンナに信じているか確認するって事は、俺がハンナを信じていなかったって事だ。彼女を侮辱してしまった。
「すまん、ハンナ。軽い考えで君を侮辱してしまった。許してください」
隆弘は年長者としてのプライドなど関係なくハンナに心から頭を下げた。
「もういいよ」
ハンナの怒りは収まっていないが、隆弘が反省している事は伝わった。
「いや、このままでは気が済まない。俺を殴ってくれ」
隆弘はハンナが殴りやすいように膝を曲げ顔の位置を低くした。
ハンナは怒りが収まらず膨れっ面をしていたが、けじめとして隆弘の提案に乗ることにした。
「いいんだね。お父さん」
「ああ、思いっきりやってくれ」
隆弘は目を閉じた。
「じゃあ、これは馬鹿なお父さんを持って可哀相なシュウの分!」
パーンと隆弘の頬にハンナの右平手打ちが飛んだ。
「次は、一途な心で皆を支えてくれるエルミーユの分」
次は左手で平手打ちした。
「最後はこんなに悲しい気持ちにさせられた……」
ああ、これなんか見た事ある。もしかして百裂が……。
「私の分だー!」
パンパンパンパンとハンナの平手打ちが右左、無数に飛び交った。
「今度言ったらこんなもんじゃ済まないからね」
「ありがとうございますう……」
隆弘は両頬を真っ赤に腫らし、涙ながらにお礼を言った。
隆弘とハンナは山頂を目指して山登りを再開した。
木が生い茂った山道を歩いていて、鋭くなっている隆弘の五感が異常を察知する。
「危ない!」
前を歩くハンナの体を引き寄せ、体に向かい伸びて来た物体を左の前腕部で受け止めた。
伸びて来た物は鋭い爪の付いた熊の腕だった。
「|赤い雫(ファイシャワー)」
体勢を立て直したハンナが、猛り狂う熊の顔を目がけて、つぶ状の炎を浴びせた。
熊は一瞬怯んだが更に怒り出し腕を振り回した。
「|狂戦士化(バーサーカー)している!」
熊は何かに操られたように暴れまくっている。簡単な魔法では止まりそうもない。
「お父さん、呪文を唱えるから足止めお願い!」
「分かった! だが、殺すなよ動物だからな」
「了解!」
ハンナは呪文を唱え出し、隆弘はハンナの邪魔をさせないように熊の前に立ちはだかった。
「グァ!」
熊が叫び声と共に、隆弘に向かい腕を振り下ろす。
隆弘はその腕を右腕の篭手で受け止める。
もう片方の腕が隆弘を襲う。
隆弘はその腕も左の篭手で受ける。
熊の両腕を外側に弾き、一瞬の隙を突いて、熊の懐に入り込む。
「よし、抑えたぞ」
隆弘が熊を抑えた時、ハンナの呪文も唱え終わった。
「|爆圧弾(ショットボム)」
ハンナの腕から大きな塊の赤い球が飛び出し熊の顔面に命中する。熊は倒れ込み、気を失った。
「命は大丈夫なのか?」
熊の顔を覗き込んで隆弘が言った。
「温度は下げて、圧力でダメージを与えたから命は失わないよ」
「そうか、それなら良かった。魔物じゃない動物を殺すと寝付きが悪くなるからな」
「でもこの熊は普通の状態じゃなかったよ。普通なら最初の魔法で逃げ出すからね」
隆弘は考え込んで腕を組んだ。
「そうだ、この篭手を使おう」
「もしかして爬虫類を呼ぶの?」
ハンナが嫌そうな顔をする。
「そうだ、嫌なら少し離れていろよ」
ハンナは隆弘から少し距離を開け、それを確認した隆弘は両手を上げた。
「出でよ、ヘビ!」
何も変化が起こらない。適当に言った言葉が違うのだろうか?
「トカゲよ、我に力を貸したまえ!」
もう一度両手を上げ叫んでみたが何も起こらない。
「お父さん本当にその言葉で合っているの?」
「いや……たぶん……」
隆弘は段々自信が無くなってきた。
「そんな事しなくても足元にいるぞ」
「うわあ!」
隆弘は足元で声がしたので驚いた。地面を見ると大蛇が鎌首を擡げていた。
「居たのかよ!」
「麓からずっとな」
なら声ぐらい掛けろよと隆弘は文句の一つも言いたくなった。
「この熊が狂ったように暴れていたんだが、理由は分かるか?」
「この熊は魔に操られていたのだ。ここから山頂に向けて魔の影響はさらに濃くなっている。このまま進めば同じような目に遭うだろう」
やはり普通ではなかったのか。
「今この草を探しているんだが、どこに生えているのか知っているか?」
隆弘は村で書いて貰った絵を大蛇に見せた。
大蛇は絵を口に咥え、周りに見えるようにぐるりと回した。すると横の茂みから一匹の蛇が現れて、何やら大蛇と意思の交換をしているようだった。
「この草が欲しくば、山頂北側の崖から下を見ろ」
「それで手に入れられるのか」
「大丈夫だ。そこまで無事に行けたらな」
「ありがとう。じゃあ行くよ」
隆弘はハンナに情報を伝え、山頂目指して歩き出した。
「おい、ワシの言う事を聞いていたのか?」
「分かってるよ。だが、俺達は家族の為に行くんだ。無理は承知の上だ」
「そうか。なら言うまい。無事を祈ってやるわ」
大蛇はそう言うと姿が見えなくなるまで二人の後姿を見ていた。
「奴らならもしかして……」
エルミーユはいつまで経っても目を覚まさないシュウに焦りを感じていた。
「このまま目覚めなければどうしよう……」
心配でシュウの手を取った。
「え?」
シュウの手は驚く程冷たかった。胸を触っても冷たい。脈も弱い気がする。
このままじゃ駄目だ。
エルミーユは決心し、部屋の鍵を掛け、衣服を脱ぎ全裸になった。
そのままシュウのベッドに入り、肌で体を温めた。
「お願い体力を取り戻して」
何度も何度も呟きながら肌を合わせた。
「ハンナ、左だ」
「|炎の閃光(ファイフラッシュ)」
隆弘が指示するとハンナが指先から赤い閃光弾を放つ。
「ギギッ」
閃光弾に目をやられたサルの集団が呻いた。
「よし、逃げるぞ」
二人は全力で山を駆け上がる。
少し離れたのを確認して息を入れた。
山頂に近付けば近付く程、何かに操られた動物達に休む間もなく襲われる。
「こんな次から次へと来たら切りが無いよ」
ハンナが肩で息をしながら愚痴る。
「しゃーないよ。全て殺して進む訳にはいかんからな」
そう言ったものの隆弘もいい加減疲れてきた。
「元凶の魔物を倒さない限り、山頂には辿り着けんぞ」
隆弘の足元で声がした。「蜥蜴王の篭手」で呼び寄せた大蛇が鎌首を擡げている。
「ああ、付いて来てくれたのか。あんたは魔の影響を受けないのか?」
「ワシは元この山の主だからな。魔を撥ね返すぐらいの霊力はある」
「元って事は魔物にその座を奪われたのか」
「鋭いのう。頼む、居場所は教えるから奴を退治してくれ。二人にとっても悪い話じゃないだろ」
確かに大蛇の言う事も一理ある。ここは乗る方が良いかと隆弘は思った。
「分かった。退治出来るかどうか分からんが、行ってみるので場所を教えてくれ」
隆弘とハンナは大蛇に教えられた、魔物の居場所に向った。
「この木か」
隆弘は周りの木と比べても一際目立つ大木を見上げた。
「魔物はどこに居るの?」
ハンナは周りをキョロキョロ見回した。
「元主の言うにはだな……」
隆弘は拳を振り上げて、大木を力一杯殴った。ゴンと大きな音が響き渡った。
「こうすりゃ良いらしい」
しばらくすると大木からうめき声が聞こえてきた。
「誰じゃ、私の眠りを妨げるのは……」
大木から人の形が浮かび上がり、やがてそれは実体化した。植物と人間が混ざり合ったような魔物で女性に見えるがサイズは人間の二倍は有りそうだ。
隆弘とハンナは慌てて後ろに飛び退いた。
「ガリウス……」
ハンナが魔物を見て呟いた。
「この魔物を知っているのか?」
「やばいよ、お父さん。S級レベルだ」
ハンナの顔に緊張が走る。
「強いのか?」
「私の最強の魔法でないと倒せないと思う」
「誰が誰を倒すと言うんだい」
ガリウスが耳まで裂けた口を開いて笑う。
「俺が時間を稼ぐから、その最強の魔法を頼む」
「無理しないでね。駄目なら撤退も有りだから」
相談を終え、ハンナは後ろに下がった。
「その娘は神聖なるシスターだね。食べれば私の魔力が上がりそうだ。お前は……」
ガリウスは目の前に居る隆弘の顔を見て驚いた。
「お前は何者だ? 只の人間じゃないね」
「俺か? 俺はスーパーマンだ」
呪文を唱える間の時間稼ぎで良いんだ。自分から攻めることはない。
隆弘はハンナを背中で庇い、ガリウスと対峙した。
「呪文の間の時間稼ぎをしようと言うのかい。可愛いね。お前ごとき、三秒も持たないよ」
「何だと!」
「ハッ!」
ガリウスの手の平から、緑の水の塊が放たれる。
「ぐうっ」
水の塊は避ける間もなく、隆弘の胸に命中する。大きい鉄球を胸で受けたような衝撃で、異次元でなければ死につながっただろう。
衝撃で隆弘は後ろに飛ばされた。
「お父さん!」
ハンナが呪文を中断して駆け寄る。
「俺の事は構うな。お前だけでも逃げろ」
隆弘はハンナに必死の思いで指示すると、意識を失った。
「単独の魔法使いなど私の敵ではないわ」
立ち上がったハンナに、ガリウスは何度も何度も水の塊を放し続ける。ハンナは逃げるのがやっとだった。
二人の戦いの脇で、気絶している隆弘の体が発光しだし、やがて大きな光を放った。
「クッ、逃げ足の速い小娘め!」
ガリウスは忌々しく言った。
「お前、俺の可愛い娘に何してくれてんの?」
「誰だ」
ガリウスが声のする方を見ると、隆弘が立ち上がっていた。
隆弘は先程とは別人のように顔付きや態度がふてぶてしくなり、体まで大きくなったように錯覚するぐらいだった。
「なんだ、漸く俺の出番かと思ったら相手はS級レベルじゃねえか。この程度の相手でピンチなのか」
隆弘はやれやれと言った表情で言った。
「お父さん大丈夫なの?」
ハンナが隆弘を見て叫んだ。
「ハッ!」
ガリウスはハンナの隙を突いて、水の塊を放った。油断したハンナが逃げ切れないと感じた瞬間、目の前に隆弘が瞬間移動したかのように現れて、水の塊を手の平で受け止めた。
「お父さん!」
「チンケな技だな。水鉄砲かこれ」
隆弘は退屈そうに、手を振り水滴を落としている。
「きさま……」
起こったガリウスは水の塊を次から次へと隆弘目掛けて放った。
隆弘は手で防ごうとせず、水の塊が体に当るのも無視してガリウスに近付いて行った。
「暑いから丁度いいな」
「馬鹿にしやがって……」
ガリウスは屈辱で顔が歪んだ。
「我が最強の技を受けてみろ! 緑力弾(りょくりょくだん)」
隆弘の頭上に大きくて重そうな、水の立方体が出現し、ガリウスの掛け声と共に落下した。隆弘の頭上に数十トンが圧し掛かり、プレスされてしまうとハンナが考えた直後、立方体は頭に当った瞬間に見る見る蒸発してしまった。
「S級レベルならこの程度か。まるで大道芸だ。俺と遊びたかったらSS級の二,三匹連れてくるんだな」
隆弘はガリウスの目の前に着くと恐怖で動けない相手にこう言った。
「成仏させてやるよ」
隆弘は金色に輝く右拳を振り上げた。
「|光滅却(ホーリーナックル)」
隆弘は右の拳をガリウスの腹に叩き込んだ。ガリウスは見る見る内に霧となり、空気中に消えていった。
「ハンナ、怪我はないか?」
隆弘はハンナに近付き優しく声を掛けた。
「お父さん……お父さんなの?」
姿形は同じだが、ハンナには目の前の男が隆弘だとは信じられなかった。
「そうだ。お父さんだよ。正確には、お父さんの中に自ら封印していた先代の勇者が覚醒した姿だ」
「先代の勇者様?!」
ハンナは素っ頓狂な声を上げた。
「まあ、驚くのも無理はない。世界を救い、元の世界に戻ってまた三百年後のこの世界を救いに戻ってくる。勇者とはそう言う存在なんだ」
「じゃあ、世界を救った勇者様は全て同じ人なんですか?」
「いや、俺は三代目勇者だから全て同じ人って訳じゃない。シュウは四代目勇者なんだ」
「今回の勇者じゃないあなたが何故ここに居るのですか?」
ハンナは混乱していた。今まで信じて来た物が崩れ去りそうで怖かった。
「俺は親馬鹿だからな。シュウが一人で異世界に行くのが心配だったんだよ。かと言って先代勇者としてべったり付いていたら、シュウも成長しないだろ。そこんとこの加減が難しいんだ」
「そうなんですか」
「だから俺は隆弘が気絶しないと出てこない。ピンチの時だけ助けるようにしたいんだ。だからハンナも他の人間には黙っていて欲しい」
「黙っているのは良いんですけど、先代勇者様に出て来て欲しい時にはどうすれば良いんです? お父さんが気絶するタイミングは難しいですよ」
「その時はだな。ハンナが「あー間違っちゃった」とか良いながら死なない程度に、俺に魔法をぶつけてくれれば良いんじゃないかな」
「私はどんなにドジっ娘なんだよ!」
ハンナの抗議も先代勇者は笑って受け流す。
「しかし、今回のシスターは可愛い娘ばかりでつぶ揃いだな。前回とは大違いだ」
「え? そ、そんな……」
褒められてハンナが赤くなった。
「殆ど図書委員みたいな奴らばかりで……」
「何なのよ図書委員って! あんたの中でどんなイメージなのよ」
「一人だけだな、素晴らしい女性は」
先代勇者は昔を懐かしむように遠くを見つめた。
「まあ、ハンナはシュウをしっかり支えてやってくれ。奴は優しい。良い勇者になるよ」
「分かりました。先代勇者様に誓います」
「良い娘だ。じゃあ、俺は消えるから。隆弘もよろしく頼む。気絶は良いけど殺すなよ」
そう言い残すと隆弘はまた気を失ってしまった。
「お父さん、起きて、大丈夫?」
隆弘は体を揺すられて目が覚めた。
「うう……あれ、ハンナ?」
隆弘は目の前のハンナを見てもまだ状況が良く分からないみたいだった。
「大丈夫? お父さん」
心配そうに隆弘の顔を覗き込むハンナ。
「あ!」
隆弘はようやく思い出し声を上げた。
「魔物はどうした? ハンナは大丈夫なのか?」
今の隆弘と先代勇者のギャップにハンナは可笑しくなった。
でも、お父さんはこれで良いと思う。シュウにとっても、私やエルミーユにとっても、面白優しいお父さんなんだから。
「安心して。私がやっつけたよ」
「ほんとか! すげえな」
隆弘は驚き目を丸くした。
「へへ、凄いでしょ」
「俺は役に立てないで申し訳ない」
本当にすまなさそうに隆弘は謝った。
「じゃあ、帰りはおんぶして下りて貰おうかな」
「ああ、任しとけ。体力は十分にあるぞ!」
「冗談だよ。さあ、不見草取りに山頂へ急ごうよ」
ハンナは隆弘の手を引いて山道を登りだした。
二人が不見草を見つけ、教会に帰って来た時には、すでに日がどっぷりと暮れていた。
疲労はあるが、シュウの容態が気になる。
二人は部屋に急いだ。
部屋の前に着くと中から声がする。
「大丈夫、自分で食べられるよ」
「駄目です。シュウ様は体力を消耗しているのですから私が食べさせてあげます」
シュウとエルミーユの声がする。
隆弘とハンナは飛び込むように部屋に入った。
「シュウ!」
二人が部屋に入ると、ベッドの上に座るシュウにエルミーユが、あーんと食事を食べさせている所だった。
「お前ら、私たちがどんなに苦労したか……」
ハンナが肩を震わせベッドに近付いて行く。
エルミーユはすでに後ろに避難している。
「いいぞ、行けハンナ。百裂ピンタだ」
「あたたたたたー」
「なんで俺なんだよー」
シュウはエルミーユの献身的な介護で回復していたのだ。
今日はもう移動出来ず、四人はまた同じ教会で一夜を過ごした。
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