第36話26.オットー兵団13

占領した男エルフ収容所でエルフ達に命じたのは未収穫の野菜の収穫だった。

少々早くても収穫され、魔法の収納トンパックに消えてゆく…。

幸い、男エルフ収容所には荷馬車が沢山あった。

エルフの話では。

毎回、何処かの帝国軍部隊が空の馬車を返却して。

新鮮野菜を満載した馬車を受領しに来るので。

小型補給馬車がモータープール状態だった。

引くのはロバだが…。

そのロバの世話繁殖も、エルフ達の仕事だったそうだ。

非戦闘員の男エルフは全員馬車を扱うことが出来る…。

殆どの人員が乗車できる。

お陰で移動速度が急激に早く成った…。(徒歩よりはマシ。)

俺も助かった…。

正直、治す傷病エルフの数が多すぎる…。

足や腕、指の欠損が多すぎるのだ。

ソレだけ帝国の支配に抵抗した証だ。

毎朝、朝食後に10人エルフを治療して。

ぶったおれて馬車で寝ながら移動。

夕食後に15人直して朝までぶったおれる日々だ。

何としても戦力を回復させるのだ…。(減る戦友…。)

その為、エルフの忠誠度は鰻登りだ。

今朝の治療でも。

「その耳の欠損は治療しなくて良いのか?」

膝下の欠損を治療した男エルフの返答は。

「いえ、他の者の治療を優先して下さい。」

「そうか…。こちらは助かるが。まあ、全てが終わて俺が暇な時に申し出ろ。治療してやる。」

「いえ。耳まで治ると帝国に対する怒りや死んで行った者の顔を忘れてしまいそうに成ります。」

エルフは人生が長い…。

そう言うモノなのかもしれないな。

「わかった。考えが変わったら申し出ろ。」

「はい、ありがとうございます。ご領主さま。」

復讐に燃える男の顔だ。


北街道は寂れて道も悪い…。

街道上、出くわす旅人も商人も居ない…。

ドワーフの話では北街道は古くから移動する遊牧民の汎人とドワーフの村が有ったそうだ。

このまま西に進むと獣人達の村が幾つかある…。

エルフ達はもっと南の草原に暮らしていたそうだが。

帝国の侵攻で全てを取り上げられたそうだ。

遊牧民の汎人も同じ扱いだったと聞く。

抵抗した汎人遊牧民の大半は捕まり。

奴隷として南部に売られたか、軍門に降り農奴として村を作って定着した。

帝国の宗教上の理由により、亜人や獣人よりは待遇は良かった様子だ。


そして次の収容所へ遣ってきたワケだが。

「こりゃ驚いだ…。」

思わず呟く…。

荒れ地の中にポツンと一軒収容所。

収容所と言うより工場だ、高い石壁が在って煙突から煙を出している。

帝国にはボイラーが在るのか…。

偵察に出たドワーフの情報では…。

「”警備が厳しい。接近できん、見ての通りレンガの高い壁だ、中も覗けん。正面は城門に近い。”」

「”困ったな。”」

意外と堅牢だ。

「”ココに囚われている者はおらんのじゃ…。”」

直ぐにやる気がなくなるドワーフ達…。

翔ちゃんの知識で、中からの脱走を防ぐ構造なので収容者は居るはずだ。

「”いや…。必ず居る。石壁の控壁ひかえかべが外に出ている、そして石壁の角が直角でなく曲面で作っている…。この壁は金と手間を掛けた中の人を外に出さない構造だ。”」

普通の頭なら外観が悪いみっともないので外壁の控壁は内側に作る…。

門は一つで外壁の角はアールが付いている。

そして、外に監視塔。

あの世界の刑務所の作りだ…。

「”居るのか?”」

「”恐らく、帝国は中で何かを製造していて、その人員を外に出さない様にしている…。何を作っているかは不明だ…。”」

帝国は何を製造しているんだ…。

ボイラーまで作って。

高い壁に阻まれ中は不明だ…。

「”くっ!こんなに警備が厳重では…。”」「”くそ!”」「”正面を突破できない。”」

苦渋のエルフ達…。

「”いや?こういう施設は意外と簡単だぞ?”」

「「”え…。”」」


案の定、夜の正門は固く閉ざされている…。

もうすぐ夜明けで空が白くなり始めている。

攻撃開始位置に全員が付いたハズだ。

こういう施設は朝が早いので良好な襲撃時間帯ではない。

しかし、野戦眼鏡の数が足りないのに手元が見えないのは不利だ。

何と言っても訓練された兵でないのが痛い。

夜戦は周囲の状況を見て判断できる兵と士官が居るからできる戦術なのだ。

徐々に明るくなる。

煙突から黒い煙が立ち上り始めている…。

着火したばかりだ、窯の温度が上がれば白くなる。

夜間操業はしていない様子だ。

始業開始作業に掛かってる。

工場が動き始める合図だ。

「攻撃開始。」(コーホー・コーホー)

命令を下すとモヒカン数人が監視塔上部に向けて攻撃のお札を発射する…。

派手に爆発する監視塔。

ソレを見て別の監視塔に火の玉が飛び始める…。

正直、過剰攻撃だが相手を怖気させる為の景気付けだ。(モヒカンが攻撃目標を外した場合に備えて。)

全ての監視塔は炎に包まれた。

「いいぞ!突撃!!」(コーホー・コーホー)

壁に向かって突撃だ!

立ち塞がる壁にレンガを加速する。

「そい!」(コーホー・コーホー)

貫通して穴が開く。

突撃口としては小さすぎる。

「そい!そい!そい!そい!そい!!」(コーホー・コーホー)

手加減と走り乍らの連射で精密射撃が崩れる…。

しかし、穴だらけに成ったレンガ壁…。

意外と丈夫だ。

厚さが在るのだ。

金の掛かった作りだ…。

「俺に続け!」

壁に向かって走り出す。

「「「ヒャッハー!」」」

到着した穴だらけの壁に…。

「そいや!!」(コーホー・コーホー・プッシュー)

魔法の大ハンマーを最大出力で振りぬく。

流石に爆発魔法に木っ端微塵になるレンガ壁…。

「突入!お宝を奪取しろ!!」

大穴が開いた。

「「「ヒャッハー!」」オブツは消毒だ!!」

穴の中を潜れば思った通り目の前に工場建屋だ。

翔ちゃんの知識で、煙突の位置から工場側の壁を崩しての突撃だ。

俺の考えた最強の工廠…。

俺の領地に作る工場のデザインを長年、散々考えた!

工場の配置なんて全部一緒!!

警備員詰所を発見!

派手にやる。

「フハハハハハ!喰らえ!帝国め!」(コーホー・コーホー)

加速した石レンガが命中して瓦礫に代わる。

騒ぎを聞きつけた帝国兵を発見!

駆け寄り大ハンマーで肉塊に変える…。

おかしいな、帝国兵にしては装備も身体も貧弱だ。

「雄叫びを挙げろ!!敵に我々がココに居る事を示せ!!」(コーホー・コーホー)

「「「ヒャッハー!」」」

「いいぞ!散会!敵を排除しろ!!」(コーホー・コーホー)

「「オブツは消毒だー!!」」

数人単位で散開するモヒカン。

「さてと…。ダンがそろそろ突撃する頃だな…。」(コーホー・コーホー)

居住区か資材庫低層建築物がある方面の壁をダンが魔法でコッソリ穴を開けてドワーフ達が侵入している手筈だ。

魔法学園で習ったハズなので出来るかどうか尋ねたら”出来る”と答えた。

時間差で突撃して敵の背後を突く。

こんな立派な壁を用意している収容所は外部からの攻撃に弱い。

壁を短時間で破壊する手段は無いと考えているのだ…。

奴らは、考える限りの条件で、簡単に壊れないように設計している。

だから、正門に戦力を集中している。

裏口を作ってやれば侵入は簡単だ…。

敵は監視塔を破壊した時点で正門への襲撃を考えるだろう…。

だから俺たちヒャッハー!は派手に登場した。

エルフ達は正門を監視している。

逃げ出した出てきた敵を攻撃しろと命じている。

敵は完全に袋のネズミだ。

排除が終わったら旗を立てる予定だ。

略奪が終わったら堂々と正門から出てやる。

「ヒャッハー!兵舎を発見!敵兵多数。」

モヒカンの報告だ。

「よし行くぞ。」(コーホー・コーホー)


日が昇り朝日が差す頃には。

敵の排除は簡単に終わった…。

城門に立て籠もった敵兵は手間なので降伏勧告の後に城門事破壊して終わった。

魔法一発で瓦礫になった城門…。

完全に道を塞いでいる。

これで堂々と正門を潜って外に出ることは出来なく成った…。

まあ良いか、後で横に穴を開けよう。

マスクを外して新鮮な朝日の空気を…。

血と埃の匂いだ…。

「ダン、収容者は何処だ?」

後から突撃組とは合流済みだ。

簡易報告で収容者施設の確保!を聞いている。

「ドワーフの女達でした。」

モヒカンヘルムを脱いだ、うさみみガチムチ青年が答える。

「そうか…。見に行く。」

工場の脇を抜け、長屋…。

と言うか兵舎の様な作りの建屋に向かう。

外ではドワーフ達が集まり身内や親族を探している。

「”あなた…。”」

「”お前、無事だったのか…。”」

抱き合う男女、夫婦の再会だ…。

それを不思議そうに見つめる幼女。

「”おかあさん…。”」

「”お前…。この子は?”」

「”この子は…。その。”」

目を反らす妻。

夫は目に涙を溜めて察する。

「”いや、良いんだ。お前の娘なら俺の子だ。お前が無事ならソレで良いんだ。”」

ドワーフの女は小っちゃいが大きい。

ココの汎人は皆殺しにした。

汎人は男しか居なかった。

収容者ドワーフ女を無理矢理…汎人との間では子供が出来難いだけで、出来た話は多い。

女達に交じって数人の幼い子供がいる様子だ…。

良人を見つける事が出来ずに呆然としているドワーフの女に尋ねる。

「”お前たちはココで何を作っていた?”」

「”はい…。羊毛が運ばれて来るので、糸とフェルトを作っていました。”」

あ、製糸工場か…。

「”機織りはしていないのか?”」

「”いえ、羊毛を染色してボビンの状態で何処かへ行きます。”」

「”そうか…。解ったありがとう。”」

「”はい…。”」

よし!帝国の工場だ!

全ての物を運び出して略奪してやる!!


|皿●´)…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る