第34話24.オットー兵団11

ご領主オットー様の命令通り、順調に街道上の村を落としている。

全て包囲してからの襲撃で逃げた者はいない。

街道上で出会った商人や旅人も全て拘束している。

「ヒャッハー!分捕りだ!!」

この村も完全な奇襲だった。

兵が各家に押し込み家財や人員を捕縛していく。

「村人を全員、広場に集めろ!」

随分と盗賊の真似が上手くなってしまった。

「「ヒャッハー!」」

村の中を見回る。

帝国の村は大体は同じ配置なので略奪作業も早くなる。

「や、やめろ!!俺の家族に触れるな!」

ココでも家人の男が兵に抵抗している。

無駄なことだ…。

しかし違和感を覚える。

「ヒ、え?なんだ?お前、俺の言っていることが解るか?」

驚く兵。

兵全員の手が止まり、視線が男に注ぐ。

「お前たちは何者だ!家から出ていけ!」

声を張り上げる若い男…。妻と幼い娘を庇っている。

「おい…。ご領主さま御呼びしろ。」

近くの兵に命令する。

「ヒャッハー!」

馬車に走る兵。

しばらくするとご領主様が見えた。

「おう、なんだ?」(コーホー・コーホー)

すごいデブの大男…。

禍々しい黒い髑髏のヘルムの騎士だ。

「ご領主さま、王国語を話す住民が居たのです。此奴です。」

マスクを取り笑う大男…。

「ほう、そいつか。随分と若そうだな…。」

「「「ヒャッハー!」」」

「おい、男、お前は俺の言っている言葉が解るか?」

「はい。解ります!家族に手を出さないで下さい。」

「何故解る、言葉を何処で覚えた。」

「昔、子供の頃、村を焼かれ軍に捕まり奴隷としてココに連れてこられました。荒野を開拓してやっと出来た家族と家なんです!!返して下さい。」

途端に無表情になるご領主…。

喜んでいる様子だ。

「捕まった時は?お前は一人か?他に同じ村の者を見た事はあるか?」

「父と母は殺され…。姉と妹が一緒に捕まり…。それから、離れ離れになり転々と移動してココまで連れてこられました。」

「それは寒くなる前の話か?」

「寒くなる…。村で大人達が話していた事があります。これから寒くなると…。」

「そうか…。」

考え込む仕草の髑髏騎士。

「あの…。」

無言に尋ねる男…。

「解った、この家の物をいったん返せ。全てだ。」

兵に命じるご領主さま。

「「ヒャッハー!」よろしいのですかぃ?」

頷く黒い騎士。

「その上で問おう、どうだ、俺の領民に成らないか?」

「しかし…。」

「貴様は今は農奴なのだろう?開拓しても自分の物に成らん。我が地ビゴーニュの地に移り住めば開拓した分を貴殿の土地と認めよう。」

「そ…。それは。」

「家族を連れても良いぞ。待遇は奴隷ではないぞ?ああ、税も収めろ。しばらくは勘弁してやる。作物が順調に採れるまでな。」

「…。」

困惑する男…。

「俺に忠誠を尽くせ、そうすれば。記憶を頼りに貴殿の生まれた村を探してソコの領主に手紙を書いてやろう。家族を…血縁者を探すようにな。」

「なぜ…。そこまでしてくれるのですか?」

「俺は貴殿の村が焼かれた戦争に王国軍の士官として参加していた…。俺はあの時、君達を守る立場だったのだ…出来なかった。それはすまないと思っている、護民はロジーナ王国の国是だ。」

当たり前の様に言うでぶ。

「”あなた…。”」

不安毛な夫人。

何を話しているか分らないのだろう。

「開拓は辛いだろうが、家族が居れば。苦労も喜びに変わるであろう。又、血縁者が見つかれば会いに行く事も出来るようになるだろう。」

「”この村を出ろと言っている…。どうしよう?”」

驚くご婦人。

「”奥方、ご主人は元王国民だ、戦争で奪われ奴隷となった。王国としては領民として取り返したい。新たな土地を用意するので其処に住んでほしい。”」

「”あなた…。どうするの?”」

「”俺は…。家族に会いたい。ここは村から出る事すら許されない。”」

「”ここは農奴の村なのか?”」

「”はい、そうです。”」

「”他にもあるのか?”」

「”他の村は…。開拓地は貴族が決めるので概ね農奴が開墾して、世代が進めば。解放されて私財が持てます。”」

「なるほど、ココは未だ新しい村なのだな?」

「”はい、そうです。私が連れてこられた時は何も無い荒野でした。”」

「”そうか…。それは苦難の生活であっただろう。水の豊富で豊かな地を与えよう。今なら馬車一台を付けてやる…。馬付きだぞ?”」

「”それは…。なぜそこまでして頂けるのですか?”」

「”すまんが、今は取り込み中でな、戦争状態だ。貴殿らは歩いてわが所領まで移動してもらう必要がある。約束の土地も、このゴタゴタが終わった…春頃に移動することになる。家族で家財道具を運ぶのに馬車一台あれば移動できるだろう。”」

「わかりました。”おまえ…。俺は移民、いや、俺はいつか故郷に帰りたい。家族に会いたい。”」

「”あなた…。わかりました。ついて行きます。”」

「話は決まったな?”どうだ?俺の領民になるか?”」

「はい、ご領主さま。」

「よし!おい、こいつに馬車一台を渡せ。丈夫な奴だぞ。家財を積むのを手伝ってやれ。」

でぶが何処かから板を出して書き始めた。

素早くペンが動き…。

最後にサインしている様子だ。

「よし、貴殿にこの手紙を渡そう。俺との契約の内容だ。貴殿は王国国民として復帰した。俺の領民だ!もう奴隷ではないぞ?王国の法を守れ。」

「ありがとうございますご領主さま。」

涙を浮かべる男。

「泣くな。笑え。コレから苦難の開墾だ…。春は未だ遠いぞ?」

「はい。」

「では俺は元のへに戻る。マルダー聞いたな。」

呼ばれたので返事をする。

「はい、ご領主さま。」

歩きながら話す。

「よく王国民を見つけた。次も頼む。」

「兵に良く言っておきます。貴重な馬車でしたが宜しいのですか?」

「これで国王への言い訳が一つ増えた。安い物だ…。あの一家は必ず俺の領民として家を興さなければならん。」ニチャァ

ひどく嫌らしく微笑む…でぶが続ける。

「政治の問題だ。」

「解りました、必ず奪われた王国民を探します。」

「頼むぞ、北街道こっちは外ればかりだ…。」

「はっ!」

馬車に乗り込むでぶが振り返り。

「では、敵の都アルカンターラで会おう。」

馬車の中に消えた。

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