第21話13.入植者11
けが人は全員復活して、日没までに兵舎を建てた。
かまぼこ型だ、中は何もない。
足りない生活物資を収納から出した。
この様なコトがあろうかと…。
一個中隊の30日分の物資を持ち歩いている。
領主の嗜みだ。
いや、”ストラポルタ周辺の戦い”での戦訓だ。
取り合えず皆の寝床は確保出来た。
今夜は見張りを立てる必要がある。
明日から防衛線を張る必要も…。
調理馬車が無事だったのが幸いして、皆で飯を喰っている。
馬車を囲んでの青空(日没)食堂だ。
「おう、いい匂いさせちゃって。」
汗と泥で汚れた裸がやってきた。(むせる)
「マルダーさまご無事で。」
「逃げられちゃったよ。」
「くたびれた…。」
「飯食わせてくれ。」
「くそう!俺たちの栄光に傷付けやがった。」
裸以下、数名の若者も居る。
「おう、ご苦労。先ずは飯を食え。」
お椀とパンが差し出される。
「お、ご領主様。」
「「アリーッ!!」」
餌にありつく男たち。
「おう、何時もの飯だ。」
「なんか安心するね。」
「モグモグ」「ガツガツ」
良い喰いっぷりだ。
むさぼる男を数えた男が報告に来た。
「全員の身体を確認、総員欠員ナシ!」
治療を指揮した男だ。
ダメージコントロールの成果で人的被害は皆無だ。
「よろしい、これで被害は物資だけになったな。」
損失した機材のリストは現在作成中だ。
管理台帳が建物と一緒に燃えてしまったからだ。
後で司令部の資料と残った機材リストとの付合せ作業がある。
時期的に春まで作業再開はできないかもしれない。
食事を素早く終えた裸が報告してきた。
「襲撃してきたのは帝国か、帝国の貴族の兵だね。野盗ではない訓練されてる。」
「そうか、」
遂に遭遇したか。
帝国側も森の開拓も行っているハズだ、しかし衝突するのはもっと西。
次の開墾計画辺りだと想定していた。
「帝国は既に、森の中に巡回用の隧道を作っている様子だ。馬車は無理だが馬は行ける。」
なるほど、人が歩ける場所なら馬も行ける。
難所は下馬して歩くことになるが…。
「一番近い敵の野営地点は分かったよ、木に登ったら見えた。丘の上で、結構な頻度であいつら巡回していたみたい。」
さすが裸だ、手ぶらでも何かを掴んで来た。
「何か施設はあったか?兵舎か、堀か?」
砦なら最悪、この区画の開拓を放棄する必要があるかもしれん。
「いんや、無人だったよ。森の中の丘で開いた場所に馬を繋ぐ丸太と石組みの竈の跡だね。何度も利用しているみたいだ。」
ならば、敵は偵察でこちらの動きを察知して準備の上での襲撃になる。
「そうか…。先手を取られたな。」
「そっから、道が最低3本も分かれていて、途中に出くわした隧道は新しい足跡と古い足跡が何個も在った。馬と人で向きもどっちも向いている。」
森全体の監視網を作っていたのだろう。
「そうなると、森の中に未だ同じような敵の野営地が幾つかある…。」
もしくは侵攻路を放棄せずに維持している。
「だね、でも建物がないからテントで移動してる。」
お茶を飲む裸。
帝国は攻撃を行ったが、占領しなかった。
嫌がらせだ。
機材と兵舎を焼いて”これ以上は侵攻するな”という意思表示だ。
帝国の想定する国境が近いのだ。
「うーむ、思ったより帝国は東に来ていたのだな。」
「こっから先は帝国の森だね。」
こんなに早く帝国と遭遇するとは…。
領地の防衛計画を作成する必要がある。
この地の入植は諦めて城を作る必要が…。
いや、魔王のダンジョンが見つかってない。
帝国側の森に在るとなると面倒なことになる。
それより、ここの開拓団の始末だ機材一式失った事になる。
コレからお見合いパーティーを企画して来年からは同時多発性集団結婚で俺の銭が消えていく…。
思わず頭を抱える…。(戦友ううう…。)
考えるコトが多すぎる!
早急に帝国と小競り合いができる兵の準備も必要だ。
「うーむ、どうしたものか…。」
くそう!俺の金が飛んでいく!!
屋敷に戻り…。
書斎で一人、一晩考えた。(書類の上の戦友…。)
資料を見比べても、”開拓、開墾と帝国との小競り合いを同時に行うのは領地の経営上不可能だ。”という、結論だ。
お見合いパーティーの見積を計算して愕然とした。
森全体に防衛網を構築すると必要な兵員の概算で頭が痛くなった。
敵の攻勢限界と我々が今、集められる物資での攻勢限界。
ソレ等を集め、兵を訓練して揃えるのに必要な予算で領主をやるのがアホらしくなった。
「何か抜本的な対策、対応法が有るはずだ…。防衛正面を狭くできれば…。地形を利用する…。」
帝国は森全体の監視と巡回路を既に構築している。
我々は点だ。
帝国が時と場所を自由に選んで攻撃できる。
全てに対応する為の兵力を揃えたら破産してしまう。
ただし敵兵力は不明だ。
想定するなら最低、一個中隊から一個連隊。
多くて二個連隊。
もしかしたら…。
「バカバカしい敵が際限なく増えてしまう。何処かに敵の拠点が有るはずだ。」
たぶん、森の中ではない。
森の中に在ったとしても森の入り口周辺だ。
人の手だけで馬車が通る道を作るのが骨だからだ。
木の成長速度を考えると、伐採する量が増えるのだ。
開削しても一年で森に戻ってしまう。
その為の拠点維持と巡回だ。
こちらにも帝国側の地図はある。
むろん、地形は無く主要な街道と町しか書いていない。
俺は軍にいた時から情報収集は行っていた。
長い冬も在った、想定より帝国の東征が進んでいた。
あの森の向こうにはもう既に帝国の駐屯地と村があるのだ。
頭を掻く、考えが纏まらない。(戦友…。)
ダァー☆がノックされる。
「旦那様、朝食のお時間です。起きておられますか?」
スパスの声だ。
「ああ、起きている。悪いがココで食べる。」
目の前に広がる書類を纏める。
「はい、では持ってきます。少々お待ちください。」
スパスか…。
落書きと資料を整理して机の上を開拓する。
帝国との戦争を思い出すな…。
スパスがワゴンに食事を持ってきた。
「お食事をお持ちしました。」
机の上の書類の占領は排除された、次は食器の侵攻だ。
閃いた。
「そうだ、相手の攻撃を待っているから人員が長期に渡って拘束されるのだ。」
物資の浪費を抑える…。
いや、上手く立ち回れば…。確保できる。
俺の領地の問題を解決できるのだ…。
できるだろうか?
スパスが優雅にワゴンから朝食を机の上に降下させる。
机の上に次々と
「では、頂こう。」
「はい。」
皿の上のパンを征服に入る。
「スパス、全ての開拓団を最西端の区画に移動させた場合、最短で、どの程度の日数が掛かるか?」
チョッパヤでお願いします。
「…。領地の馬車を全て動員する事に成りますが…。15日程度かと…。」
流石副官、素早く計算した様子だ。
「そうか…。」
俺の想定も外れていない。
準備期間は十分だな。
「ヨシ分かった。王都に伝令だ、”ビゴーニュ辺境伯より国王陛下へ、我が領土がカルロス帝国軍と思われる集団に襲撃を受ける、現在全力を持って対処中。”だな。」
「はい…。書面を製作します、早馬を準備させます。」
「いや、早馬は必要ない…。通常輸送で行え。」
銭がもったいない。
困惑の黒エルフ…。(ばいんばいん)
「それでは、王都に届くのに30日以上掛かりますが…。」
うん、そうなる。
その間は誰も介入できない。
「それで、良い。時間が掛かっても良い、確実に国王陛下に届けよ…。」
ゆっくり確実にな…。
我が領地は自助努力で孤軍奮闘するしかない。
つまり
「少々、今日から忙しくなる。」
新しい戦争の準備だ。
「はい…。」
困惑するスパスにムラッとする。
後で揉んでやろう…。
その前に仕事だ。
全ての準備を片付けるのだ。
帝国め、お前らが先に手を出してきたのだ!
全ての
俺は
待っていろ、皇帝め肥溜の中まで追いつめて息の根を止めてやる!
復讐するは我にあり!
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