第12話4.入植者3

俺の領地の開拓で、まずやる事は…。

森の木を伐採する事だ。

農地の開拓も、道路の開削も全て木を切る事から始まる。

建材と燃料の確保も目的だが、相手は原生林。

建築に適した真直ぐ木が育っているわけではない。

幸い、全て大木だ…。

大の男ハイヒール履いた男達が数人掛かって。

斧で一振りづつ削り、一本の大木を数日掛けて切り倒す…。

森の開拓は簡単ではない…。

だが、俺の領地は違う。

そんな異世界の常識を覆す森に木霊する唸り声。

「どうだ…。レシプロソーの威力は?」

樵場に現地視察中だ。

「へい、凄いですね…。あっしらが、日暮れまで掛かった仕事があっという間だ。」

歳を取ったハイヒールが答える。

良く解らんが、この世界では。

斧が樵の主要道具だった…。

補助で、両柄鋸位しか木挽き鋸を使用しない。

作業用の足場板を原木に突き刺す工程程度だ。

無論、ソレを斧で済ませる猛者も居る…。

「ほい。受け口、切れたよ。次!何処よ。」

サスペンダーで裸の(元)執事が叫ぶ。

「早えな…。ああ、そのまま。線に沿って追い口を切ってくれ。それで、倒れるハズだ。」

一瞥して、年配の木こりが叫ぶ。

「行くぜ、アントン。」

「おっしゃ!任せろデック!」

魔法で動く大型レシプロソーが唸りを挙げる。

両端を二人で操作している。

「重たく成って来たーーーー!!」

「早くしろ、歯が折れるぞ。」

「おう、任せろ。チャーリー。」

「行くぜ、ベクター。」

大木に沈む鋸の切り口に木楔を刺し大ハンマーを振るう。

息が合っている。

こいつ等は、王都の食い詰め浪人若者だ。

長い冬で流民溢れる王都の下町は人口密度が限界に近かった。

その為、多くの無職ニートが我が所領に集まって来た。

正直、使えない汎人も多かったが…。

裸の執事が意外と面倒見が良いので助かっている…。

視覚的に暑苦しいのを我慢すれば。

「もう少しだ…!」

「たーおーれーるーぞー!!」

大木が、繊維の切れる音の後に地面に衝撃を与える…。

「「よっしゃ!」思った方向に倒れた!」

喜ぶ若者達…。

なんか細いな…。

俺の配下はもっとこう…。

喰わせないと行けない様子だ。

「おう、上手く行ったな。次のヤツはお前らが受け口を決めろ!」

「「「ええっ!」親方!」良いんですかぃ?」

「ああ、ダメだったら俺が見て止める。好きにやれ。」

炭鉱の町で燻っていた年配の樵はもう既に斧を振るう体力が無い。

その為、後進の指導に専念してもらっている。

「えーアントン、どうするよ。」

「いや…。ここは倒れる方向を先に決めようぜ。」

「だな、俺は、こっちに倒した方が楽だと思う。」

「そりゃいいな。先に馬(台座)を作って置くか?」

「そっちは多分、倒れた後に跳ねる。地面を転がらない様に先に、ロープを掛けようぜ。」

「要るか?ロープ?」

「要らないと思うぜ…。上手くやれば。」

「難しいな…。上手くやれるか解らない。危ないからロープは要ると思う。」

「よし、ケツを取ろうぜ!!」

「「良いぜ兄弟!!」」

「「「ハッ!!」」」

円陣を組み、腕を交差する若者達…。

一往、民主主義のルールが決まっている様子だ。

概念としてのKY活動は入植者説明会ブリーフィングで教育してある。

労働作業とは、安易な考えでサンゴに傷つけない様な慎重さが求められるのだ。

「何だよ、全員ロープかよ…。」

「あたぼうよ、死にたくないからな。」

「俺は、自分の腕が信じられないぜ…。」

偉そうにダメを出す若者達…。

「だな、今日の作業は終わりが見えてる。」

作業手順を相談して大木に線を入れる若者達。

「良し決まったな兄弟!仕事に掛かるゼ!!」

悪くないチームだ。

ヘルムを被ったネコは居ないらしい。

ヨシ!!(よくない)

「どうだ、若いヤツ等は?」

裸に聞く。

「うーん、素質は良いけど。経験が足りないかな?あと、筋肉。」

一番重要なのが足りて居ない様子だ…。(棒

「解った、食い物は何とかする。だから鍛えろ。」

強化ヒールの鉄片は主だった者に渡して在るので働いて肉を食わせれば自然と筋肉が付くはずだ。

「おう、嬉しいね…。しびれちゃう…。」

痺れる、雄っぱいサイドチェストを強調する、は・だ・か。

脈動する雄っぱいに精神的なブラクラを覚える。(ぷるーん、ぷるん。)

「おう、倒れたな、枝はらいと玉きりの作業に掛かるぜ…。あ、こりゃ親分御領主!失礼しました。」

人相が悪いスカーフェイスの男が手下達を引き連れやって来た。

「「「ごきげんよう!親分御領主さま」」」

全員、手引き鋸や小斧、丸太を持っている…。

元は王都で喰い詰めた特殊な自営業者らしい。

一家そろっての入植だ。(男だらけ。)

「おう、元気そうだな、仕事の邪魔はしない。働きぶりを見せてもらおう。」

「へい!聞いたなお前ら!ヘタを打つなよ。親分さんが見てるぜ。良いトコ見せて見ろ!!」

「「「オウ!」」」

もう既に組織が出来上がっているので仕事は早い…。

枝を払いう者、

幹の長さをロープで計り印をつける、ソレにレシプロソーで切断作業に掛かる。

その間に幹にロープを掛け運び出す為の丸太や払った枝を並べる者。

掛け声が決まっている。

「おし!玉きり第一弾だ。転がるぞ!!」

「退避!」

鳶口で押され、転がる丸太。

「「そーらー!」」

巨大な丸太が完成され、決められた長さで切られた丸太を男達がロープや鳶口で引き、橇に搭載される…。

このままに引かれ。

切り出された丸太は、木材加工場へ運ぶのだ。

いわゆる2×4材木工場だ。

巨大な丸鋸が唸りを上げている。(魔法で動く。)

寸法と長さはこの世界での建築基準大工の物差しを参考にしているので、厳密には2×4ではない。

丸太を加工して、建築しやすいサイズの10種類の角材を製造している。

我が所領の建物は殆どが、バルーン工法で建てられている。

早急に住居を作る必要が有る為だ。

みるみるうちに倒木が丸太に変っていく。

「親方!どうでしょうか!」

若者達が木に線を入れた様子だ。

幹にロープも掛かっている。

ロープの先は別の立ち木大木に引っ掛けた滑車を潜り、直角方向の大木に結んである。

一人が木に登った状態だ…。

「おう…。上出来だ。そのまま作業しろ。」

「よし!チャーリー降りてこい。」

「おう!」

腰の帯を緩めて、ブーツに付けた木登り…。

ハイヒールを喰い込ませ大木を降りる若者。

降りる間も作業の準備を進める若者達。

受口を三角に切る。

唸りを上げる大型レシプロソー…。

あっという間に半円の木端が外れる。

「追い口に掛かるぜ!」

「準備は良いぜ!」

「やっちまえ!アントン!」

「「行くぜ!」」

レシプロソーの刃が幹に消えると楔が撃ち込まれる。

「そろそろだ!ディック!」「そうだな!止めるか!」

レシプロソーを操作する男が合い方に掛け声を掛ける。

「もう少しだ…。止め!」

レシプロソーの騒音が消えると…。

幹の繊維が切れる音が森に響く。

「たーおーれーるーぞーー!」

地面を揺らして、新たな丸太の材料が出来上がる。

「「「やったぜ!!」」俺達の栄光の一本(丸太)だ!!」

喜ぶ若者達ハイヒール履いた男達

「手際が良いな若者が育っている様で安心した。」

苦笑する老樵が答える。

「はい、未だひよっこですが…。手馴れてきました。怪我だけには気を付けるように言っています。」

「そうか、作業の進捗はどうだ?」

「数日中にココの縄引き(区画)分の伐採は終わってしまう予定です。今は切り株へのきのこ射ち作業に入っています。しかし、こんなので本当にきのこが生えてくるんですかい?」

食用で切り株に生えるきのこがこの世界に在ったのが幸いだ。

「収獲できるか不明だが失敗しても切り株は菌糸きのこに分解されて土に戻る算段だ。」

翔ちゃんの菌の知識が有れば、きのこから胞子を採取して菌床おが屑で菌糸を栽培できる…。

無論、異世界なのできのこ特性を森に詳しい住人に聞き取り調査の上での予想の話だ。

と言うか出来た。

目で見える程の真っ白な菌糸だ。

後は切り株にドリル(手動)で数か所に穴を開け、おが屑で培養した菌糸を植え付けるだけだ…。

「本当に切り株の処理はしなくても良いんですかい?」

樵の言いたいことは判る、焼き畑をすれば二、三年は麦か蕎麦が収穫できる。

今年と来年は切り開く森が多すぎるので手が回らない。

切り株を掘り起こすのは時間と手間が掛かりすぎる…、今はきのこでイク。

ココはしばらく放牧地に使う予定だ。上手く行けば今年の雪が降る前にきのこが収穫できるはずだ…。」

色々条件を変えて菌糸の打ち込みを行っている。

きのこの最適な環境が解れば、毎年晩秋には、きのこフィーバー

「きのこが獲れるなら嬉しいんですが…。」

先ずは来年の春に、野焼きを行い病害虫を殺す必要が有る。

冬場に農地を起こして、寒晒しが出来れば良いが今は重量鋤も馬の数も足りて居ない…。

春の野焼きの後は放置して、夏には再び回復した草原を放牧地に使う。

冬前に切り株を原木にきのこの収穫を行う。(上手く行けば。)

そのサイクルを数年かけて牧草地の切り株は土に返る、その後に重量鋤を入れ、農地土壌改良を行う計画だ。

「どちらにしても鋤を入れ、農地に改良できるのは、灌漑設備が完成した後だ。」

あと、数年はきのこの里だ…。

測量は済んでいるので計画だけは進んでいる。

農業用貯水池ダムも作る予定だ。

問題は工員の数だ…。

「期待して良いんですかね、いえね。きのこは森の恵みで運が良く無いと採れない…。ってガキの頃から言われているんで。」

菌の特性を知らなければそんな物だろう。

胞子と菌糸で増える分解者だ。

物質として安定したセルロースを分解している。

火を得た人類には燃やした方が速い…。

コレは人類の経験だ。

腐れば酸性、燃やせばアルカリ…。

翔ちゃんの世界の様に、セルロース分解酵素を大量生産できるなんてチートだ…。

だが、何時か作って見せる…。

材木工場で無限におが屑が廃棄されている。

燃料だけに使うのは勿体ない。

「その内に食用きのこの栽培も出来るようになる。」

翔ちゃんの世界ではそうだった。

この世界で竹を見たことが無いので、この世界の住人は全てきのこ派だ。

異世界きのこチートの始まりだ…。

「そりゃあ良い、片付けが終わるころにはきのこ打ちも終了です。」

宿舎を残して道具だけ持っての移動だ…。

「そうか、もう既に次の縄引きは終わっている。冬までに全ての縄引き分の伐採を終わらせる必要が有る。」

呆れる老樵。

「ここに来てもう10年分の木を切り倒したんですがね…。魔法のこぎりであっという間に森が丸裸だ。」

移動すれば、又。テント生活から初めて宿舎を建てることに成るのだ。

裸のサスペンダーが答える。

「仕事は道具だよ…。良い道具が有れば仕事は速いんだ…。でも腕が無いと良い仕事には成らないのよ。」

上腕二頭筋と荒ぶる雄っぱいを見せつける裸。

「へえ、そうですがね…。」

「よし、仕事ぶりを見て安心した。振る舞いを持って来た。酒と肉だ。今晩、皆に配ってくれ。」

収納から魔法の収納カバンを出して老樵に渡す。

「へい!皆が喜びます。」

「では俺は指揮所に戻る、何かあったら無線で頼む。」

「「へい!」御領主殿、任せてちょうだい!!」

無線機の設置してある馬車に向かう。

丸太長屋宿舎脇の無線アンテナが立った派手な番号が書かれた馬車に入る。

中に入ると無線室とは別に客室があり、床に魔方陣が書いて有る。

この無線馬車は各現場に配備してあり、指揮所との通信と転送魔方陣が設置してある。

当番無線手に声を掛けて客室に入り、魔法を使う。

光る魔方陣。

少々の眩暈と浮遊感の後、風景が変わらない。

客室内の壁の”B”が”A”に変った程度だ。

馬車の外に出ると指揮所横の駐車場だ。

指揮所のモータープールには同じような番号の入った馬車が並んでいる。

各現場へは馬車を開けたら三歩で現地だ。

この転送魔方陣馬車は一対一なので馬車に番号が振り分けしてあり、一度に数人が使用できる。

但し、魔力の量が足りればの話だ…。

「こいつも早く改良が必要だな。」

今の所、一日に何回も移動できる者は俺ぐらいしか居ない…。

俺の受領した領地は広大だ。

移動だけで数日が終わってしまう。

もっと簡単に誰でも使えるように改良しなければ…。

「道具とはそう言う物なのだ…。」

魔法ののこぎりも本当はチェーンソーが作りたかったが、金属プレス加工機が作れない…。

油圧シリンダーを作るのには旋盤が必要なのだ…。

旋盤が無いとシリンダー加工もできない。

シリンダー掘削加工機なんて夢の世界だ。

今まで旋盤無しで魔法と力業で誤魔化してきた…。もう限界だ。

開拓の速度を上げるには異世界チェーンソー・チートが必要なのだ。

この世界にチェーンソーの悪魔でも現われないだろうか…。


「早く工廠を作って動力工具を量産しなければ…。この先生きのこる為に…。」


何せ異世界、丸太は無限にある…。


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(´・ω・`)この先生きのこ…。

(#◎皿◎´)タケノコの季節…。

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