第6話番外編.黒(歴史の)騎士物語4


王都の師団本部を出発してから数日間は順調だった…。

雪原の中の街道が村々を繋いでいる。

一面の白い世界である森を抜け、丘を避け。

集落を越える毎に街道が細く道は険しくなる。

途中、魔物との遭遇は無かった。

此方には魔除けのお札と狼が多数居るので襲われる事は無い。

だが、このまま森に進めば解らない。

魔除けのお札は大型の魔物には通用しないので兵は周囲の監視を怠っていない。

道は険しく成る、街道ソレを示す旗の数も減る。

本来、クーゲルシュタインの町は王都の住人にとっては、川伝いで向かう町で知られている。

乾期には河川敷を安全に歩いて行ける。

雨期には増水して通行できない事で有名だ。

今は川は凍結しているとはいえ、通行は危険だ。

氷が薄い場所が有る。

解っているが、雪で隠れて見えない。

地形から街道と判断してしまい、進み。

氷の薄い深い淵で溺れ死ぬのだ。

我々は危険を避け、街道を西に進み。

街道を外れ、南に転進する。

ソコは馬車が入れない湿地だが。

今は凍結して雪原となった平地だ。

常識では考えられないが、王国軍の作成した精密な地図と携帯小型時計機械。

機密兵器である、方位磁針コンパス早見盤アストロラーベと六分儀。

天測を可能にする訓練された兵達。

我々は現在地を見失うことはない…。

そのはずだ。

昼の大休止で位置を確認してメモをする。

「報告、気圧が低下傾向です!」

「そ、そうか、解った。」

街道を外れて雪原を一日進んだ我々に軍曹の報告は不安を掻き立てる物だった。

地図に数値を書きこむ。

「軍曹、すまないが次の小休止で、もう一度計測してくれ。」

「はっ!」

軍曹は顔に出さなかったが…。

嵐の前触れだ。

見上げる空は只の曇天雲で雲は東に流れているハズだ…。

しかし雲が厚く何処に向かっているか不明だ…。

「大丈夫だ、未だ慌てる数値じゃない。」

計画に影響を与える程では無いのだ…。

自分に言い聞かせる。

次の小休止で軍曹からの報告は、数値は変わらないとの報告だった。

不安の一つが無くなった…。

犬達の足も軽い。

車列は速度を上げる。

「このまま進めば船に勝てるな。」

そんな冗談も出た。

日没前に雪を掘り、テントを張り半分埋めて雪洞にする。

橇を雪の中に杭を打ち、固定して天幕カバーをする。

犬達は胴綱リードに繋がれたまま、牽引綱を円形六角形に杭で地面に固定する。

自然と中央に集まり、犬饅頭が出来上がる。(めしか?めしか?まだあそぶぜ!)

最後に橇に立つ王国軍旗と赤い旗フラッグを視認して終わる。

コレで橇の固定は終わる、何時もの作業だ。

橇の旗は確認しておかないと一瞬で雪で埋もれる場合が有る。

各橇の旗の方向を頭の中に入れる。

錯誤思い違いは死に繋がるのだ。

杭の打ち込みと胴綱の接続を確認すると。

兵が設置したテントに向かう。

もう既に設置が終わりつつあるテントだ。

大天幕と個人用天幕を組み合わせた二重テントだ。

大天幕には撥水と言う忌避魔法が掛かっているらしい。

我々の装備は全て高価なのだ…。

ソウで無いなら我々はこの先生きのこれない。

軍から託された装備は全て、魔法学園の賢者等が作った英知だからだ。

二重テント上部には空気穴煙突と旗が在る。

コレは全て、”空気循環量”と言う学問の結果だ。

理解は出来ないが守る必要が有る。

そう厳命されたからだ。

総員21名を今回は三つの5人用テントに収容する。

計算の最大値らしい。

かなり窮屈になるが、理由はこの方が温かいからだ。(むせる!)

魔法コンロで水を沸かして暖房に使う、気温が上がれば水の出る魔法の瓶も使える。

何故か天幕テント内で外套が乾くのが早くなる。

私物の魔法ランプで手元も明るい。

蝋燭は高額なので思い切って手に入れた。

軍の支給品のオイルランタンや、カーバイトランプではテント内で使い勝手が悪いのだ。

明るいのは良いのだが…。

テントの設営が終わり、日没後の雪が降り始め、風が出てきた。

外は雪原を白く染める程の雪が舞っている。

「報告、歩哨の交代終わり、犬の状態も捕縛も異常ありません。」

歩哨から戻った一等兵が雪だるまだ。

「よし、解った。休憩しろ温かいスープエンリケを飲め。」

天井テントを雪と風が当たる音が響いている。

一等兵は外で雪を払った様子だが一瞬で雪だるまに成った様子だ。

「はっ!ありがとうございます。」

外套を畳み、魔法コンロの上の鍋の中身を注いだカップ、両手で受領する一等兵。

手の温度を楽しんでいる。

一口飲んで息を付いた。

「不思議ですね。毎回同じ味なのに全く飽きない。」

お湯に少量のエンリケバーと塩だ。

食事はコレに根野菜と押し麦のごった煮だった。

「そうだな…。鼻と耳を揉むのを忘れるな。」

「はっ!!」


毛布に包まって頭陀袋に身を埋めて睡眠を取った。

雪の掘る音で目が覚め、時計機械を確認する…。

日が出ているハズの時間だが未だ暗い。

外を覗くと…。

風が強く雲が厚い、さらに視界が吹雪で真っ白だった。

伍長と兵が隣のテントの雪をかき分け空気穴を確保している。

朱色のコートでないとお互いを見失いそうな視界だ。

軍曹が犬用のバケツをもってやって来た。

「少尉殿、犬への俸給食事を配布しました、犬に問題はありません、今朝も気圧計は低いまま変わりません。しばらくは天候が回復する様子は在りません。」

「そうか…。今日は視界が悪い、出発を遅らせる。」

「はい、その方が良いと思います。」

雪が昼の時間になっても止まない。

気圧計はさらに下がり低いままだ。

交代で歩哨に出ている。

定期的に除雪も行っている…。

今では完全に雪の中雪洞だ。

「今日の移動は不可能だな…。」

「はい…。そんなに長くは続きません明日には晴れると思います。」

その様な兆候も無いが雨風は三日間は続かない。

この時点では未だ焦る状態ではない…。

食料も未だ余裕がある。

目的地は直線距離では近いのだ。

「犬たちの休憩になるだろう…。」

昨日の速度を出せれば三日で到着する距離なのだ…。


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(´・ω・`)…。(このクソ寒いのに何で同じような雪の中の話を…。)偶然です。

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