第5話番外編.黒(歴史の)騎士物語3
(´・ω・`)…。
-----------------------------------------------
途中、街道上の各村で手紙や書類の遣り取りを行う。
村を一つ越える毎に汎人の手に寄る物が増えて行くのが解る。
そして、王都の城壁が見える丘に登る。
「やっと帰ってきた…。」
二等兵の呟きに、皆何も言わないが…。
兵達に笑顔が浮き出る。
「
「「「了解!」」」
久しぶりの師団本部の駐屯地へ帰還する。
小隊以下の兵達は笑顔で、向える師団の主計士官は面白くも何とも無い顔だ。
簡単な積み荷の明細書を渡す。
犬達を厩の前に止め、主計の見分の下、橇の荷物を解く作業に掛かる。
本部の主計士官がサインすれば、我々の任務は終了だ。
一部、消耗した物資の一覧に眉を潜めたが…。
理解した主計士官が書類にサインをした。
やった、任務は終わった、休暇が貰える。
「軍曹、後は頼む。」
連隊の本部へ向かうと…。
士官室にはロビン・シュタイナー主計中尉が居た。
「第2058輸送小隊只今帰還しました。」
書類を提出する。
受取ったロビン中尉は書類を確認する。
この
僕の様な貴族の坊ちゃん扱いでは無いのでコネは無い…。
唯一の庶民出の魔法士官で叩き上げの
戦闘経験豊富な士官なのに主計だと言うのが不思議だ…。
納得したロビン中尉は書類に完了の判子を押して書類箱の中に入れた。
一呼吸した中尉が机を指で叩きながら話し出した。
「ごくろう。少尉、時間は有るか?」
「はい、後は橇の始末だけです。」
何か…。話が悪い方向に向かっている様な気がする。
「そうか…。実は数日前、師団本部への無線連絡で王都西部の町、クーゲルシュタインへ向かう2044(小隊)が輸送任務に失敗した。」
「は?」
昨今、珍しい話ではない。
ソレが僕たちの小隊に何の関係があるのだろうか?
「移送中の小隊が現在位置を見失い、迷い出た窪地。凍結した川の上で氷が割れ、橇一基と犬を失った。」
氷が薄いなら深いのだろう。
犬は橇に繋がれた状態では脱出できない。
橇より、物資より一艘分の犬を失ったのは痛い。
物資は雪が溶けるまで回収できないだろう。
「投げ出された数名の兵は凍傷と骨折で重体、近くの村に撤退した。
溜息を付く中尉…。
悪い予感だ。
到底、今の僕たちには関係ない話だ。
「ソレで我々は何をすれば…。」
「君の小隊には悪いが準備が整い次第、クーゲルシュタインへの輸送に当たってほしい。」
コレは貧乏くじだ。
「未だ、兵や犬の疲れがあります、出立できる状態ではありません。」
「解っている、物資が未だ集積中だ、5日後までに整う。ソレまでに君の小隊は完璧な状態にしてほしい。この輸送に失敗した場合にはクーゲルシュタイン領の物資は欠乏し領民に死者がでるだろう。」
立ち上がったロビン中尉は背中を見せ言い放った。
「君達に出来ない場合は他の小隊に任せる事が出来るが…。成功率は可成り低くなる。」
顔を見せない。
強い口調だ、コレは拒否できない。
我々の小隊はどんな任務でも熟してきた。
ソレは下士官と兵の資質に寄る物だ。
軍曹が無理を選択しない。
危険を素早く察知する兵が多い。
西方は地形が良く変わるので危険な場所だ。
今すぐに交渉に掛かる。
「兵は休暇が貰えると思い込んでいます、犬も痩せて居ます。物資の割り当てを多くしてほしいです。」
軍にとって、何が重要なのか探る。
「なんとかしよう。」
今まで言っても通らなかった物資の配給割り増しを簡単に約束する中尉。
コレは軍が焦っている。
状況が切迫している証拠だ。
昨今の主計の計算は非常に精度が高い。
町一つが危険な状態に成りつつあるのは理解できる。
軍の意思は絶大で少尉程度で曲がる話ではない。
しかし、困った、兵は全員休暇が貰えると思い込んでいる…。
小隊の兵には悪いが…。
「ソレでは…。3日程度は兵と犬に休息が頂けるのですね?」
クーゲルシュタイン…か…。
何処かで聞いた名だ。
「ああ、ソレは確約しよう。物資の集積は今も進んでいる。積み込みは主計の方でやって置く。」
思い出した、僕が軍学校のトーナメントで怪我をした時に治癒で直してくれた魔法学園の生徒がソコの貴族だった。
僕はその時、女の子だと思い込んで…。
”彼女(彼)の為に一度は命を掛けよう。”と誓ったのだ。
「了解しました、クーゲルシュタインへの輸送任務を受領します。しかし。未だ橇や犬の状態報告を受けないと実行できるか不明であります。」
橇の破損があるかもしれない。
その最終報告は未だ受け取っていないのだ。
「五日ある…、最大限の物資用意をさせよう。」
無表情に喜ぶ
後は…。兵に何と説明するか…。
既に、空になった橇に戻る。
兵達は橇の周りで駄弁ている。
犬達は、兵の浮かれ具合を読み取って、皆お遊び状態だ。(あそぶ?あそぶ?)
「おい。軍曹、犬と橇の状態はどうだ?」
直ぐに答える下士官。
「はい、橇の破損は在りません、牽引ロープの交換時期です。犬は全員怪我は在りません、最後は急がしたので現在疲労状態です、数日休ませて増強食を食べさせれば問題ありません。」
良い返事だ、コレで確定した…。
腹から号令を掛ける。
「総員、整列!」
途端に命令に従う兵達。
驚いた顔だ。
そうだろう、何時もなら用具を収納して、解散の手筈だからだ。
「総員整列完了!欠員無し。」
軍曹が答える。
「そうか…。」
状況を確認する。
「軍曹、急いで牽引ロープの交換を行い、犬を休ませて…。5日後に出発できるか?」
「そ…。それは。可能です。」
素早く計算して答えた軍曹。
コレで決定だ。
「うむ、解った。新たな緊急命令を受けた。輸送任務だ。」
驚く兵達。
「え?休暇無いンすか!!」
犬達が兵の萎み具合を感じ取って、地面に伏せて耳を倒している。(あそばない?あそばない?おれはやるぜ。)
「そうだ、他の小隊がポカをやって。その任務が此方に廻って来た。王都より遥か西のクーゲルシュタイン領への輸送任務だ。主計中尉の見立てでは我々の小隊が成功させなければ、クーゲルシュタイン領内は深刻な状態に成るだろう。」
「おいおい、」「くそっ!又だ。」「他の小隊の尻拭いかよ。」「坊主と遊ぶ約束が有るんだぞ…。」
ぼやく兵達に追撃を掛ける。
「物資の集積具合に変わるが五日後を目途に出発したい。休暇は三日程度に短縮される。」
「あー、」「休暇は貰えるのか…。」「三日か…。」「坊主の顔位は見えるか…。」
落胆の顔の兵達…。
僕も辛い。
「隊長殿は遣りたいんですか?」
お調子者の一等兵が質問する。
「ああ、
昨今、国軍では魔法士官が大手を振っているが、士官は騎士の心が必須なのだ。
騎士が受けた恩は、命と身体を張って返すのだ。
「えー、」「小隊長殿がそう言うなら仕方ねえな。」
命令は受けてしまっているので現実を受け入れ始める兵達。
「小隊長殿、それって、色っぽい話ですか?」
一等兵が手を挙げて質問してきた。
一瞬、治療を受けた情景を思い出す。
あの香しい香り…。
高鳴る胸。
思わず言葉に詰まる。
「バ、バカな事を言うな…。個人的な事だ。」
無論、男を女の子だと見間違えたなんて言えない、人生の汚点だ。
「ふーぅ!」「それならしかたねぇ!」「小隊長殿が男に成るってんなら話は別ですぜ!」
顔に出てしまったのを兵達は誤解した様子だ。
俄然やる気に成っている。
「コレは現在最も成功率の高い小隊が我々であると言う上層部の判断もある。」
コレは僕個人の問題では無いのだ。
「「「はっ!!」」」
総員姿勢を正す。
「クーゲルシュタインの人々は我々の到着を待ち望んでいる、道は厳しく、過酷な状況が待っている!我々の小隊は万難を排して物資を送り届けるのだ!」
助けを呼ぶ人の声に軍が答えようしている。
我々の小隊でしか成しえない。
そうでなければ僕の兵を危険に晒す事はできない。
「「「了解!」」」
我が小隊の運命は決まってしまった。
白い地獄への道を。
-----------------------------------------------
(´・ω・`)…。(黒いのに白地獄。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます