(約1700文字) その二 空戦攻防

「⁉」

 氷の外壁が女性に影を落とす。男の攻撃も警戒しなければいけないが、それよりも先に、まずはこの外壁のスタンプをかわさなければ。

 女性は地面を蹴り、『反重力跳躍』によって普通では考えられない距離を、その一蹴りで移動する。

 男の方はというと、女性とは反対方向へと跳んで、いや、飛んでいた。どのような原理かは不明だが、突っ立ったままノーモーションで地面を高速移動していた。よく見ると、その足元に幾何学模様の光が展開されていて、まるでジェット噴射のように何かが噴き出している。

(なにあれ……風……?)

 左右に分かれた二人の間を、巨大なタワーが倒れ、轟音と地響きを鳴らす。それによって生じたいくつもの瓦礫の弾丸を女性は巧みにかわし、ときには『斥力の盾』ではね返したり、『事象崩壊札』で壊していく。

(まだ決まったわけじゃないけど、『風』だとして……『岩』の攻撃と『草原』の展開、これは『土』属性の技……)

 まさか、と思う。

(二つの能力を扱えるっていうの……! ……まさか……!)

 『事象崩壊札』という武器はあるし、固有の能力を応用した技をいくつか使えるものの、女性自身の固有の能力は『重力操作』だ。

 だがあのウェイター服の男は……『風』と『土』、二種類の属性の能力を使っている。

(本当に二種類も使えるのなら、少しだけやっかいね……それともなにかカラクリがあるのかしら……)

 風にしろ土にしろ、重力の前には小さな力に過ぎないだろう。

 とはいえ対策を考えておくに越したことはない。思考を巡らそうとしたとき……。

 目の前に横たわるタワーの壁、その向こう側から何かが上空へと飛び出した。ウェイター服を着た男だ。

 つられて、女性は男が向かった方角に目を向ける。その視線の先、数百数千メートルのはるか彼方に、ゆっくりと自由落下している虹色の光があった。

 ゴールの台座。

 この戦いの勝利条件は、参加者を殲滅することでも、タワーを破壊することでもない。

 指先や爪先だけでもいいから、ゴールの台座に一番最初に触れることだ。

(しまった……!)

 とっさに女性も空中へと跳び出した。重力場と反重力場を展開、その位置や力の大きさ、向きなどを精密にコントロールして、自由自在に空中を飛んでいく。

 自分と同様に空中を進んでくる女性に、男が気付いた。

「チッ、死んでなかったか! ジャマすんじゃネエ!」

 手をかざす。

「『グランドメテオ』! ついでに『トルネード』!」

 巨大な岩の塊と渦巻く風が女性へと放たれた。が、女性はまったく慌てない。手をかざして、強力な重力場をそれらの真上に展開する。

 岩はもちろんだが、空気、厳密には男が使ったのは酸素だが、それら二つにも『重さ』は確かに存在している。つまり……。

 巨大で強力な重力場によって、岩と竜巻は真下方向へと墜落していった。

「⁉」

 悪人面が珍しく驚愕に目を見開く。

「テメエ……何しやがった……?」

「……。素直に答えると思う?」

「ハッ……!」

 戦いの最中に敵に自分の能力をベラベラしゃべるやつなどいない。そんなことしても不利になるだけだ。

 だから女性は思考する。推理する。

(『風』と『土』、この二つであることは確かなようね。なら私に負けはない)

 反重力場を展開し、相手の身体を吹き飛ばそうとした……とき。男の手のひらに新たな幾何学模様が出現する。

「とらえろ! 『ハイドロ』!」

 瞬間、女性の身体を大きな水の塊が包み込んだ。

「……⁉」

 すぐさま這い出そうとするが、伸ばした腕、動かした足に合わせるように、水の塊も生き物のように動いていく。

「ハッ、逃げれねえダロ! これでトドメだぜ! 『メタライズ』!」

 男が刀を出現させて、それを構えながら水塊に囚われた女性へと迫る。

 が、女性は自身の周囲に反重力場を展開させて、水の塊を吹き飛ばした。

「ナッ⁉」

 そして驚愕しながらも刀を振り抜いてくる男の攻撃を、斥力の盾を展開することによって防ぐ。ギギギギと、不可視の盾を押しながら、男の顔に不気味な笑みが浮かんでくる。

「クククク……空を飛んで、俺の攻撃をたたき落として、水を吹っ飛ばす……そんでもってこの見えねえ盾みてえなもん……なんとなくつかめてきたぜ、テメーの能力が何なのか……!」

「……。それは良かったわね。でも分かったところで、あなたにはなにができるのかしら」

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