(約3000文字) その六 身を挺した守り――【サイボーグ】と【魔族】 【終】


「……なるほどな……」

 これほどの相手を前にして、しかしウェイター服の男は一切取り乱さない。むしろその口元には邪悪な笑みが広がっていく。

「クククク、カカカカ……!」

「「何がおかしい」」

 FIB男と若青の言葉に、魔人は哄笑した。

「ギャハハハハ! この程度で俺が降参するとでも思ったのカ! ただの人間が何人集まろうが、この俺は倒せねえんだヨ! まとめて片付けてやるゼ、『グランドメテオ』!」

 魔人が片手を上にかざし……上空から雲を割るようにして、巨大な隕石が顔を見せる。

 驚愕するニンゲンどもをあざ笑いながら、

「ギャハハ、ここはひらけてるからな、断熱圧縮とやらで燃やすことはできねーゼ!」

「くそ、粉々に壊してやる!」

 若青がハイテク銃を隕石に向けようとしたとき、

「させるかよ!」

 魔人の周囲に暴風が巻き起こり、無数にいた人々が一斉に遠くまで吹き飛ばされていく。ついでに隕石の後ろに風のブーストを展開させて……猛スピードとなった落下速度によって、隕石は見る見るうちに自由の国に巨大な影を落としていった。

 魔人の前に残っているのは、その重量によって吹き飛ばされずに済んだイモムシ戦車と、それにへばりつくことで耐えたカラテ家だけだった。

 子供サイボーグがカラテ家に言う。

「私が操縦するこのリベリオンなら、あの隕石を完全に破壊できると思います」

「本当か」

「はい。しかし、その前にあいつに電気を飛ばされてしまうと、この戦車と私は動けなくなってしまうでしょう」

 EMPと呼ばれる電磁パルスのことだ。

「なるほどな。つまり、その間、この俺にやつの注意を引き付けておいてほしいと」

「はい。お願いできますか」

「無論だ。俺のカラテがこの国を守れるというのなら……! ハアアアア……!」

 カラテ家が気合を込める。地を蹴った。集中することで超人的にまで高めた脚力で、暴風の流れを強引に突破して、魔人へと迫る。

「ナッ⁉」

 驚く魔人に攻撃をたたきこむ。魔人は防御に回り、それによって暴風が中断される。

(この隙に)

 空間駆動戦車リベリオンの三つの砲塔すべてが迫りくる隕石に向いた。

(エネルギー最大出力まで、あと三秒……二秒……一……)

 三つの砲塔にエネルギーがたまった。

「いっけええええーー!」

 発射。120mm短砲身と二つのフォトンレーザーによる、最強火力。限界まで高めた砲撃は隕石の中心に直撃し……そしてその全容を完全に消滅させていった。

「やった!」

 これで国が滅ぶのを、ひいては経済の崩壊を防げた。と、子供サイボーグがそう思ったとき、リベリオンの機体機能が一斉にダウンする。

「⁉ そうか……エネルギーを全部使い切ったのか……!」

 瞬間、リベリオンの機体にカラテ家がぶつかってくる。

「おじさん!」

「ハッ! しょせんはニンゲンってこった」

 ダメージが深いのか、カラテ家はうめき声を漏らして立ち上がれない。ゆっくりと、絶望を味わわせるように魔人が近付いてくる。

 カラテ家が小さな声で言う。

「きみだけでも逃げるんだ」

「そんなことできません……傷付いた人を置き去りにするなんて……」

 しかし子供サイボーグ自身に戦闘力は備わっていない。戦車リベリオンもエネルギー切れ。カラテ家は倒れ、他の者たちも吹き飛ばされてしまった。

 なすすべは、もうない。子供サイボーグがあきらめかけたとき、その目にとあるものが映り込んできた。

 カラテ家が背負っていた武道着を入れる袋。戦闘によって破れ、その袋から一台の携帯端末が顔を覗かせていた。その画面には、見たことのある黒い球体。

「おじさん……その黒い球体は……」

「そんなものよりも、早く逃げ……」

「いいから教えて……! どうしておじさんがその球体を……?」

「どうしても何も、俺が作ったものだからさ」

「……⁉」

 何がそんなに重要なのか、カラテ家には分からない。リベリオンから飛び出して、子供サイボーグのヴェーダはカラテ家のそばに寄った。

「おじさん、お願い! この黒い球体を私に、『売って』!」

「は? 何を言って……?」

「いったい誰から買えばいいのか分からなかったけど、いま分かった。誰かが作った『作品』だというのなら、それを作った人から『買う』のが当たり前だよね」

「ちょっと待て、きみはいったい何を言っているんだ?」

「私はヴェーダ。事情があってあのウェイター服の男と戦っていたんだ。それで、おじさんからこの球体を買えれば、私の勝ちなんだ」

 子供サイボーグはすでに四つ買っている。残りは一つだけだ。

「そうすれば、あいつはこの世界からいなくなる。この世界は、この国は救われるんだ」

「まさか……そんなことが……」

「信じて! 私のことを!」

 近付いてきていた魔人が言った。

「なにをゴチャゴチャしゃべってやがる……ン?」

 魔人が携帯端末の画面に気付く。そこに映っていた黒い球体に。極悪人としての、あるいは魔人としての直感か、ボーイは瞬時に何かを悟った。

「ハッ、させねえぜ! テメーラまとめてブッ殺してやる!」

 魔人が手をかざし、その手のひらにバチバチと電気がたまっていく。そして放った。あらゆる生物を焼き殺し、あらゆる精密機器を破壊する電撃を。

(駄目だ、殺される……!)

 カラテ家がぎゅっと目をつむろうとしたとき、彼の前に子供サイボーグが躍り出る。

 小さくか弱い両手を広げて。

 電撃が迫る、コンマ数秒という刹那。カラテ家の男は確かに聞いた。

「『神の代理戦争』のルールのおかげで、戦いで死んでも、私は生き返ることができる。でもこの世界の人たちや、おじさんは違う。だから、おじさんのことは私が守る。これくらいしか、おじさんの盾になることくらいしか、いまの私にはできないから」

 全身が金属の子供サイボーグなら、避雷針の役割も果たすだろう。

 すべてを殺し、すべてを壊す電撃が、ヴェーダを飲み込んだ――


 雷撃が消える。

「ヴェーダ! ヴェーダ! そんな……! 俺なんかのために……!」

 傷付いたヴェーダの身体をカラテ家が抱え上げる。彼らに魔人が言う。

「ハッ、そのロボットが今回の俺の対戦相手なんだろ。残念だったな、この国は俺が滅ぼす! 戦いはそれでシメーだ!」

「……ふふ……それはどうかな……」

 まだ辛うじて意識があるらしい、ヴェーダが口を開く。

「……ナニ……?」

 疑問の声を漏らした魔人に、手にしていたものを見せる。カラテ家の携帯端末。電撃によってノイズが走り不鮮明だが、その画面に映っていたのは『購入完了』という文字。

「きみの攻撃を受ける直前に、すでに取り引きは終わっていたのさ。名前も知らない対戦相手さん、この戦いはこの私、ヴェーダの勝ちだ」

「……⁉ この、クソガキがアアアア⁉」

 もう一度手をかざした魔人が、帰還の光に包まれて消えていく。

 吹き飛ばされていた人々が、カラテ家と子供サイボーグのヴェーダの周りに集まり……彼らとカラテ家を見ながら、ヴェーダが言った。

「短い間だったけど、いろいろと助けてくれてありがとう……じゃあね、おじさん、みんな……」

 傷付いた顔に微笑みを浮かべて、ヴェーダは帰還の光に包まれて、元の世界へと還っていった。


 こうして。

 滅亡の未来は回避された。


 ここは自由の国。


【神の代理戦争】

【VS:空間駆動戦車リベリオン★搭乗者はヴェーダ君】

【ダイス:③➏】

【戦名:おかいもの】


【勝者:空間駆動戦車リベリオン★搭乗者はヴェーダ君】



【終】




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る