(約2900文字) その五 集結
《瓦礫と炎上の繁華街》
嫌な予感に襲われて、子供サイボーグはイモムシ型の戦車に乗って繁華街へと向かう。FIB男女とMOBたちもそれぞれの車に乗って急行した。
「なんだありゃ⁉ 人が宙に浮かんでやがる⁉」
若青の言う通り、人が空中に浮いていた。ウェイター服を着ていて、足元には何かの記号のようなものが光り輝いている。
(あれは……もしかして……)
子供サイボーグの考えを裏付けるかのように、空に浮かぶ者が哄笑を上げる。
「ギャハハハハ! そーいや経済が崩壊したらこの戦いは強制終了になるんだっけカ? 要はこの国全部をぶっ壊しちまえばいいってこった!」
(やっぱり……!)
子供サイボーグは確信する。どこにいるのかと思っていたが、空に浮かぶあの男が今回の対戦相手に違いない。
そのときFIBとMOBが乗るカーラジオから緊急放送が流れた。大統領の声が告げる。
『みなさん、ただいま繁華街に凶悪なテロリストが現れました。ただちに避難してください。テロリストは我々が保有する国軍の全力を持って対処します!』
「聞いたか?」と壮年が言い、若がうなずく。MOBの車が急停止した。車が変形し、広くなったトランクから多種多様の武器が姿を見せる。それらの中からSFに出てくるような銃を、MOBの二人が取り出した。空の男へと構える。
「テロリストだか知らねえが、街をこんなにしやがって」
「同感だ。明日のハンバーガーをどうしてくれる」
引き金を引くと、高出力のエネルギーが銃口から飛び出していった。
向かってくる二つの光に魔人が気付く。
「アア?」
鎧で防ごうとするが、これは貫通すると直感して、即座に回避に切り替える。高出力のエネルギーは空の彼方へと消えていった。瞬いていた恒星の二つがなくなる。
「ジャマすんじゃねえ」
魔人が手をかざした。巻き起こった暴風がFIBとMOBたちを吹き飛ばしていく。子供サイボーグが乗る戦車だけは、その重量ゆえに飛ばされるのをなんとか免れていた。
「とにかく、あいつを地上に落とす必要がありますね」
イモムシ型戦車についていた三本の角のうちの小さな二つが魔人へと向く。フォトンレーザーだ。その照準が魔人を捉えて、撃った。
「ハッ、当たるかよ」
難なくかわす魔人へと、続けて撃っていく。
(この世界じゃエネルギーに限界がある。尽きる前に終わらせないと)
レーザーの弾幕。最初の頃は避けていた魔人だが、その数の多さに次第に余裕がなくなっていく。
「クソが!」
弾幕の圏内から離れるために、さらに上空へと飛行する。
「このときを待っていたんだ」
そのタイミングに合わせて、大きな角から撃ち放つ。
「⁉」
120mmの短砲身による攻撃は魔人の身体を完全に捉えた。移動のタイミングに合わせられた魔人は回避動作が間に合わず、直撃を受ける。
だがそこは魔人。当たる直前に全身に鎧をまとって、ダメージを抑えることに成功する。地上へと落下して粉塵が舞い上がり、しかしその中から瞬時に飛び出して戦車へと迫っていく。鎧は消しているが、その腕には金属の手甲。
「オラア!」
戦車の外皮へと打ち下ろす。頑丈に製造しているはずだが、イモムシの外甲殻が大きくゆがみへこんだ。
「信じられない……生身でこのリベリオンをへこませるなんて……」
子供サイボーグのつぶやきなど魔人は聞いていない。男は片手を上空へと伸ばした。
「ハッ、メタライズで足りねえなら、『俺自身を強化すりゃいい』! 『ライジン』!」
魔人の頭上の空に、積乱雲のような巨大な雲が出現する。そこから一筋の雷が魔人へと落ちた。
魔人が使ったこの『ライジン』は、『ハイドロ』と『オーツー』を組み合わせて応用した、雷魔法。
雲は水や氷晶の塊だ。ハイドロによって巨大な雲を形成し、その雲が吹き飛ばないギリギリの風速で、オーツーで雲内部を攪拌していく。これによって雲内部の氷晶たちが無数にぶつかり合い、静電気が発生、蓄積され、やがて強力な雷へと成長させていくのだ。
要は、自然界における雷雲発生の原理を、この魔人は自身の魔法によって再現したわけである。
そして出来上がった雷を自身にまとう。電気によって筋肉や神経などの身体各部を刺激し、通常時の何倍もの身体能力を発揮させるのだ。
普通の人間よりも身体が丈夫な魔人だからこそできる芸当だった。
バチバチと、全身から火花を散らせながら、もう一度魔人が振りかぶった。
「ブッ壊れやがれ!」
(まずい……!)
いかに高性能で丈夫な戦車といえど……いやハイテク技術が用いられている戦車だからこそ、電気をまとった一撃を受ければひとたまりもないだろう。
すぐさま回避しようとするのだが、
(だめだ! 避けられない!)
イモムシ戦車の弱点の一つ、鈍さが祟った。搭乗している子供サイボーグの焦りとは裏腹に、戦車リベリオンはのろのろとして回避動作が間に合わない。
そしてマズイことがもう一つ。乗っているヴェーダはサイボーグだ。すなわちハイテク戦車と同様、電気の一撃で機能停止に至る危険性が高い。たとえ機能停止は免れたとしても、平時と同様に動けるようにはならないだろう。
その拳が戦車リベリオンの外骨格を打ち砕こうとしたとき、横合いから何かが現れて、魔人の身体を蹴り飛ばした。
「ガッ!」
戦車の横に立つそれは人間、カラテ道着を着た男だった。額にはハチマキ、そして両手両足には何やら包帯のようなものを巻いている。
「テメーは、さっきの……」
魔人がすぐさま立ち上がる。
「どうして俺のライジンが効かねえ」
「ふむ、どういう原理でまとっているのか知らんが、その電気みたいなものか。そんなもの、気合で耐えた……と言いたいところだが、実際はこの絶縁テープを巻いているおかげだ」
隠しごとのできない性格なのか、馬鹿正直にカラテ家が答える。
「ハッ、バカみてーにベラベラしゃべりやがって。イイゼ、そんなに自信があんなら、その自信ごと何もかも全部斬り裂いてやる。もちろん隣のムカつくイモムシも含めてナア」
魔人が刀を生成しようとしたとき、声が響き渡った。FIB男の声だ。
「そうはさせない!」
立派なマークの付いた手帳を向けながら、
「FIB権限において、おまえをただちに逮捕する! 覚悟しろ」
その隣にFIB女や、MOBの二人も立ち並ぶ。若青が言った。
「おまえは宇宙取締法も破ってんだかんな! FIBだけじゃなく、俺たちもおまえを捕まえて宇宙の彼方に追放してやる!」
「おい、あいつはFIBの管轄だぞ」
「いーや、俺たちが捕まえるね」
ギャーギャーと言い合う二人にイライラして、魔人が叫んだ。
「ハッ、ザケタことぬかしてんじゃネエ! テメーラだけでこの俺が倒されるわけねえだろーが!」
思い出したように二人が魔人に向く。四人の老若男女は口をそろえて同時に言った。
「「「「誰が俺(私)たちだけだって」」」」
「アア?」
そのとき、上空からいくつもの光が地上の魔人の姿を捉える。何機ものヘリだった。また魔人の周囲を取り囲むようにして、無数の人間が現れる。黒のスーツと青のスーツ群。
「FIBの応援を呼んでおいた」
「この国の危機だ。俺たちだって全員出動だぜ」
彼らが一斉に、魔人へと銃口を向ける。
FIB男と若青が言った。
「「もう終わりだ。観念しろ」」
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