VS チーム・アイオリス (対戦相手(作者さま):暗黒星雲さま)

【神の代理戦争】 【VS:空間駆動戦車リベリオン★搭乗者はヴェーダ君】 【ダイス:③➏】 【戦名:おかいもの】

(約2600文字) その一 雪の降りそうな夜。すれ違う人々。

【神の代理戦争】

【VS:空間駆動戦車リベリオン★搭乗者はヴェーダ君】

【ダイス:③➏】

【戦名:おかいもの】


《アパートの一室》

「ふーん、要はこれでリストの中のものを、相手より先に五個買えばいいんですね」

 実際はサイボーグだが、見た目は完全に子供のロボット――ヴェーダが手にした黒色のカードを見て、納得したように言う。

 とはいえ、対戦相手がどこにいて、誰なのか、まったく分からないのだが。

 カーテンが開いたままの窓からは、夜を思わせる暗闇が広がっていた。

 次にテーブルに置かれているリストを手にもって、

「どれどれ、何を買えばいいのかなっと……げっ」

 驚き半分、面倒くささ半分の声を漏らす。

「こんなのどこで買えるんですか。そもそも本当に売ってるんですか。それに最後の……」

 リアクションするのが面倒だったのでさっきからずっと無視していたが……そばに鎮座している大きな黒い球体に目を向ける。リストの文脈から察するに、黒曜石を粗削りした球体らしい。

 自分がいるこの部屋と、対戦相手が召喚されたであろう部屋の両方に、この球体は置かれているそうだ。

「対戦相手の部屋に置いてあるこの球体を買えって……いったい誰から買えばいいんですか……。まさかその対戦相手からとか……いやいやまさか……」

 売ったら相手の有利になるだけなのに、売るわけがない。

 とにかく、子供のサイボーグは対戦に必要な準備――ブラックカードに氏名とパスコードとパスワードを記入して、部屋の扉から外へと出る。

 年末の時期らしく、冷気を含んだ風が吹いている。

 扉を開けてすぐのところに見えるアパートの駐車場に、三つの角が伸びた大きなイモムシのようなものがあった。子供サイボーグが搭乗して操作する、空間駆動戦車リベリオンだ。

「どこにいったのかと思ったら、こんなところに転送されてたんですね」

 見知ったものに出会って安心半分、この戦車が『おかいもの』するだけのこの戦いで役に立つのか不安半分。

 そんな複雑な心境を抱えて、子供型のサイボーグ、ヴェーダは戦車に乗って夜の街へと繰り出していった。


《多くの人々でにぎわう道路》

 自由の国。

 そう、ここは自由の国だ。

 周囲に迷惑をかけない限り、どこに行くのも、何をするのも、どんな思想を持つのも自由。

 もちろん、どんな格好をするのかも。

(しかし……あれはいったいなんだったのだろうか……?)

 そんなことを考えながら、カラテと呼ばれる異国の格闘技の武道着に身を包む男は、喧騒に満ちた道を歩いていく。

 およそ数週間ほど前、いつも通りのトレーニング後の深い睡眠から目覚めたとき、部屋の中にそれまでなかったはずの黒い物体が二つ置いてあった。

 ……いったいこれはなんなのか、誰が運んできたのか、いやそもそも部屋に鍵は掛けてあったはずなのに……。

 目覚めた当初はそれらの疑問が頭に渦巻いていたが、二つの黒い物体を見つめているうちに、不意に、それらを自身が体得しているカラテの力と技で削りたいという衝動が湧き上がってきた。

 なぜそのような衝動が湧いたのか、それすら疑問に思わずに、それからしばらくの間、男は不眠不休で黒い物体を己の体技で削り続けた。

 削り終わったあとは疲労で泥のように眠った。起きて、出来上がった二つの黒い球体をぼんやりとした目で見つめていると、またしても衝動が湧き起こってきた。

 今度はこれらの球体を、とあるアパートの部屋に、それぞれ一つずつ運び入れなければならない……という。

 そしてその作業も終えたのが、つい数日前。

 いまは日課のトレーニングを終えて、夕食のために近くの飲食店に向かっているところだった。

 ここは自由の国。誰がどんな格好をしていても、ときどき不思議そうな視線を向けられたり、はにかむ様子を見せられることはあっても、服装だけで通報されるということはない。まあ、周囲に迷惑をかけていなければ、だが。

 だから、カラテの武道着を着ている男のことも、誰も別に注意はしない。

 特にいまはクリスマスが過ぎたあとの年末。この男を注意するというのなら、クリスマスに世界中の子供たちに夢と希望とプレゼントを届けて回っている、白髪白髯のおっさんなんか毎年つかまっていることになってしまう。

 そして気にしないのはカラテの男も同じこと。

 向こうからウェイター服を着た、イライラした様子の男がすれ違っても、気にしない。

 背後の道路から、イモムシのような大きな乗り物が追い越していっても、気にしない。

 カラテ家は気にしない。他の人たちも気にしない。気にしなくても、そんなことには関係なく、この世界は回っている。回り続けている。

 ここは自由の国。


《大統領執務室》

 コンコンとドアがノックされた。

 返事をすると、一人の若い男が入ってくる。秘書だ。

「どうした、こんな時間に」

 執務机の椅子に座って、なんとはなしに窓の外を見ていた大統領が尋ねる。

 一枚の書類を手に持つ秘書が答えた。

「CAIからの情報です。とある街の店にて、奇妙なカードによる支払いがおこなわれたそうです」

「カード?」

 大統領が振り返る。

「はい」

「クレジットカードだろう? それがどうかしたのかね?」

「CAIからの報告によりますと、黒色のカードで、奇妙に思って調べたところ、既存のクレジットカードのどれにも当てはまらなかったそうです」

「……。誰が所持していたのかね?」

 秘書が書類に目を落とす。

「二人います。一人はウェイター服を着た男。もう一人はロボットのような見た目をした子供です」

「ウェイターと、ロボット?」

「はい。おそらくはコスプレ……仮装でしょう」

 大統領が苦笑いする。

「ハロウィンはとっくに過ぎたぞ」

 つられて、秘書も苦笑した。

「年末ですからね。浮かれて、そのような格好をする者もいるんでしょう」

 大統領は少しだけ考える素振りをする。

「なんの店だ」

「男の方は洋服店。子供の方はパン屋です」

「普通の店か? マフィアや犯罪シンジケートのアジトという可能性は?」

「まずないかと思われます。どちらも、どこにでもあるようなごくごく普通のショップです」

「ふむ……」

 息を一つついて、大統領は再び窓へと振り返る。

「それなら問題はないだろう。ホワトイハウスやCAIやペンゴタンが、善良な一般市民の買い物に文句を言うべきじゃない。放っておけ」

「はっ。かしこまりました」

 一礼して、秘書は部屋から出ていった。

「…………」

 大統領は宵闇に包まれている窓の外を眺め続ける。

 雪が降りそうな夜だった。


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