(約2700文字) その三 壊滅する都市
――
「クソが! ジャマなんだよ!」
ただ重いだけでしかなくなった鎧を、魔人は爆ぜるようにして飛び散らせる。それらの破片を巧みにかわしながら暗殺者が軍用ナイフを向けて迫ってきて、ボーイは刀でそれを受け止めた。
そのまま激しい剣戟を繰り広げるが、刃渡りの長さでは魔人が有利とはいえ、剣術自体は暗殺者の方が熟練しているらしい。
刀身を弾かれて、ボーイが腕を上に大きく開く。無防備になった胴体を、暗殺者のナイフが斬り裂いた。
「仕留めた! デストリエルさま、この俺があなたさまの敵を討ち滅ぼしました!」
「ハッ! 誰が死んだって?」
暗殺者が仕留めたはずの魔人の姿がぼやけ、跡形もなく霧散していく。
そして背後からの声に振り返ろうとした暗殺者を、魔人が風で吹き飛ばした。
「チッ! 蜃気楼なんて使いたくなかったが、仕方ねえ」
忌々しそうに魔人が吐き捨てる。
いま使ったのは酸素を生み出す魔法の応用……酸素の密度を変化させ、光を屈折させることで蜃気楼を――このときは自分の姿を――映し出したのだ。
とりあえず向かってくる敵は片付けた。空飛ぶじゅうたんを呼び出すために、足元に魔法陣を展開しようとしたとき……アナウンスが放送された。
『鎧と兜を脱いだみたいね。それなら聞こえるでしょ。『デストリエルの巫女』として命じるわ、私の対戦相手は自害しなさい』
自分への、直接命令。
これで確定した。こいつは確実に、俺のことを『見て』いやがる……!
「ハッ! 誰が自殺なんかするかよ!」
魔人は銀色のバリアの向こう、敵がいるであろう都市の反対側を見やる。バリアは確かに銀色に染まっているが、ほのかに透明感があって、目を凝らせば、空や建物の外観などがうっすらと透けて見えた。
おそらくは、都市の高い建物などから、双眼鏡や遠眼鏡などでこちらを覗いているのだろう。
銀色のバリア、そしてその向こうの敵がいる都市までは、まだかなり距離がある。魔法陣の展開射程外だ。
空飛ぶじゅうたんに乗った魔人は、猛スピードで銀色のバリアへと向かう。
ここら一帯のスナイパーは片付けてある。滑空を邪魔するものは何もない……そう思ったとき、魔人の目の前に、何羽もの鳥が飛んできた。タカかワシか、もしくはそれ以外か、よくは分からないが大型の猛禽類だ。
それらの猛禽類の身体に、何か細長いものがヒモで取り付けてあった。
ダイナマイトだった。
「……⁉」
空を震わす爆発が立て続けに起こった。
爆風と爆熱にさらされて、魔人が地上へと落下する。しかしそこは魔法の使い手、すんでのところで鎧をまとったことで、ダメージ自体は負ったものの動けないほどではない。
「こ……の……!」
鎧を解いてすぐさま立ち上がろうとしたとき……目の前に二頭連れの馬車が迫ってきた。
「⁉」
すぐに行動しようと鎧を解いたことがあだになった。馬の後ろに立つなという言葉があるくらい、馬の蹴る力は驚異的だ。ぶつかり、踏みつけられ、勢い余って、魔人は石畳の道の向こうへと吹き飛ばされる。
並みの人間ならば死んでいただろうが、そこは魔人、全身にダメージを受けたがなんとか生きていた。
停止した馬車から顔を覗かせたマフィアが、魔人へとショットガンを向けた。
「デストリエルさまの敵に死を!」
その引き金が引かれようとしたとき、魔人が手のひらに小石を出現させて、マフィアへと投げた。ただの投石と侮ることなかれ、投げられた小石は風のブーストを受けて急加速し、ショットガンの銃口に見事はまり込む。
そしてマフィアが引き金を引いた瞬間、
「ぐあっ⁉」
ショットガンが暴発して、マフィアが地面へと転がり落ちる。
「ハッ! ザマーミロ……!」
悪態をついて、魔人が立ち上がろうとする。それを邪魔するように、またしても空からダイナマイトをつけた大量の猛禽類が舞い降りてきた。
「……⁉ クソが!」
魔人が手をかざし、暴風が吹き荒れる。最初、いきなりの暴風に猛禽類は吹き飛ばされるが、そこは鳥類のなせる業、すぐさま風の流れを読んでその流れに乗った。逆に追い風として、さきほどよりも加速して魔人へと襲い掛かる。
「……⁉ ンだと……⁉」
爆風であれば鎧で防ぐことができる。しかし爆熱まではそうはいかない。むしろ鎧をまとうことで、その内部の魔人の身体に高熱が蓄積されていくだろう。
さきほどの爆撃のように数が少なければまだ耐えられるが、これほどに数が多くては……。
周囲の建物すら巻き込んだ連鎖爆発が魔人の身体を飲み込んだ……。
と思われた次の瞬間、舞い上がった煙の上から、魔人が猛スピードで飛び出してくる。空飛ぶじゅうたんに乗っていないというのに、なぜか空中に浮いて、高速移動していた。その両足の下に、それぞれ小さな魔法陣が浮かび上がっている。
「ハッ! じゅうたんに乗るよか、こっちの方が便利だゼ!」
特に新しい魔法を使ったというわけではない。これはいままでに編み出した魔法を組み合わせて、応用しただけ。
要は、靴の中敷きを空飛ぶじゅうたん製のものにしたのだった。より正確にいうならば、空飛ぶ魔法のじゅうたんを中敷きの形にして、靴の中に展開させた。
これだけでも空を飛ぶことはできるようになるが、それに風魔法による推進力を加えて、高速移動を可能にした。またじゅうたんに乗る手間がなくなるため、空中での行動制限が取り払われ、空中戦がより容易になった。
まるで某ドラゴンのボールを集める者たちが空中を自由自在に飛ぶように。
名付けるとすれば――『スカイウォーカー』だろうか。
空中から周囲を見ると、いくつもの建物の屋上に、何羽もの猛禽類を従えた者たち……鳥使いたちがいた。またも猛禽類を解き放とうとしているその鳥使いたちに、
「さんざんジャマしやがって! おとなしく寝てやがれ、永遠にな! 『エアシューター』!」
拳くらいの大きさの石をいくつも生成し、それらを風に乗せて高速で撃ち出す。屋上にいた鳥使いたちと猛禽類は撃ち抜かれ、ついでにダイナマイトにも当たったのだろう、至るところで爆発が起こった。
彼らを片付けて、魔人がバリアへと滑空していく。もはや邪魔するものは何もない。周囲にノイズが走った。
『……どうして自害しないのかしら? 耳栓をつけてるわけでもなさそうだし……あなた、人間じゃないの?』
「ハッ! 人間を操れるってか! だったら残念だったな、俺は『魔人』だ! クソヤロー!」
何かしらの方法でこちらを見ているらしいが……言ったところで聞こえているわけがない。
すぐさまバリアの前へと到達したボーイは、上空へと手をかざした。バリアの向こうの都市、その天上にいくつもの魔法陣が展開し、そこから隕石が顔を覗かせる。
「どこに隠れてようが、全部ぶっ壊しちまえば関係ねえ! 『メテオレイン』!」
大量の隕石が、都市を蹂躙していった。
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