VS ネガ・セクステット (対戦相手(作者さま):ビトさま)
【神の代理戦争】 【VS:囁きの『メフィストフェレス・フェアヴァイレドッホ』】 【ダイス:②➎】 【戦名:『がちゃ』】
(約2200文字) その一 ガチャを回す白ウサギ
【神の代理戦争】
【VS:囁きの『メフィストフェレス・フェアヴァイレドッホ』】
【ダイス:②➎】
【戦名:『がちゃ』】
「おかしい……」
巨大なカジノ施設。広大なその内部、吹き抜けとなったその中央部に鎮座する、モノリスを彷彿とさせる巨大な携帯端末の前にいるものが、ちいさくつぶやいた。
見た目はただの白いウサギ。しかしてその正体は、『囁きの悪魔』の異名を持ち、かの有名な伝説に登場したメフィストフェレスだった。正確には『メフィストフェレス・フェアヴァイレドッホ』という名を持つその白ウサギは、携帯端末の前で、しきりに小首をかしげていた。
「おかしい……一万連ガチャでも当たらないなんて……」
携帯端末からは何かのアニメキャラのイラストと可愛らしいボイスが、もしかしたら永遠に続くのではないかと思うくらい、延々と代わるがわる表示され続けていた。
今回の戦いのクリア条件であるSSSSSSSレア(7Sレア)を引き当てるために、目の前の携帯端末で一万回連続のガチャをおこなったのだが……6Sレアまでは何枚も出現したのに、肝心の7Sレアだけが出なかった。
小さな白ウサギ――メフィストフェレスは、ここに召喚されたほんの少し前のことを思い返す。
召喚されたのは赤いじゅうたんが敷き詰められた廊下だった。とはいえ白ウサギは自由自在に姿と声を消すことができ、そのときも完全に存在を消していた。
そのため戦いの説明をしようと待っていたバニーガールは、召喚されたはずなのにその場に誰もいないのを見て、目を丸くしていた。被召喚者を探そうと、困ったように周囲を見回すそのバニーガールの肩に、白ウサギが飛び乗る。
「やあ、奇遇だね、きみもウサギなのかい。可愛いね。僕はメフィストフェレス。この戦いについて教えてくれないかな」
その声がバニーガールの耳に、その奥につながっている脳に届いた途端、彼女は糸が切れた操り人形のように、がくんと肩を落とし、その瞳からは光が消えていた。
いま表現として糸が切れた操り人形という比喩を用いたが、実際にバニーガールにもたらされた状態はその真逆、彼女はメフィストの声を聞いた瞬間に、まさに白ウサギの傀儡と化してしまったのである。
そしてバニーガールは生気を失った瞳と声で、淡々と説明し始めた。
今回の戦場は『がちゃ』。クリア条件はカジノ施設中央にある携帯端末でガチャをおこない、最上位レアのSSSSSSSレア(7Sレア)を引き当てること。
そしてそのガチャを含め、施設内のギャンブルをおこなうためにはメンバーシップカードを作る必要があること。カードには名義が登録されているため、仮に他者のカードで7Sレアを引き当てても、その持ち主がクリアするだけで、自分の勝利にはならないこと。
他にも……ガチャを含めた各種ギャンブルや施設のサービスの利用にはチップがいること。チップがなくなったら質屋で物品と交換したりアルバイトで増やすようにとのこと。あるいは地下で命賭けのギャンブルをして稼ぐようにとのこと。
殺害や強盗などの犯罪にはチップ減少のペナルティが科せられる……といった説明があったが、それらは白ウサギにはあんまり関係がなかったので、適当に聞き流しておいた。
メンバーシップカードを作った白ウサギは、バニーガールの肩に乗ったまま、中央の携帯端末まで連れていってもらう。
「ふうん、これにカードをかざせば、ガチャできるんだね」
バニーガールがうなずく。他のギャンブルについては、その都度、担当の係員から説明を受けてくださいと言っているが、白ウサギは聞き流す。こんな戦いはさっさと終わらせるに限る。他のギャンブルには用はなく、目的はこのガチャだけだ。
「それじゃあさっそくガチャを始めるけど、その前に、まずはきみと、それからここにいる全員のチップを譲ってもらおうかな」
白ウサギの肉声には魔力が宿っている。メフィストフェレスの声が周囲に浸透したその瞬間、カジノ内にいたあらゆる人間が近寄ってきて、悪魔が手にする会員カードに自分のカードをかざしていく。
「やあやあ、親切な人たちがたくさんいて、僕はとってもうれしいよ」
こともなげに、あるいはいけしゃあしゃあと、白ウサギは言う。
確かに強盗や殺害といった犯罪にはペナルティが科されている。しかし譲渡には科されていない。魔力を行使したとはいえ、白ウサギが実行したのはあくまでチップの譲渡であり、強盗ではない。
このようにして、たちまちのうちに、囁きの悪魔メフィストフェレスは莫大なチップを手に入れたのだった。
ガチャ端末の周囲にあふれんばかりの人間が集まっている……異変に気付いたカジノの総支配人が下りてきて、なにごとかと、人波をかき分けて白ウサギの元へとやってくる。なにか文句を言いたそうなその総支配人だったが、
「何も問題はないよ。みんながチップを譲ってくれただけなんだから。きみはそこで、僕が7Sレアを引き当てるのを見物していてくれたまえ」
他の有象無象と同じように、瞳から光を消失させて、総支配人がうなずく。
そうして白ウサギ――囁きの悪魔メフィストフェレスは巨大な携帯端末の前に、ちょこなんと佇むと、可愛らしい前足に持ったメンバーシップカードをかざして、完全に運しか頼るものが存在しない究極のギャンブル――ガチャを回したのだった。
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