第37話 名推理

「なにやってんだよ」


 三上はいつもの木の下にいた。


 ウサギになった俺を見ると、嫌そうに顔をゆがめ、牛乳パックのカフェオレをストローでちゅうちゅう吸いはじめた。体育座りの背中が丸い。


「なんで橋本の誘いを無視した? ほかのみんなとも仲良くなれるチャンスだったのに」


「なんか文句あるわけ?」


「いや、陽キャラグループに遠慮するのはわかるんだけど、あんな態度じゃ、周囲からの印象が悪いだろ。玉城や橋本にも申し訳ないし」


「どうでもいいでしょ、そんなこと」


「良くねぇ。俺だってな、一応、これまでお前の友達づくりを助けてきたんだから」


「あっそう」


 素っ気ない返事。かなり機嫌が悪い。


 俺は三上の隣にすり寄ってみたけど、まともに目も合わせてくれない。


 あれ? 俺ってまだ許されてなかったっけ?


 いやいや。すれ違いは全部解決して、仲直りしたってことでいいはずだ。俺の部屋にいたときも、すごく雰囲気良かったのに……。


 なんで今日はこんな感じなんだ?


「なんかあった?」


「別に」


 つまらなさそうに頬杖をつく三上。


 そのきれいな横顔を見ていると、この前のことが思い出されて、胸の鼓動が早くなる。結奈の邪魔さえなければ、俺たちはあのまま……。


 ん? 待てよ。これって……。


 コテリン! 


 閃き舞い降りる。


 そうか! そういうことだったのか!


 あれだけ打ち解けたっていうのに、この冷め切った態度。


 間違いない。


 三上は恥ずかしがっているのだ。


 あんなことがあったから、俺のことを意識するあまり、顔を合わせることもできず、そっけない態度をとってしまう。だから、本当は好きなくせに、その人のことを避けてしまってうまく話せない。


 いわゆる「好き避け」ってやつだ!


 三上、かわいすぎない?


 しょうがないな。お前がそこまで俺に惚れ込んでいるなんて……。


「三上」


「なに」


 俺は三上の尻にピトッと身体をくっつけた。


「ちょっ、なにしてんのっ。きっしょい」


 はいはい。本当はうれしいのね。わかってますよ。

 このまま寄り添っていれば、三上もそのうち素直に……。


「どういうつもり? この変態ウサギ」


 三上がこっちを睨みながら、俺の頭を鷲づかみする。

 たちまち広がる脳天がつぶれるような頭痛。


「いってぇ!」


 俺はすかさず飛びすさり、三上から距離を取った。


「それやめろっ、しゃれになんねぇから」


「自業自得でしょうが」


 おかしい。三上のやつまだ恥ずかしがっているのか。それとも、俺の思い過ごしか。だとしたら、恥ずかしいのはこっちの方だ。


 っていうか、三上が俺に照れていることと、橋本の誘いを無視したことは関係ないじゃないか。俺としたことが、つい舞い上がってしまった。


 話を戻そう。


「で、結局さっきはなんで……」


 しかし、そのとき、俺の敏感な耳が、芝生を踏む足音を拾った。

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