その後

第48話 ウサギが玉城の縁結び!? 

 騒ぎから数日後。


 俺は学校で意外な人物に呼び出された。


「用事なら、家で聞くんだけどなぁ」


「手短に話すよ」


 セーラー服に身を包んだ結奈だ。

 家ではかけていない銀縁メガネに膝丈のスカート。真面目な雰囲気に、俺は一瞬別人かと思った。なにしろ、学校で結奈に会うのははじめてだから。


「だからって、わざわざこんなところに……」


 暑い風が俺と結奈の間を流れていく。


 中等部と高等部をつなぐ渡り廊下。コンクリートの上にすのこが敷かれた半屋外である。教室から遠いこともあって、業間だと誰もいない。


「暑いし、さっさと終わらせ……」


「突然だけど、修兄に玉城さんの縁結びを任せたい」


 ん? 今なんて? 俺の聞き間違い?


「はぁ?」


 思わず間抜けに聞き返す。


「だから、玉城さんの縁結びを任せるって」


「なんで?」


「玉城さんの本性を知ったの」


「ああ……」


 唐突すぎた結奈の話だったが、それを聞いて納得した。


 夏祭り直後はチヤホヤされていた玉城だったが、女子連中との衝突により性格の悪さが露呈。美人の噂はかき消され、まったくモテなくなった。


 なにより、あのあと本人に取り繕う気がなかったことも大きいけど。


「正直、玉城さんがあんなんだとは思わなかった」


「そんなに言ってやるなよ」


「あれでは相当時間がかかる」


「でも、縁結びの願いはたくさん来てるんだろ? なんとかならないか?」


「成果を出すのに労力がかかりすぎる。費用対効果が見合ってない」


 なるほど。効率重視である結奈のスタイルなら当然か。


「どうせ、仕事もなくて暇してるだろうし、こういう厄介な人の縁結びでもいいでしょ。修兄なら、玉城さんと仲の良い三上さんとも付き合ってて動きやすいし」


「おい、なんで知ってんだ」


 誰にも言ってないんだが……。


「むしろ、知らないと思ってたんだ? 放課後、毎日のように、プレハブ小屋に連れ込んでるくせに」


「なっ、バレたのかよ」


 こっちとしては、細心の注意を払っていたんだけどな。もちろん、鍵もしっかり閉めて、イチャイチャタイムを決してジャマされないように……。


「ということで、修兄、あとはよろしく」


「あっ、おい」


 結奈は俺が文句を垂れる隙さえ与えず、敬礼みたいなポーズをとって踵を返した。


 俺は小さくため息をつく。


 なんだよ。結局のところ成果が出ないと判断した縁結びを俺に押し付けていっただけじゃねぇか。これでは、まるで敗戦処理投手。


 当然、断る。以前の俺ならね。


 でも、今は違う。


 この仕事、俺に任せてほしいと思った。こんな気持ちになったのは、ある意味はじめてかもしれない。


 そう、今の俺ならウサギの力を使って、なんとかできそうな気がするのだ。


 三上たちを導いたみたいに……。


「結奈」


「なに」


 俺に呼び止められて振り返った結奈は、実に面倒くさそうな顔をしている。


「言っとくけど、拒否権はないよ。自分でどうにか……」


「その縁結び、俺に任せろ」


「……」


 結奈は驚いたのか、その場に釘付け。


 まさか、あの無能で自堕落な兄から、こんな反応が返ってくると思っていなかったのだろう。目をパチクリさせて、俺を見ている。


「修兄、とうとう頭がおかしくなった?」


「失礼な。俺がやるっつってんだよ」


「珍しいこともあるもんだ」


「うっせぇ」


 ふて腐れたように言ってやったが、結奈はそんな俺に一瞬だけ微笑み、


「まぁ、頑張れば」


 てくてくと中等部の方へと戻っていった。


 珍しいこともあるもんだ。あの結奈が俺にまともな言葉をかけるなんて……。


 なんだか、俄然やる気が湧いてきたかも。


 よし、早速相談だ!

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