第19話 いちご1000%
ふたりがけの白いテーブルで向かい合う俺と三上。
その間には、高くて甘い山が二峰。
「うぅ、おいしぃぃ……」
三上は、細長い銀のスプーンで、いちごが大量に突き刺さったパフェをつつき、頬をパンパンにしていた。パフェは帽子を脱いだ三上のおでこくらいの高さがあるけど、この勢いなら悠々完食するだろう。
「うまいけど、甘い……」
一方、俺は自分で頼んだチョコレートパフェのあまりの甘さに、早くも辟易していた。俺だって、別に甘いものが苦手なわけではない。むしろ好きな方。だから、最初の数口は、とろけるようなうまさを感じたんだけど、しばらくすると、やはり塩っ気がほしくなってくる。汗もいっぱいかいてるしな。
「ああっ、さいっこう」
そんな俺とは対照的に、三上は頬に手を当てて微笑みを浮かべている。
なんだよ。超かわいいじゃんか。
幸せそうにパフェを頬張る三上は、まさに天使そのものだった。なるほど、甘いものがあればこの顔が見られるのか……って、普段からそういう顔してればいいのに。
「ん? なんだ?」
すると、ずっとパフェに夢中だった三上が、もぐもぐしながらこちらを見てくる。
「ペースが落ちてるみたいね」
「あぁ、うまいんだけど、辛いものも欲しくなって」
「カレーとか頼めばいいじゃない」
「そうだな。昼飯もここで済ませていくか」
「あんたもまだまだね」
「確かに、お前の勢いには負けるよ」
甘いもののおかげか三上はなんだか上機嫌。こうして話している間も、三上はチラチラとこっちに視線をよこしながらも、パフェを食べる手が止まらない。
「いいわ。私がちょっと手伝ってやるわよ」
「お前、俺のやつが食いたいだけだろ」
「そ、そんなことは……ある」
三上は顔を赤くしながらも、まだ半分ほど残っている俺のチョコパフェを恨めしそうに眺めている。
「いいよ。あと全部やるよ」
「ほんと!?」
ぱぁっと顔を明るくする三上。
ねぇ、なんか今日の三上が素直な瞳でかわいいんですけどぉ!
俺は自分のパフェを差し出すと同時に、これって間接間接キスくらいにはなるよな、としょうもないスケベ心を発動させていた。
「やっぱり、ちょっと残しとけよ」
「あんた、私の食べさしが欲しいだけでしょ」
「そ、そんなことは……ある」
見破られてしまったか。でも、三上はとくに怒った様子も見せず「仕方ないわねぇ」と、俺のパフェを食べはじめる。
「こっちも食べたかったのよねぇ」
「あんまり食うと太るぞ」
「たまにはいいもん」
本当に上機嫌だ。いつもはトゲトゲした言葉の節々が、今日は音符に変わっているかのようだ。ここまで幸せそうにパフェを食べる姿を見ていると、少しくらい太っても構わないんじゃないかと思う。
「はい、どうぞ」
すると、三上は俺の要望通り、まだパフェが残った状態で戻してくれた。正直、もう甘い物は食べなくてもいいんだけど……。
ん? これは……。
俺は器の中に白いクリームのついたいちごを見つけた。
「あげるわよ」
三上がぷいっと横を向きながら、つぶやいた。
手にはスプーンを持ったまま。
「お、おう。サンキューな」
どうやら、俺がよそ見をしている隙にいちごを入れてくれたようだ。
おいおいおい。お互いのパフェを分け合うだなんて、まるでカップルみたいなやり取りじゃねぇか。間接間接キスとかいうきっしょい願望が、なかなかロマンティックな形で実現して、ちょっとだけ戸惑う。
そっぽを向く三上が、チラチラと視線を送ってくる。これ、いつもの拗ねているときと雰囲気が違う。きっと三上は照れながらも、俺がいちごを食べるのを待っているのだろう。
こんなの照れるに決まってるだろ。
さすがの俺も三上から視線を外した。
そして、俺はここへ来てはじめて店内を見渡した。昼飯時ということで席は埋まりつつあるが……。
カップルだらけじゃねぇか。
やばい。また変なふうに意識してきた。胸のむず痒さを感じた俺は、キャッキャと談笑に耽る若い男女から視線を逸らすも、向かいの三上と目が合ってしまった。
「な、なんか、カップルばっかりみたいね」
「ははっ、ほんとな」
三上はぎこちなく笑ってみせた。まさに、ドキドキの原因がそこにいた。
しっかりしろ。これはデートじゃない。このあと、三上と橋本の仲を取り持つという大仕事が控えているのだ。
行き場をなくした俺の視線は、このベタ甘の空気から逃げるようにパフェの器の中へと吸い込まれた。しかし、そこで待ち伏せしていたのは三上がくれたいちご!
「さて、パフェはさっさと片付けて、早く飯でも食うとするか」
俺は胸の動悸に見て見ぬ振りをして、残りのパフェをかきこむ。三上のいちごはチョコにも負けない超絶な甘さだった。
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