第17話 三上とデートか!?
放課後。
俺はひとりで帰路につく三上の背中を追いかけた。
「おい、三上」
「なんだ、あんたか」
俺が隣に並ぶと、三上は微かに顔をしかめてキョロキョロ。こんな住宅街に入ったら、誰も見てねぇよ。
「なんかいろいろと考えてくれてたみたいだけど、全部台無しね」
「誰のせいだと思ってんだ」
「橋本かすみのやつ、私が話してるのに、勝手に入ってきて……」
「でもお前、あそこで橋本と仲良くしておけば……」
「誰があんなやつと仲良くすんのよ!」
三上が拳を握りしめて、小さく叫ぶ。今朝のことで、すっかり橋本を毛嫌いしているようだ。こりゃダメだな。
俺としては、三上の友達づくりという観点からも、橋本とは仲良くした方がいいと思っている。今回のことだって、橋本に気に入られれば、夏祭りに誘われる可能性は充分ある。
実のところ、俺は今日一日、橋本についていろいろと嗅ぎ回っていた。そして、橋本が今週末にテニスの試合に出場するとの情報を入手した。従って、三上をテニス部の応援に連れ出すことで、橋本の好感度を上げようという作戦を思いついたのだ。
「ああもう、橋本かすみのやつ」
しかし、この様子じゃ、三上は橋本の応援なんて絶対に来ない気がする。今回の作戦、三上に黙って進めた方がうまくいくかもしれない。試合会場に三上がいたという事実だけでも、橋本には充分なアピールになるはずだ。
「なぁ、三上」
「なによ」
ブスッとした返事。橋本のせいで、三上のイライラが止まらない。
「今週末、ちょっと俺に付き合え」
「はぁ? どういうこと?」
「行きたいカフェがあるんだよ。ただ、男ひとりじゃ到底入れそうにない」
今考えたにしては、上出来な理由なのではなかろうか。なんかデートに誘ってるみたいで少々照れくさいけど。
「な、なんで私なのよ」
「どうせ暇してると思って」
「失礼ね!」
三上はカバンで俺のケツを殴った。教科書の重みで割と痛い。
「っていうか、カフェもひとりで入れないの? 情けない」
「しょうがないだろ。パフェとかがメインで女性客ばっかなんだから」
俺の脳裏には、駅前にあるキャピキャピしたスイーツの店が浮かんだ。あそこなら、いつも女子高生やカップルで溢れているから、俺の考えたシチュエーションとしては完璧。しかも、立地も最適でそのまま三上をテニスの試合会場に連れて行くこともできる。
「まぁ、私もちょうどスイーツ食べたいと思ってたし、そこまで言うなら……」
「パフェの1つくらい奢ってやるから、来いよ」
「えっ、ほんと!?」
三上は一瞬だけ目を輝かせたが、すぐ我に返りいつもの不機嫌顔に戻る。お前、本当は行きたくてウズウズしてるだろ。
「俺が付き合ってもらうんだから当然だ」
「うん」
こうして、俺は日曜日に三上とカフェに行く約束をした。ちょっとベタな誘い方だけど、三上も普通の女子高生らしくスイーツ大好きみたいで、ちょうど良かった。
「で、どこなのよ、その店っていうのは」
「駅ビル2階の……」
俺が立ち止まってスマホで店を調べると、三上が遠慮がちに画面をのぞき込んできた。栗色のお下げが揺れて、シャンプーの香りに鼻をくすぐられる。頬がふれそうなくらい近い三上の顔に、少しドキっとしてしまう。
「あぁ、そこ……確かに、男子ひとりで行くのはきついわね」
「へぇ、行ったことあるのか?」
「ないけど……前を通りかかっただけよ」
きっと三上は、こういうお店に友達と行ってみたいんだろうな。ひとりでは店内に入れず、指をくわえて前を通り過ぎる三上の姿が、目に浮かぶようだ。
「今度は玉城と行けるといいな」
「は、はぁ? なんでそうなんのよっ」
まぁいい。そのうち三上も友達いっぱいリア充になって、放課後に寄り道スイーツなんて飽きるくらいさせてやるさ。
そのためには、まず橋本を攻略だ。
これで、三上を連れ出すことには成功した。あとは、その場の流れで三上をテニスの試合会場に誘導すれば作戦完了。
待ってろ、橋本。悪いが、お前も三上の友達になってもらうぜ。
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