第16話 金髪スポーツ陽キャラ

「なになに? そんなにびっくりせんでも」


「はぁ、かすみちゃんですか。驚きましたぁ」


 軽々とした足取りで、玉城と三上に近づくのは、クラスメイトの橋本かすみ。小麦色の肌に金髪のショートボブ、着崩した制服。確かうちのテニス部で特待生だったはず。クラスの陽キャラ集団でもひときわ目立っていて、とくに玉城とはいつも一緒にいる仲だ。


「かすみちゃん、今日はずいぶん早いんですね」


「ほら、朝から英語の小テストあるから、朝練終わって急いで着替えてきたんや」


「そ、そうですか」


 ちなみに、これは俺の作戦ではない。橋本の登場は、いわばハプニングである。余計なことはしてくれるなよぉ……。


「ほんで? なに話しとったん? 夏祭り?」


「はい。去年行けなかったので」


「そうなんや。じゃあさ、今年はうちと一緒に行かへん?」


 橋本おぉぉ!


 玉城と夏祭りに行くのは三上なの! クソ。玉城を横取りされてたまるか。


 断れ! 玉城!


「いいですよ。行きましょう」


 そりゃそうだよなぁ。

 橋本は普段から玉城にベッタリ。客観的に見て、ふたりは親友同士と言っても過言ではないだろう。そんな友達の誘いを、玉城が断るはずはない。ましてや、橋本を切って三上と夏祭りに行くなんてありえないのだ。

 

 しかし、このまま黙っているわけにもいかない。

 俺は玉城との会話に夢中になっている橋本へと近づき、ピョンピョンとジャンプ。


「ん? あっ、ウサギやん!」


 橋本が俺に気づいて声を上げる。


「かわいい! 三上が飼っとるウサギやんな」


 しゃがんだ橋本は、その滑らかな指で俺の頭を撫でた。

 いいぞ。今となっては、三上が玉城とふたりで夏祭りに行くのは不可能だ。せめて、橋本も含めた3人で行きたいところ。ここはウサギの俺を使って、三上を馴染ませてやる。とはいえ、肝心の本人は、橋本の登場でさきほどからすっかり大人しくなっているが……。


「ちょっと、勝手に触んないでくれる」


 三上。喧嘩腰はやめてくれ。


「なんや、感じ悪いなぁ」


 ああっ、橋本。どうか三上を嫌わないで。もうお前に誘ってもらえないと、一緒に夏祭りは無理そうだから。


「あんたこそ、いきなり入ってきて感じ悪いんだけど」


「うちはただ、章子ちゃんと話したかっただけや」


「玉城章子は私と先に話してたの」


 やめろ。やめてくれ。


 嫉妬に狂った三上がどんどん攻撃的になっていく。せっかく玉城とふたりで話していたところに乱入されて腹立つのもわかるけどさ。なんとか落ち着かせようと、俺は三上にすり寄ってみたものの、もはや怒りで周りが見えていないようだ。


「章子ちゃん、三上がなんか機嫌悪い」


「三上さんはいつもこんな感じじゃないですかね」


「それもそうか。っていうか、章子ちゃんと三上って仲良かったんや。はじめて知ったわ」


「普段、あんまりしゃべりませんからね」


「別に、仲良しってほどでもないわよ……」


 イラつきながらも、どこかうれしそうな微笑みを浮かべる三上。なんてわかりやすい。そして、橋本は三上の微妙な表情の変化を見逃さなかった。


「ははぁん。三上、うちに章子ちゃん取られたから機嫌悪いんやな」


「ち、違うわよぉ!」


 三上はムキになって否定するが、それは逆に図星だと言っているようなもの。


「そうか。嫉妬したんか。それは悪かったわ」


「だから、違うっつってんでしょうがっ」


「本当は章子ちゃんと夏祭りに行きたかったんやろ」


「誰がこんなやつとっ」


「なんやお前、章子ちゃんにお情けで仲良くしてもらっとる分際で」


「あんたこそ、玉城章子の金魚の糞のくせに」


「糞にすらなれへんやつに言われたないわ」


「うっさいバーカ」


「黙れアホがっ」


 なんだかクソみたいな言い合いが加速する。三上も橋本も、お互いを殺気立った瞳で射貫きながら、罵倒し合っている。クラスでは華やかな橋本がどんどん汚れていく。どうして三上と絡むと、みんな汚くなってしまうのだろうか。


 っていうか、これもうダメだ。


 俺のイメージでは、ウサギを気に入った橋本が、三上も一緒にと夏祭りに誘ってくれるはずだったのに……こうも正面衝突してしまっては話にならない。


 やってくれたな橋本。

 作戦変更だ。

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