第31話 本人を前に愚痴るのか

 草の上で輪になって腰を下ろす3人。

 足を崩す三上、正座の玉城、あぐらの橋本。


 さっきまでのしんみりした雰囲気はすっかり吹き飛び、おしゃべりに花を咲かせている。三上が屋台で買ってきた林檎飴や唐揚げをつまみに、まるで宴会騒ぎである。


 俺はそんな3人の様子を、三上の膝の上から眺めていた。


「ええっ、じゃあ、なんなん? うちの早とちりやったってこと!?」


 唐揚げを頬張っていた橋本が、玉城と三上から事情を聞かされ身を乗り出す。


「そうですよ」


「ほんとバカね」


「三上は黙れ」


「なにおぉ!」


 両手を挙げて眉を尖らせるゴリラ三上。まるでどっかのギャングの娘みたいだ。


「いや、今回はかすみちゃんがバカすぎですよ」


「章子ちゃんがうちを攻撃してきた!」 


「そもそも誕生日プレゼントってなんですか?」


 玉城は前髪のヘアピンを撫でながら、呆れたように首をかしげる。


「えっ、章子ちゃん、今日、誕生日なんやろ?」


「違いますけど」


「うそおぉ!」


 橋本がゴロンと後ろにズッコけた。


 おい、ズッコけたいのはこっちの方だ。あれほど真剣にプレゼントまで用意したくせに、誕生日を間違えてたって、お話にならんだろうが。俺と三上は開いた口がふさがらない。


「ちょっと待って、メアドに書いてあったやん」


「あれはただの数字の羅列です」


「ええぇ、じゃあ本当はいつなん?」


「2月です」


 全然違うじゃねぇか。


 どおりで、玉城の察しが悪いと思った。そりゃ、いくら三上と橋本がコソコソしていたとしても、半年以上も離れた自分の誕生日と結びつけることなんてできない。そもそも、この様子だと、玉城は誕生日を口外していなかったみたいだし。


「やっぱりバカね、橋本かすみ!」


「うっさいわ!」


「考えてみれば、私ですら知らなかった玉城章子の誕生日を、あんたが知ってるわけないものね」


 三上がドヤ顔で橋本をマウンティング。

 自分こそが玉城の親友だと遠回しに自慢しているのか。


「いや、私は自分の秘密を三上さんだから教える、なんてことはないです」


 ほんと、玉城はこういうとき、さらっとダメージを与える発言するよな。


「あはは、三上、恥ずかしぃ」


「う、うっさい! ふたりともクソよ! クソ!」


 三上はシュンと縮こまって赤くなった。


 その姿を見て、玉城はまるで子どものおもりでもするみたいに、慈悲深い微笑みを浮かべていた。口ではああ言っていたけど、玉城にとって三上は、自分の素を出せる希有な存在なのだ。当然、橋本もそのことには気づいているわけで……。


「ところでさ、さっきの愚痴ってなんやったん?」


 無邪気な顔で、玉城と三上に話題を振る。

 鳥居の前で集合していたあのときに、時間が遡ったみたいだ。


 しかし、あのときの3人とは違う。


 橋本の問いかけに対し、玉城が真っ先に口を開く。


「伴くんですよ」


 その顔に遠慮の色はない。むしろうれしそうに目を細めている。


「ああ、同じクラスの。うち、あんまり喋ったことないわ」


 橋本もなんだか楽しそうに身を乗り出す。


「なんか伴くんにムカついてるみたいなんですよ。三上さんが」


「えっ、えっとぉ……」


 逆に三上は歯切れが悪い。

 そりゃそうだ。俺を手元に置いてるんだから。


「なになに、聞かせてや」


「伴くんがいかに最低か、じゃなかったんですか?」


 橋本と玉城から期待の眼差しを浴びる三上。


 冷や汗に困り眉。


 ふたりの期待に満ちた悪どい笑顔と、膝元にちょこんと座る俺を見比べる。

 

 かわいそうだから、席を外してやるか?

 っていうか、三上なら本人を前にしても、気にせず愚痴りそうなんだけどな。今さら、俺に気を遣う必要もないし。


「ああもう! わかったわよ」


 そんなことを思っていたら、三上が折れた。


「ったく、もう」


 嫌味っぽく言いながら、俺をチラッと見る三上。ふたりに促されたから仕方なく話しますよ、と聞こえてきそうな言訳染みた視線だった。


 いいよ、もう気にしなくて。お前は俺に遠慮するタイプでもないだろうが。


「言えばいいんでしょ、言えばっ」


 三上の口元がプルプルしてる。


 3人がそっと身体を寄せ合う。


 ど真ん中に愚痴られる本人がいるんですけどね。

 でも、甘酸っぱい香りがして幸せ。

 さて、どこまでボロクソ言われるのやら……。

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