第5話 お前、絶対、玉城のこと好きだろ
思いがけず、女子の家に行くことになってしまった。
体育館下のトイレを経由し、俺の着替えを回収してから20分ほど歩く。
薄水色の外壁と白い窓枠が印象的な家。
両親共働きだと言う三上は、自分で鍵を開けて自室に入るなり、一心不乱に掃除をはじめ、あっという間に片付けてしまった。
「こんなところね」
「ほとんど、クローゼットに詰めただけじゃねぇか」
「見た目が大事なの」
俺はベッドの上にチョコンと座り、6畳ほどの三上の部屋を眺める。
これが、女子の部屋か……。
「意外とかわいい趣味してんだな」
緊張を押し殺しながらつぶやく。
「悪い?」
「いや、いいと思う」
俺が座るベッドの掛け布団は、薄ピンクの控えめなハート柄。窓のカーテンは黄色地に緑の三角模様で、本棚に少女漫画が並ぶ。
部屋の中央には、白くて小さな丸机。その上には、ティーセットが用意されている。
「それにしても、あんたって、ほんと不思議よねぇ」
三上はドーナツ型のクッションに座り、透明なティーポットに入った琥珀色の紅茶
と、2つ並んだ白いティーカップを眺めている。
「もしかして、水をかぶると変身するってやつ?」
「そういう呪いの類じゃねぇよ」
「じゃあ、異性に抱きつかれると変身するとか?」
「これはそういう体質でもない」
「そうね。あんた、気づいたらウサギになってたし」
頬杖をついて、微かに笑みを浮かべる三上。軽い冗談を言うくらい上機嫌ということか。こいつ自身も意外とかわいい。
「さて、オッケーっと」
三上はポットからティーバッグを取り出した。入ったときにはシトラス系の制汗剤が香っていた部屋が、芳醇でなめらかな茶葉の香りに包まれる。
「玉城が来るの、楽しみだな」
「は? 別に楽しみじゃないし」
「いや、今のは俺の感想だから。別にお前にはきいてねぇよ。俺が楽しみなだけ」
「調子に乗んないでくれる? また絞め殺すわよ」
「はい。すみません」
あんまりうれしそうに準備をするもんだから、試しに話を振ってみたけれど、予想以上にわかりやすい反応が返ってきて、ついからかってしまった。
「ところで、お前と玉城って、実は仲良かったりするのか?」
「全然」
口では否定しているけど、たぶん三上は玉城のこと、嫌いではないはずだ。
「でも、玉城は、お前の家も知ってるんだよな?」
「それは、こないだのグループワークが一緒で、あいつが一回だけ家に来たのよ」
「あったなぁ。政経の」
「私は一人でも良かったんだけど、あいつと組まされたのよ」
悲しい。きっと、先生が、誰ともグループになれなかった三上に玉城を突き合わせたのだろう。玉城もとんだ災難だったな。
ピンポーン。
そんなことを話していると、玄関のチャイムが鳴った。
「来たわね! 玉城章子」
三上はドアを吹き飛ばす勢いで、部屋を出ていった。
お前、絶対、玉城のこと好きだろ。
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