土鍋

 レビィティリアで私たちが住んでいた家とセーラの自宅兼店は以前と同じ場所にきちんと再現されていた。

 まぁ、細かいところで差異はあるんだけど、これは私がシスティリアを構築した時に不明瞭だった部分が実体化するときにスキルの補正で直されたんだろうと思う。

 変なとこでゲーム的というか機械アシスト的な反応があるんだよね、この世界。

 ちらっと単語の出たSGMとやらがかんでるんかね、ティリアの住んでたとこもSF的だったし。

 まぁ、それはともかくレビィティリアで一緒に暮らしていたメンツはそのまま継続して一緒にくらている。

 一人では精神的な面で心配だってことでリーシャも一緒に暮らすことにしたのはいいんだけど、そうなると私と一緒に居たがる嫁の咲、増えた月音と人数が増えたのもあって部屋の数がちょっとたりなくなった。

 そこでアカリやリーシャと相談して元のセーラの家と夢の中で私が貸借していた建物をつないで一つにした。

 基本的にレビィティリアの建造物って敷居の高さとかの規格がぴちっとそろっていたのもあって、アカリとシャルの魔導で一日足らずでさらりとリフォーム。

 上層の邸宅とまではいかないけど、そこそこの広さのある自宅兼服屋となった。

 つーても服屋の方はセーラがいない今、たまに来る妹たちの服の手直しとかを再現されていたセーラの裁縫道具でリーシャが手直ししたりするぐらいにしか使ってないんだけどさ。

 そのリーシャなんだけど、そのうちダガシ屋をやりたいというので準備ができたら店の一角を拡張する予定ではある。

 そうなったらエチゴヤシスティリア本店のダガシ屋兼服飾店になるかな。

 そこまで行くと万屋というか雑貨屋的な何かだわね。

 食料とかも量産できるようになって棚に並ぶようなら、アスティリアでのオリジナルコンビニを名乗ってもいいかもしれんね。

 そんな感じで二軒を一軒にリフォームした割には初めからそんな感じで建てましたみたいに見えるあたりアカリ達の腕がいいんだわね。

 ちなみにいうと他のメンツは他のメンツで各自住む場所を持ってたりする。

 ただ、都市全体の再整備やら規格の仕切り直しが終わってないのもあって比較的綺麗に残ってた上層部に大体住んでいて、中層とかに住んでる私たちの方がレアだ。

 それと一応何かあった時の為ということで、一人暮らしは今のとこ禁止となっている。

 そんなわけで私たちの新しい家なのだけど、外に出て帰宅すると私たちを驚かすために月音が何か仕掛けてたりする。

 根っこのところのいたずらっ子な性格が顔をのぞかせているのかもしれんね。

 帰宅もアカリと魔導の装置で空を飛んでいると眼下に暗くなりぽつぽつと灯の付いたシスティリアが見えた。

 比較的照明が付けられている上層に比べて中層の照明の数は少なく、下層に至っては真っ暗なままになっている。

 逆を言うと私たちの住んでいる家の灯が見えやすいともいうわね。


「見えてきたのです」


 さきの言う通り私たちの家が見えてきた。

 横ではリーシャと沙羅もほっとした顔をしていた。

 まだまだ改善が必要だわね。


「アカリ、例の塩とれる装置って今どうなってるの?」


 私がそういうと後ろの方からアカリの声がした。


「あんなマナをバカ食いする魔導機構そう簡単には使えません」


 なるほど、いろいろ違うんだわね。

 例えばシスティリアではレビィティリアみたいに下流から上流に逆流する川がない。

 あれは土台がレビィだからこそできた芸当だそうだ。


「製塩浄水器はカスタマイズしてシャル姉のとこと中層でそれぞれ一か所ずつ運用してます」


 なので一番高い位置にある神殿傍の世界樹の池には魔導のポンプでくみ上げてそこで例の装置を使っているそうだ。

 世界樹のとこに淡水を貯めてそれを川に流してるんだわね。

 だからなのか今は水が流れてる川の数自体が少ない。

 そんな会話をしているうちに私たちは自宅についた。

 玄関前でアカリが移動に使った装置を片付けてるのを待ちながら私たちは明るい我が家と玄関を見つめる。


「今日はいったいなにかね」

「あんまりびっくりしない内容だと嬉しいのです」


 私と違って逐一きっちり引っ掛かって驚いている咲が苦笑交じりの返答をする。


『あの子の悪戯で家出が一番驚いたよ』


 ほんとにね。


「というかなんでああいうことするんですかね」


 呆れたような表情のアカリ。


「え、そりゃ……ねぇ」

「あれですよね」


 そういって顔を見合わせたリーシャと沙羅さら

 まぁ、構ってほしいからだわね。

 遊んであげるといって引き込んだにもかかわらず、私以外の皆は何気に作業が大量にあることから約束したはまだできていない。

 とりあえず今日は玄関を開けてもたらいは落ちてこないし、家出の書置きもないし玄関口で死んだふりの妹とダイイングメッセージもない。


「あれ、いないのです」


 首を傾げる咲。

 なお、プチ家出の時は屋根の上でジェンガモドキをやっていたとだけ言っておく。


「リビングなんじゃないですか」

「かもしれんね」


 建物の改修時にみんなで食事をとれるようにと間取りを直して作り上げたリビングにはキッチンが併設されている。

 セーラがいた時はキッチンが狭くて寝室で食事をとってたのを何とかしたいとアカリに言ったら作ってくれた部屋だ。

 リビングに入るがそこにも月音はいない。

 部屋の隅の小さな水槽には小さくなったランドホエールが泳いでいた。

 水槽についてるポンプとかの魔導具はアカリの力作だわね。

 さて、あのいたずらっ子はどこ行ったんだか。


「あれ、テーブルの上に何かありますよ」


 沙羅が指し示す通り皆でいつも食事をとるテーブルの上には何故か大きな土鍋が置いてあった。


「優姉、あんなの準備しました?」

「いやぁ、うちには土鍋自体がなかったはずだから月音だわね」


 皆でテーブルの上の土鍋を見つめる。

 まさか中に入っている?

 それにしては小さすぎるんだが。


「えっと……開けてみますか?」


 恐る恐る聞いてきたアカリ。

 驚かすために準備されたのが分かってるだけに普通に開けるのは怖いわな。

 しゃーない、姉として私が開けるとしますか。


「せやね、私が開けるから皆ちょいと離れてて」


 頷いた妹達。

 ただ咲だけは私の手を握って離れない。


「咲ちゃんや、あぶないからね」

「わかっています」


 あ、これ説得しても聞かん奴だわ。

 最悪は咲の前に立って月音の悪戯から守りますか。


「しゃーない、なら手を掴んでるのは構わんからちょっとだけ下がり気味にしておいて」

「はいなのです」


 咲をちょっとだけ後ろに隠しつつ私は土鍋の蓋を取って中を覗く。


「……………………」


 黒地に口元からお腹にかけて白、手が手袋のように白く後ろ足の方はソックスのように長めに白い色の猫が鍋の中から私を見ていた。


 とっさに私は蓋を閉めた。


 どんな師匠だったかなぁ、ネコを見つめるときネコもまたお前を見てるとか言ってた人。


「あの……いまにゃんこさんが見えたような」

『あんた、そのとりあえず見なかったことにする癖はほんと直らないのね。地味に驚いてるのはわかるんだけどさ』


 いや、だってなぁ。

 再び蓋を開けると猫が土鍋から頭を伸ばして私を直視した。

 ふぅーーーー。


「月音っ! でてきなさいっ! とりあえず猫に悪さした分のお仕置きするからっ!」


 天井裏から聞こえたごとりという物音。

 アカリに捕縛するように目で合図をした私はその猫に向かって挨拶した。


「やぁ、あの子のとこレビィティリア以来だわね。妹が悪さしてほんと悪かったわ。ごめんね」


 そういって私は頭を下げた。

 この類の妹の不始末には姉が謝るべきだからね。

 それと猫に悪戯した月音には相応の罰をださなならんわね。

 月にはレビィメティスはいても猫はいなかったみたいだから、付き合い方がわからんのはしゃーないとしてもね。

 あと今回に関しちゃ、悪戯はどこまでやっていいのか教えないで悪さしていいって言っちゃったに等しい私も悪い。

 この子には何か後で詫び入れんと。

 猫用の玩具でもアカリに作ってもらうかね、アカリには何か報酬渡して。


『優ってさ、何気に猫好きなの?』

「まぁ、そこそこには」


 猫は何も言わずに私を直視する。

 敵対心がないことを示すために一回視線をずらすと猫も視線をずらしてよこした。

 もう一度猫を見ると再び視線が熱く絡み合う。


「ところでお前さんさ」


 私の問いに興味なさそうに視線をずらした猫はおもむろに手を舐め始めた。

 そんな猫の様子を見ながら私は声をかけた。


「名前なんだっけか」


 再び猫と目が合う。

 夢の中で女の子が毎度探していた、白黒模様がタキシードにも見えるネコが鍋の中から私を見ていた。

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