入れ子の世界、シスパシー
「面白いですわね、それは」
神殿で無事移植が終わったエウの本体の確認や周辺の修繕状況を確認。
その後、今後の話ということで私、
最初のころは武骨だったステファが切り出す家具類もすっかり今はこなれて、かなり座り心地のいいものになっていた。
そのテーブルにはしれっとクラウドも座ってるけど彼はあくまでオブザーバーだ。
そういやちょいと前にシャルの方には姉というよりは王命として宰相に任命した。
要は好きにさせるためだ。
この子なら悪いようにはしないしね。
王から宰相だと普通は降格なんだけど本人はいたって楽しそうなので適所適材なんやろうね。
このメンツが今のとここの国の最高意思決定のメンツで、リーシャがシスティリアの所有者、いわゆる領主として出席している。
本来ならファイブシスターズの代表としてステファにも出てもらってるとこなんだけど今日は他の全員が忙しいということでリーシャに兼任で代表代理をしてもらってる。
ステファはまだ外でマリーと護りやってるからね。
なお、月音とナオもメンツなのだけどぶっちゃけさぼりである。
というか一人は今、自宅で何か私を驚かせる為の仕込みで忙しいと思われる。
「可能かね」
私がそういうとシャルが自分の杖を前に差し出してきて答えた。
「可能ですわね。以前、ランドホエールを権能解体した際に飛び出した複数の権能のうち『権能解析』をこの杖に取り込んであります。なかなか安定しなかったのですが、お姉さまがお目覚めになる直前に何とか固定することができました。ですので直ぐにとなると難しいですし完全に同じ権能の魔導具化とはいきませんが、類似する機能品であれば私が魔法を再現性のある部分だけ抜粋して魔導として分類いたします。それをアカリが複製することで魔導具の形に仕立て直すことができます」
「ほう、そりゃまた私が寝てレビィティリアに行ってる間に随分と変わったもんだわね」
私がそういうとシャルがそっと口元を隠した。
「お姉さまの
ああ、あれも参考にしたのか。
「シャルって宝貝とかわかってたの?」
「ええ。
おー、蓬莱人か。
ドサンコとならんで話は出るけど未知の種族だわね。
シャルは杖を軽く撫でつつ私に見やすいように位置を変える。
「この私の杖も元々は蓬莱にあったものです。初代の霊樹、世間一般でいうところの先代の世界樹の枝と聞いていますわ」
世界樹っていうと神話だとティリアが育てたってことになってるんだけど、もしかしなくても月の白い部屋の隅にあったあれかな。
「先代の世界樹はティリアの加護を受けた最古の植物にしてこの世界の全ての植物の祖です。初めは月から蓬莱島に移植されました。その後、王機の鋳造や改造に使われたため現在は木としては残っていません。エウ達は先代の霊樹の枝を挿し木で増やしたものです」
『へー、種じゃなくて挿し木ってことはエウの本体は前の代の世界樹のクローンなんだ?』
「クローンというと生体複製のことでしたわね。であればそうですわね。そして私のこの杖も世界樹の枝を仕立て直したもので間違いありません」
シャルの言葉にエウが頷いた。
「間違いないでありますよ。その杖は王機と同じ先代の一部であります」
道理でやたら固いわけだわ。
「つーかさ、シャル」
「なんですの?」
首を傾げたシャル。
「それ、『
「以前、ソータにも同じことを言われましたわね。確か創作内での神具でしたか」
ソータねぇ。
四聖のソータといい結構聞く名前なのよね。
あと私の覚えてる師匠の一人も似た名前なんだけどこれって偶然かね。
「まあね。まぁ、わからんのならいい」
結局のとこは始めから外にもあったってことだわね、五つの宝が。
道理で私の宝貝の無茶な設定もティリアの魔法でさらりと通ったわけだわ。
そうなるとランドホエールが入ってたあの球がさしずめ龍の首の玉ってとこか。
本当なら持ってるのは黒龍のはずなんだけどね。
「先ほどの話にも関係するのですがお姉さまにお見せしたいものがあります」
「なにかね」
そう言いつつシャルが傍においてあった包みから取り出したのは沙羅の亀ポシェットこと
ただしその数三つ、うち一個が以前ランドホエールを包んでいたのと同じ硬いシールドに包まれているのが見えた。
「なんぞ、それ」
ふふっと笑ったシャル。
「レプリカですわ。オリジナルはエウのシールドに入れてあるものです」
「ほう、これ動くのかね」
「ええ、あくまで入り口に他のレプリカ版の夢幻武都を繋いだだけですが」
こともなげに言うシャル。
私の隣に座っていたアカリが説明を継いだ。
「シャル姉の解析と私のスキルを使ってのコピーなんで機能も九割以下です。さすがに完全に同じのは無理ですね。外にいるステファ姉にはもう一個のレプリカの方を渡してきてあります。というか、そのレプリカの夢幻武都の入り口を通ってオリジナルを内部に持ち込みました」
「ほー、出来るもんなんやね」
「本来、論理的には循環エラーで蹴っ飛ばされるはずなんですけど大丈夫みたいです」
あー、それはたぶん私のせいだな。
「システィリアを中に再構築する際に夢幻武都に蛇のイメージも付与したんよ。亀と蛇で玄武にしたってやつだわね。だからじゃないかね、多分、収束しないウロボロスの状態で止まってるんだわ」
河童の甲羅とレビィアタンで玄武を作った奴はあんまいないかもしれんけどね。
「あー、なんとなくしかわかんないですが再帰呼び出しみたいなもんですか。ならわかりますね」
むしろ私の方がアカリが何言ってるんだかさっぱりなんだけど、まぁいいか。
というか私だけじゃなくてシャルたちもこういう面白い事をやり始めたわね。
『優に感化されたんだと思うな、あたし』
「いえ、シャル姉の研究バカは昔からです」
苦笑する幽子にアカリが真顔で答えた。
「否定はしませんわ」
それにさらっと答えたシャル。
まぁ、この辺りは周知の事実だわね。
「それで態々そうしたってことは意味あるんでしょ、シャル」
「はい。ご存じのとおり宝貝が展開する空間としての夢幻武都の弱点は外部での実体です。私が敵ならば真っ先に狙います」
「そりゃそーだ」
壊せば少なくとも相手を出てこれなくできるか、もしかしたら内部空間ごと殺すことができる可能性もあるわけだしね。
「そこでお姉さまがお休みの間にパターンを網羅しました。結果、レプリカで出入りは問題ないこととエウの本体が内部にあればシスティリア全体へのマナの供給に問題がないところまでは確認済みです。ここは空間としては隔絶していますが、アスティリアの一部ではあるみたいですわね。内部に配置してあるランドホエールから土属性のマナが外部にきちんと供給されていることも確認済みです。
ほう、やっぱりこの世界にもダンジョンとかあるのか。
「なるほどね。つまりだ、シャルとしては安全なところにしまっておきたいのね。夢幻武都の宝貝としての本体を」
「はい」
一理というか筋が通ってるわな。
「みんなはどう思うよ」
私がそう振ると各々が少し考えた後で口を開く。
「私は賛成です。というかそれのためにレプリカ手伝ったわけですし」
「私もです。正直言うとですね、私一人でみんなの命預かってるのって怖いんですよ」
そういうアカリと沙羅。
まぁ、わかる。
『確かにね。物の出し入れだけならレプリカでいいんでしょ、なら元のはしまっちゃってもいいんじゃないかな』
幽子の考えは私に近い。
「私も賛成。ステファお姉ちゃんとマリーお姉ちゃん、外の護りでずっと出たままなの。あの二人にもできればこの町見せてあげたいな。レプリカだったら最悪の時はしょうがないですむんだよね」
ああ、まぁそういう側面もあるわね。
なるほど、シャルの考えが読めた。
「シャル、レプリカに緊急用の
「さぁ、どうでしょう」
わざとらしく口元を隠したシャルに全員が笑う。
まぁ、実際のとこ爆破してオリジナルに被害が出たら目も当てられないし、レプリカからオリジナルに手を出されても困るんだけど、そこら辺はシャルなら考えてるだろうね。
あと、エネルギーとかの自給ができるなら本当に最悪は出入口爆破で引きこもれるって算段だわね。
シャルらしいわ、まぁ、穴がないか一応後で再考察しておくけど。
となると賛成してないのはここにいるメンツでシャルを除くと後はエウと咲か。
「保管するというのであれば自分が預かるでありますよ。護りには自信があるのであります」
「エウおねーちゃんが預かってくれるなら賛成なのです」
意見はそろったね。
まぁ、この姉妹の円卓、全会一致原則ではないんだけどね。
根本的には王政だし都市の領主はリーシャだからね。
ここでは意見が同数でぶつかったとき、最後は私の意見が通るというルールになってる。
「シャル、姉として指示をする」
「はい」
「夢幻武都のオリジナルはエウが厳重保管。レプリカは守りを付けたうえで念のため外に複数配置しておいて。それとアカリから聞いてると思うけど『
「承知いたしました。ところでお姉様」
シャルが改まって私の方を向く。
「継続観察していますが内部空間はシスティリアを中心として安定しています」
「月音の影響かね」
「おそらくは」
元
「今しばらくは身内だけの運用となりますが、長期となると外部の人間を受け入れないといけない状態も発生してくると思われます」
「だろうね」
「どうなさいます。現在のシスティリアには全域に妹転換がかかっている状態ですので入域すると自動で転換してしまいますが」
どうするもこうするもね。
「別にいいんじゃね? ありのままで、なるようになるでしょ」
「それは外部から人を受け入れていいということですか」
「完全に鎖国ってわけにもいかんでしょ」
「それはそうなのですが……」
眉をひそめたシャル。
「呪いとか言われる可能性も」
「ああ、それなら大丈夫」
「なんか良い案がありますの?」
『あ、シャル、それ駄目な奴っ!』
皆が見つめる中、私は思ったことを口にした。
「この街では全域にシスパシーがいきわたってるので
「「「「「「シスパシー!?」」」」」」
『ふぇっ!?』
硬直した妹たち。
「そ、
「あんた、あのゆんゆんとかいう妄言まじだったのかよ」
テーブルに突っ伏したアカリ。
シャルが得心が言ったような表情で言葉を続けた。
「なるほど、カリス教のプロパガンダを逆手に取るのですね。それは存外いけるかもしれませんね」
「でしょ」
そんな感じで皆でワイワイやりつつ今後の方針や現状の変更などを適当に決めていく。
気が付くと日も傾き夕刻が近づいていた。
『優、そろそろ帰らないと月音がまってるよ』
「せやね。じゃぁ今日のところは解散ということで。各自適当にやっといて」
頷いた妹たち。
私は自宅で一緒に暮らしている咲、幽子、アカリ、リーシャ、沙羅の五名と、一緒に来た時よりも大きめの魔導の乗り物に乗って自宅へと帰宅した。
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