夢想騎士

 レビィティリアの崩壊まで今日を入れて後三日。

 私とセーラ、それとアルドリーネちゃんとカールさんの四人は出場前選手室で待機していた。

 試合数が減った旧闘技場、観客が減るかと思いきやそうでもないみたいなのよね。

 まぁ、私の方でトマスさんに都市の主要な人には来るようにと動員をかけてるのもあるけど、なんか私らの試合前に妹転換で発生したマーメイドたちによる百メートル競走とかアカリによる魔導での前座とかやってるみたいね。

 試合が減って時間が空いた分を穴埋めしてくれてるわけだ。


「あの子、基本的にはズルして楽することばっかり考えてるのに、一度やり始めるとほんと生真面目よね」

「ああいう性格なんやろね」


 それでいて一言多いし口滑らすもんだから妹達から微妙な評価になるあたり残念な子だわ。


『お前さんが言うな』


 私はいいのよ、分っててやってるんだし。


『なお性質タチ悪いわ』


 そういやレビィ、私の血をあげて転換したマーメイドの子たちなんだけど、あれって夢の外には持ち出せんかね。


『肉体がないやん。いくら正常なMPムーンピースが付与された言うてもデータの上だけやで』


 むー、難しいか。

 あ、いや外にあの子等の肉体としての器が整えばいいのよね。

 ちょっと考えておくか。


『勘弁してな、お前さんのひらめきってろくなことにならん』


 そんな感じで脳内会話してると外から私とセーラを呼び出すアナウンスが聞こえた。


「そんじゃいきますか」

「ええ」







 昨日に続き流星王子セーラへと化身した私たちはアルドリーネたちの方を見やる。

 あっちも二人組なのね。


『建前的には選手と控え選手ってことになっとるけど、そこらへんグダグダやな』


 たぶん、アカリが制度の隙間を利用して私ら二人をねじ込んだのが原因だわね。

 普通に考えるならこういったソロ前提の試合形式、しかも個人の夢をかなえるという奴でそれを支える控え選手がいるというのがまずおかしい。

 その上でその控え選手が同時出場してるというのがもうね。

 アカリに頼まれて昼間リーシャと雑談するかたわら一寸づつ常識をずらしていったのよ。

 例えば日本のアニメとかだと後から追加ルールされるのは日常茶飯事だ、とか。

 異能力タッグ戦というのは創作上では市民権を得ている、とか。

 同じ夢を持つものなら同じチームとみなしてもいいじゃないか。

 同じチームってのはいわば一心同体、どっかのバレー漫画でも全員の心が一つになるとまるで一つの生き物みたいに皆で動けるのがあったのよ、とか。

 チームバトルいいよと布教したわけよ。


『そうやって並べると酷いモノやな』


 まぁ、一つ一つは実在するネタだけど相互の関係は一切ないからね。

 そうやって私が昼間にリーシャの常識を揺らして強制的に納得させる。

 夢の世界でさらに夢現で運営してるリーシャに影響が出るように睡眠学習したってやつだわね。


『睡眠学習ってそういうもんやないで』


 レビィも律義だわね。

 夜間に組織に潜り込んだアカリが必要に迫られてという理由をなんだかんだつけつつ細かなルール改定を繰り返していく。

 ぶっちゃけソロ選手とタッグコンビが戦うとか不条理極まりないのだけど、そこは恐らく怪異の方では重要視してないと踏んでねじ込んでみた。

 怪異の規定というのは悪魔契約と妖精契約の中間的なとこがあって、動かせないコアな部分は厳密な一方で枝葉の部分はかなりいい加減に変動する。

 創作分類としては不条理なホラーだからね、其処に意味があるのさ。

 その結果、登場したのが最初からタッグで戦う選手と控え選手のコンビだ。


「ドリームーーーーー! チェーーーンジッ!」


 いつもと同じリーシャのドリームチェンジの掛け声とともにアルドリーネとカールの姿が組み変わっていく。

 リボンで包まれて変身といえポエミィだけど緊縛というとなんか変わるよね。


『やめいや。魔法少女変身シーンを素直な目で見れななるやろ』


 うーい。

 このタッグ戦をねじ込んだ理由は主に二つ。

 まずは私とセーラの融合を使いたかったから。

 次は選手の数減らし。

 どっちもうまく事が運んでマーマンたちを転換しまくったのもあって、選手の数は急速に激減。

 タッグで強い選手が出ると他も組もうとするのよ、結果二倍以上の速度で選手が減った。

 なので出場選手に限るなら実質今日が決勝戦だ。

 それにしても毎度見ていて思うけどあの変身って骨がゴキゴキ言いそうよね。


「現実であんな変化したら骨が粉々だと思うわよ」


 そんな私たちののんきな感想をよそに二人の姿が完全に別の者へと変貌していく。

 美しいブロンドに甘い容姿、細身の長身に似合う流麗な衣装。

 手に持つのは長い柄の先に先の尖った刃が付いた長柄の武器、いわゆる槍の一種だわね。

 いかにも重そうなその武器を軽々と掲げると高らかに宣言した。


「我らが願い、阻むものは全て粉砕します。夢想騎士むそうきしのアルド、ここに推参」


 アルドの傍らにそっとたたずむは同じく体に見合わない巨大な盾を携えた可憐な少女。

 癖っ毛らしいふんわりした髪の毛に赤みを帯びた髪、童顔の中でせわしなく動く瞳が愛らしい。

 少女は手に持っていた風車のような模様が描かれた大盾をガンっと地面に置いた。

 そして盾の横側からひょこっと顔を出した。

 なるほどね、背が低いからそうでもしないと顔を出せんのだわね。


「主君を守るのが我が勤め。アルド様が従士、廻風守陣かいふうしゅじんのカーラ。同じく推参」


 容姿だけ見るなら御伽草子の凛々しい王子と可憐な姫のようだわね。

 それででいて、衣装には似合わない武骨な武装を持つコンビの前口上に観客が沸き立つ。

 しかしなるほどなぁ。

 私の出身世界で歴史上最も多く読まれた本がある。

 それは世界的に有名なとある宗教の本だ。

 では次に読まれているのは何かというと、現実と虚構の区別がつかなくなったおっさんがなりきり騎士として太っちょの農夫を連れて放浪する古典名作になる。

 ぶっちゃけ、あの二人がどこまでそれを知ってるのかわからない。

 そもそもテラの文学だしね。

 だけど、月華王げっかおうがいくら原初に近い王機でも過去改変を自在にはできないんじゃないかと私は思ってる。

 それができたらそもそもこの世界の人らも咲を始めとした龍王たちも苦労しないわね。

 だからあの二人が叶えたいと思ってる事を、あの怪異が実現できるかというとかなり怪しい。

 ママが何でも叶えてくれるっていうのも、一瞬叶ったようにみせかけて最後は奈落の底に突き落とす流れなんじゃないかなと想定してる。

 その一方で変なところで物理至上主義的ぶつりでたたけなとこのあるこの世界で精神世界内での影響がどこまで現実に影響を与えるのかはちょいと興味があるとこだわね。

 というか、今回のレビィティリア来訪は私に対してトコトン優しくないんだわ。

 主にメンタル的な意味で。

 その実質の決勝戦で戦う相手がよりによって夢想騎士とそのお供ってのがもうね。

 これはアレだ、勝手に敵役に据えたティリアから私への嫌がらせかもね。


『それはない』


 せやろか。

 つーかさ、コンビで戦うってちょいずるいよね。


『ワイらが言えた義理やないやろ』


 物理では一人だし。

 それにしても間近で見るとちょっと楽しいね。

 アルドリーネちゃんが男性化してアルド、カールさんが女性化してカーラちゃんか。


『なんで男になっとるん』


 似合ってるからいいんじゃないかな、中性的で男女ともに人気でそうだし。


『そこやなくてな、普通妹言うたら女やんけ』


 レビィ、甘いね。

 テラの創作だと男の娘おとこのこの妹も存外多いのよ、だから男も妹枠に入るんだわ。


『ホンマたいがいやな、あっちは』


 そんな地球で浪速なにわの錬金術師になることを夢見るレビィが言うかね。


『ソレはソレや』


 私とレビィが内心トークを繰り広げている外で、セーラが楽しそうにしながら二人を見つめていた。


「いいわね、若いって。お洋服もよく似合ってるわ」


 戦闘にはどう見ても向いてない感じのジャパニーズファンタジー戦闘服だけどね。

 まぁ、こっちの世界だと出来のいい服になると自動洗浄やら自己修復やらが付いてるからありなのかもしれんけどさ。

 そんな感じで綺麗に整いなおした対戦者の二人を私が監察してるとリーシャの声が響いた。


「みんなーー、心の準備はいいかなーーーーーー?」


 なんというかテンション的にはよく言えば平常心、悪く言えばフラットな私らとは関係なく盛り上がる旧闘技場。


「ドリーーーーーーームッ」


 アルドリーネたちについてはアカリや沙羅も含めてさんざ攻略するための作戦練ったからね、おーけーよ。


「ファイトッ!」


 夢の舞台を仕切るリーシャの掛け声とともに戦いの火蓋が切って落とされた。

 セーラは静かに流星祭剣りゅうせいさいけんを構えると打合せ通り二人を挑発した。


「先手はあげるわ。かかってきなさい、ドン・キホーテ」

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