主の夢、従者の心

 槍を大きく振りかぶり、全身を使って打突してくるアルド。

 セーラはするりとそれを交わすと流星祭剣りゅうせいさいけんを使って軌道をずらしたうえで、流星祭剣の腹を押してアルドの体勢を崩した。

 そのまま、予備動作なしで身長をはるかに超える高さに跳躍したセーラは流星祭剣をアルドに向けて突きこんでいく。


「させません」


 瞬時の間、アルドとセーラの間に何かの能力を使ったと思われるカーラが巨大な盾とともに割り込んだ。

 流星祭剣が散らす星屑とカーラの盾が散らす火花が周囲を染める。

 その間に位置を変えたアルドが再びセーラを狙い槍で突く。

 空中、それも盾の上で剣を立てて居たセーラが、全身をひねって反転。

 今度はカーラの盾を足場にしてアルドの槍を流星祭剣で受けそのまま槍の根元に向けて剣撃を入れた。


「バーストッ!」


 その時、会場にカーラの声が響きわたった。

 セーラが足場にしていたカーラの盾から突如猛烈な突風が噴出しセーラを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたセーラはくるくると身を回転させつつ流星祭剣に力を込めた。

 すると、流星祭剣の剣先から複数の星屑が舞い散り周囲にばらまかれる。

 そのままセーラはその星屑を足場に数回跳ねると体勢を変え、そのまま危なげもなく舞台の上に戻った。

 会場に観客たちの歓声が響く。


「強い、強いとしか言いようがないです、セーラ」


 自分自身が今回の試合の練習台になって似たような手口でセーラや私を苦しめたことはおくびにも出さないアカリのコメントが聞こえた。


「セーラの剣から出る星、足場にできるのかよ。トンでもないな」


 戦闘解説のケインズさんが呆れたような声を出した。

 味方だから気にしないでいられるけどね、これが敵側だったら確かにめんどくさかったろうね。


「この姿はユウちゃんが手を入れてなったものだから、私たちだけだったらきっとこうはならなかったと思うわよ」


 まぁ、そうかもしれんけどね。

 舞台の上で相手を見やると息を切らせたカーラと、それを心配そうに見るアルドの姿があった。


「カーラ、まだいけますか」

「はい」


 頷くカーラをみるアルドの表情は険しい。

 そりゃそうだろうね、この二人、ここまでの試合ではこういった状況には陥らんかったわけだし。

 コンビのバランスがいいのもあって、メアリー相手とかでは完封だったわけだ。

 恐らくカーラの能力はアルドに対しての攻撃に対して自動的に割り込んで防御するインターセプト、及び強靭なその盾と盾から繰り出す突風による相手の吹き飛ばしだ。

 これまでの相手だと吹き飛ばされた時点で姿勢を崩すことが多くそこをアルドの槍でサクッとやられてることが多い。

 それができない場合はアルドの技能が出てくるわけなんだけど。


「長期戦はこちらに不利、ならば奥義にて葬り去るまで」


 お、もう使うのか。

 アルドが構えた槍が赤みを帯びた光を放って光り輝く。


「ユウちゃん、レビィ、こちらもちょっと本気出すわよ」

『ええで』


 了解、怪異かいいが手を出さんように視線を当てておくのは私がするからセーラは試合に集中していいよ。

 私たちが打合せしている合間に光が最高潮に足した。

 次の瞬間、アルドの姿がふっと消え、同時にセーラの流星祭剣がアルドの槍をはじく。

 そのまま二人で空中に跳躍、宙に置いたままのセーラの星を足場に残像を残すほどの速度で相互に剣撃を入れあう。

 響き渡る金属同士のぶつかる音とそのたびに出現するセーラとアルドに会場は息をのんで見守る一方となった。

 そしてセーラの剣撃がアルドの防御をすり抜けて懐まで届く、とほぼ瞬間的にカーラがそこに出現し盾で止める。

 そのカーラをセーラは足で地面に蹴り落とすと、再びアルドに向かい剣を交える。

 鎮まる会場に響く剣の音、縦横無尽に出現するセーラとアルド、そして周期的に割り込みで出現するカーラ。

 カーラが割り込んで防御するたびにセーラは星にあたらない角度でカーラに蹴りを入れ地面に蹴り落していく。

 打ち合いをする双方にダメージが入らないまま時間が過ぎ、小一時間が経ったあたりでアルドの動きがぴたりと止まった。

 地面に立ちカーラの前で槍を構えたアルド。

 その後ろにはかなりの回数、攻撃を受け空中から地面に叩き落されたことで、全身に打撲と擦り傷ができたカーラの姿があった。


「次、大技入れるわよ。範囲で入れるからきちんと防御しないと死ぬわ」


 セーラのかけた声に動揺を隠せないアルド。

 その後ろから恐らく捻挫か何かをしたであろう左足を引きずったカーラがアルドの前に歩み出てきた。


「アルド様の、願いは私が守ります」


 口元と額から流れる血が止まってないとこを見るとこれまでのセーラとアルドの打ち合いで砕けたり跳ねたりした舞台のかけらで怪我したんだろうね。

 目にかかった額の血をカーラがぬぐった。

 カッコいいね、この子。

 死してなお、思い人を守りたかったってか。

 ならなおのこと全力で粉砕してあげましょうか、レビィ。


『あんま気は乗らんのやけどな。大人げないとかいわんでな、ガキども。いい年したおっさんらだからこそ引けんときもあるんや』


 宙に舞う星々から光の蛇が出現しアルドとその前に立つカーラを拘束する。


「なっ!? カーラ、もういい、もういいですから変身を解除して投降を!」

「いやですっ!」



 さぁ、本日の最終決戦、ここからがアカリの計算通りに行くことに全チップを載せての大勝負だ。

 セーラが流星祭剣を両手で抱えて祈るような姿をとったのちに、光り輝く星の剣を頭上に掲げた。


「すべてを星に帰すわ。神技、幻想……」

「アルド様の、お嬢様の願いは俺が、私が絶対に護り切ってみせます!」


 スッと下げる形で剣先を二人に向けセーラが言葉を発っした。


「流星雨」


 セーラの発声とともに膨大な数の光の蛇がセーラが放つ星の流れに導かれて二人に襲い掛かる。


「護ってみせるんだっ!」

「カーーーラ!」


 盾を構えるカーラをアルドが後ろから抱きしめた。

 魔法に近い強固な因果改編の力を受けて、旧闘技場が虹色に光り輝き舞台どころかこの月華王げっかおうが構築した世界そのものがきしむ。

 虹色の光が晴れるとそこにはぼろぼろになり砕けた盾と槍、そして全身から血を流す二人の姿があった。


「私が……お嬢様の夢を……」

「もういいのです、カーラ」


 アルドの瞳から涙が零れ落ちた。


「まいりました」


 アルドのつぶやきとともに会場に割れるような歓声が響き渡る。


「勝者、セーラっ!」



 私たちが二人の後ろの壁に目を向けるとアカリが限界まで強化したはずの防護魔導マジックシールドが完全に壊れているのが見えた。

 後ろの観客は無事みたいね。

 ははっ、ぎりぎりだったわ。

 さてと、セーラ、最後の仕上げと行こうか。

 私の考えに頷いたセーラは勝者の確定をしたリーシャに向かって流星祭剣を向けた。


「さぁ、次はあなたの番よ、リーシャ」


 文字通り高みの見物をしていたリーシャが慌てる。


「え? わっ、私!?」


 湧きたつ観客、実況席に座るケインズさんの声が聞こえた。


「確かに選手の残りはいないが、それってありなのか」

「ありですね。少なくもリーシャ姉は予備選手として登録されています。ですので次の試合はセーラ対リーシャ姉です」


 目を剥くリーシャ。


「えーーーー!? き、聞いてないよっ!」


 そりゃ、バレない様にアカリがこそっと仕込んだわけだしね。


「流星光底長蛇を逸すにならなくてよかったわ」


 セーラがいつものように諺を使う中、リーシャの後ろにいる怪異と目があった。

 ちょっと、セーラ。

 あれに対して笑いかけてあげてくれんかね。


「こうでいいのかしら」


 セーラの微笑みにひるんだ怪異。

 さぁ、高みの見物ができるのは今日までだ。

 『ママ』にも文字通り同じ舞台に立ってもらう。


 ちょいと変わってくれるかな、セーラ。


 流星祭剣をステージに突き立てると片手を天空の星々に向けて掲げる。


綺羅星きらぼし陰星かげぼし一番星いちばんぼし、星は無限にあるけれど。光り輝くその星に、願い託した姉妹星しまいぼし


 天空に光る星々が先ほどの技の影響を受けて虹色を伴って光り輝いている。

 その中を私はゆっくりと歩き進む。


「リーシャ、それと『ママ』」


 どんな夢もいつかは終りが来るものなのさ。


「私と一緒に踊ろうか」


 そう言いながら私は両手をリーシャ達の方に広げた。

 おいで、衆人環視のみんながみてる中での姉妹団欒ふれあいといこうじゃないか。

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