お風呂と雑談
「本当にごめんなさい。お詫びにできるだけのことはするわ」
「い、いえ、私は……生きてさえいれれば」
あの時、思いっきり水をかぶってしまった
ゴブリンに何か思うところがあるのがダウンテンションから戻らないセーラをなだめる意味もあって三人で風呂に入ってもらった。
なお、沙羅が嫌がったので仕方なく姉として入浴指示を出した。
食事と同じようにここ数日はお風呂もセーラの家のものを借りている。
向こうの人ならでわのこだわりか、結構大きめなお風呂なんだけど薪炊きなのよね。
というわけで私とアカリは風呂焚きで今外にいる。
「優姉、沙羅姉めっちゃ嫌がっていましたが」
「しゃーないやん。そも、ゴブリンにはメスはいないわけでそれを一発で分からせるには見せたほうが早いし。かといって寝室で沙羅を脱がせてセーラに視察させるっても考えたけどさすがにちょっとね」
風呂場の中が静かになった。
「ユウちゃん」
「何よ」
「貴方、私が
まぁ、確かに
「忘れてとらんよ。でもまぁ、子供に手を出す人ではないとも思ってる」
「あたりまえでしょう。リーシャ、背中洗ってあげるからこっちにおいで」
「はーい」
ふと横を見るとアカリの顔がにやけていた。
今は女なんだけどねぇ、この子も。
私は性転換関係は浅いから何ともだけどこういうのも百合っていうのかね。
「沙羅ちゃんも洗ってあげるわ」
「え、その、私は」
「おいで」
「あぅ、はい」
私が適当に薪を突っ込んでる傍でアカリが魔導を使う。
風の魔導で風呂の火力を調整してくれてらしい。
アカリが小声で私に話しかける。
「優姉、あれって父性なんですかね。母性なんですかね」
「さぁねぇ。そういやセーラ」
「なあに?」
湯気の立ち昇る風呂場の中からセーラの声が聞こえる。
「さっきの瞬間移動何よ」
「ああ、あれは『背水の陣』よ。一日に一回だけ、それもなにか差し迫った時に使える緊急時の
「なんぞそれ」
「細かい原理は私もよくわかってないわ。大体ソータが組んでくれたから」
誰だとか思って首をひねっているとアカリがそっと耳打ちをしてくれた。
「
「あはは、言うわね。でもまぁ、クソ爺には同感ね。いい年してツンデレしてるじーさんとかかわいくもないもの」
ははぁ、なんとなくわかった。
「ナオ……じゃなくて
「ええ、私たちの中での最強はあいつなんじゃないかしらね。最悪のという話なら風のだけど」
ナオ、結構シャレにならん強さだったんだけどなぁ。
私らが、ナオこと元火浦相手に壊滅せずに終われたのは最初から
大体、なんでも燃やせるってのがたちが悪い。
あれで非接触でも燃やせるようになったらどうしようもなかったわ。
「そういうセーラの技ってどうやってるん? 具体的にはさっきの瞬間移動とか」
「私のはシンプルよ。私の場合は『水』はすべて私の『子』なの。だから大体の場合、きちんと話しかけてお願いすれば何とかしてくれるわ」
そう来たか。
「私たち四聖の神技は
ナオは全然諺つかわんかったけどね。
あと私、諺はそんな知らんのよね、大体のことは適当に覚えてるから。
「火浦は諺とか全然使わんかったけど」
「あの子は覚える以前ね。自分の好きなこと以外は覚えようともしないの」
むしろ逆か、だからナオの能力は融通が利かんかったのか。
さすがに四聖最弱ではないだろうけどさ。
「これもソータの発案で今だとカリスでは大体のトライがそうしてるわね」
セーラがそういうと私のそばでアカリがぽつりと呟いた。
「あのめんどくさい慣習もあの
「最初はみんなそうよね。でもイメージしやすくなるから具体的に同じ文字を持つトライ同士、例えば『水』の文字持ちなら私が指導できるのも、諺縛りのおかげね」
「そりゃそうですけど」
納得しかねるのかアカリはぶつぶつ言ってる。
「魔導だって発動時に技名いうじゃない」
「あれはどちらかというと周囲への注意喚起と属する王機への宣誓です」
「魔導にも王機からむんか」
「知らなかったんですか。空中に浮遊してるマナって各王機のうち物的要素担当の四機が出してるものです。具体的に言うと
ほー。
私は今まで見てきた魔導を頭の中で並べてみた。
エアロ、ランド、アイス、ファイア、なるほど。
「サンダーとかブレイクとかはどうなん?」
「サンダーは地と風の合成、ブレイクは風、地、水、火の全属性の合成になります」
ふむ、フローティングボードは風系だっけか。
「じゃあさ、魔導の術を組むっていうのはどういう意味なん?」
「さっきの物理四属性の順にアルファベットでいうA、G、W、Fの四文字を割り当てて覚えるんですが、一般にこっちの生き物の中にはテラでは存在しない『ムーンピース』というのがあってそれに覚えさせるんです。ステータスにあるMPってのはそれの略ですね、そこに溜まったマナで魔導を行ったり生命活動をしたりするんですよ」
ずっとマジックポイントだと思ってた。
しかし、そうか。
そのムーンなんちゃらで生命活動終わったはずのゾンビとかが動いてるのかもしれんね。
つまりMPだけで動いてる奴。
この分だとリビングアーマーとかも普通に居そうね、生きてないだろうけど。
「それって臓器としてあるの?」
「いえ、各細胞ごとにあります。それがまとまって各臓器ごとに特性が出ます。なのでMP自体は大きさ的にはテラの知識でいうならミトコンドリアとかの大きさになります」
なるほどなぁ、というかこっちだとマナがかなり深い水準で生き物に組み込まれてるわけだ。
「マナがなくなったらどうなるん」
「すぐには大丈夫ですけど、そのうち死にますね、ほぼ間違いなく」
「つまり生命活動に組み込まれてるってことやね」
「はい」
やっべー、私、王機とか最悪は止めてばらしちゃっても大丈夫とか本気で思ってたわ。
クラウドが慌てるわけだわ、そりゃ。
というかシャルの覚悟の座り方がパないのがよくわかった。
「さすがは魔導士ね」
「いや、まぁ、初歩ですし」
「もうちょっと早く会えてれば何か変わったのかしらね」
セーラは何がとは言わない。
歴史にもしもはないからね、あるとすればこの夢の中の結末だけさね。
「ユウちゃん、ありがとう。もう大丈夫だから私たちが上がったらユウちゃん達もお風呂入っちゃってね」
「はーい。アカリ、いこっか」
「はい」
アカリを伴ってその場を離れると、アカリがそっと私の裾を引いてきた。
「優姉、ちょっといいですか」
「なによ」
「さっきはあえて詳細を聞かないで話をそらしましたけど、セーラの能力ってすべての水の操作です」
「そうみたいね」
むしろ『水子』という龍札からよくそういう発想に転換したもんだわ。
「さっきの瞬間移動なら一度見ましたので手管は割れています」
手管って言い回しに慣れてるあたりがアカリちゃんやね。
「ほー、一応聞くけどどうやったのよ」
「まず、周囲の空気から湿気を奪って自分の表面にまとわせる形でバリアコーティング、同時に地表に水を張って凍結させると同時に対象の傍にも水だまりを作って立ててこうバネのように伸ばします。自分のバリアの水と対象の傍に発生させた水が繋がったら一気に引き寄せて移動です」
「随分複雑やね、というか、わかんないとこは今は流させてもらうわ」
「はい、詳細になると私も説明できないので」
ああ、まぁ、この子の魔導は基本スキルでコピーだしね。
こまいとこは後でシャルに聞くしかないか。
「ようは、水でシールド張って水で引っ張ってるのね」
「そうなります。だから間に物があると移動できないはずです」
「なるほどねぇ」
その作りだと間に硬いものでも差し込まれたらどうなるかわかったもんじゃないね。
だから背水の陣か。
諺のあれは背後に川だったはずだけどね。
「謙遜してましたけどセーラ、シャレにならん強さですよ」
「せやろね。とくにこの町ではね」
「私はセーラを無条件には信用していません」
そら、そうだろう。
ただ、一点においては絶対ぶれないという確信が私にはある。
「大丈夫よ、セーラは」
「なんでそう言い切れるんですか」
「そりゃ子供好きだからよ、あの子が」
「ああー、そういう」
子供に本当に執着してるみたいなのは沙羅に対する謝罪後の態度でもよく分かった。
「真正のロリコンってことですね」
「それ、首飛ばしたくないならセーラの前では言わないほうがいい」
「そりゃ……ひっ」
二人で見やった裏手の風呂場の窓からセーラの目が見えた。
底光りしてるのがちょっとあれやね。
「き、聞こえてませんよね、今の」
「たぶんね」
なんとなく、アカリが
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