第187話 コル家当主就任祝いのご招待

 サングィス家が滅んで二か月がたった。ベスの元には幾つかの使用人の情報と黒い噂を聞くことが出来た。

 使用人の何人かが家人をこころよく思っていなかった事。家人の何人かが何かの研究に資金を注ぎ込んでいた事。サングィス家が滅んだ理由にしては薄い。何か根底から覆す噂わないものか、そんな事を考えていた時にコル家主催の当主就任祝いがひらかれることになった。

 家を捨てたと身としては呼んでもらえるのは嬉しいが、今回はどうしようかと迷っている。家族が増えたからだ。御者台には護衛二人が付くとして俺、ルドルフ、身重のミリー、ティア、フェイ、ローガン、ロイ、メルティア、マリアンヌ、ミュウトの合計十二人。

 流石に一台の馬車じゃ無理だ。もう一台レンタルするのに墓守を説得しなければならない。これが面倒くさい、書類仕事が全部墓守一人の肩に乗ることになる。説得するには仕事を前倒しするしかない。

「あー、どうするかなぁ」

「お祝い事なんだから行きましょうよ、ご主人様」

「私も行きたいわね。リチャードさんに従妹をみせたし」

「私も同じです」

「私もリチャードさんに会いたいです、師父」

「私もコル家の一員よね、今回こそはコル家に行くわよ」

 ティア、フェイ、ローガン、ロイ、メルティア達が騒ぎ始める。

「分かったよ、ちょっと医院と墓守の所に行ってくる」

「「「「「いってらしゃい」」」」」 

 

◆◆


 医院で在庫のチェックとユリアと先生の仲が進展しているか確認もして来たが、先生の春はもう少し先のようだ。また娼館通いが始まらなければいいが……。墓守には散々文句を言われた。ルドルフと一緒に仕事を来期分まで前倒しして馬車の貸し出しを許してもらった。

「はあ、疲れた」

 ソファーでぐったりしているとティアが蒸留酒を注いだグラスを持って来てくれた。自分の分もちゃかり持って来ているのがティアらしい。

「よいしょと」

 わざわざ足の間に入って来る。最近ティアも育ってきたし、そろそろこの体勢もげんかいかなぁと思っていると母乳をあげていたローガンが思い出したように言った。

「おむつは何枚必要ですかね?」

「多いに越したことはないんじゃない?」

「荷物にも限界があります、フェイ」

 母親として同格になったからなのかローガンがフェイを様呼びで呼ばなくなった。どうやら事前に取り決めがあったらしい。

「二台の馬車で行くんだ、多くても問題ないだろ」

「そうね」

「そうですね」

 二人を見ながらティアも口を開く。

「私も赤ちゃん欲しくなってきました」

「今更か?」

「だって、マリアンヌちゃんとミュウトくんが日に日に可愛くなっていくんですよ! 私も育てたいです、自分の子を」

「私もです、師父」

「私もウェルカムですよ、旦那様」

「おいおいと、こういう事は授かりものだから」

 本当に何故授からないのか分からない。これ以上育児が困難だと忙しくて死にそう。最初の一ヶ月夜泣きが酷かったのだ。今でも慢性睡眠不足気味だ。昔家のメイドたちが交代制だった理由が分かった。これは一人では無理です。大家族で良かったと思った瞬間だった。若いティアが二人の面倒を良く見てくれた。

 なおさら自分の子はと思っていたのかもしれない。でもなぁ、一年で一人でいいよ、どうせ大家族になるんだから。

 


 

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