第186話 マリアンヌとミュウト

 馬車でベスを迎えに行くと爺バカがさく裂した。はしゃぎ過ぎだった。手紙のやり取りから既に名前を考えていたらしく。フェイに伝えるのを心待ちにしていた。

「ベスはしゃぎ過ぎ。心臓止まっても知らんぞ……」

「初孫じゃぞ! 正確には違うが、祝わんでどうする!」

 馬車に積み込んであった祝い酒でベスが既に酔っぱらい化、こうなると分かっていたから先に樽でエールを用意しておいたのだが明らかに飲み過ぎだ。

「お前は嬉しくないのか、ウルルス!」

「嬉しいに決まってるだろ! 自分の子供だぞ! それも二人‼」

「なら飲まんのか!」

「あとで飲むよ……。あと手紙にも書いたけどサングィス家が滅んだ理由何か分かったのか?」

「まだ、何も分かって無いのが現状だな。今、噂を集めているところだ」

「そうなのか、まあ時間が経つほど集まるのは分かるけどな」

「今サングィス家の使用人と黒い噂を重点的に調べとるよ」

「黒い噂なんてあるのか?」

「魔法士の家系じゃからの」

「性悪なのは俺くらいのもんだぞ?」

 ウルルスにも自分が性悪だと言う自覚はある。直す気はないが、

「魔法士の王族みたいなもんじゃろ、黒い噂の一つや二つあるじゃろろうて」

「そんなもんかね」


◆◆


 馬車を降りる時にはベスはすっかり千鳥足になっていた。手を貸して降ろしてやった。

「お師匠様、出来上がってますね……」

「おおう、フェイ元気だったか?」

「母子ともに健やかです」

「さっそく赤ん坊が見たいんだが?」

「こちらです」

 部屋に案内するとベビーベッドで眠る赤子を抱き上げ喜色の笑みを浮かべる。

「フェイ、性別は?」

「女の子です」

「じゃあ、この子の名前はマリアンヌじゃな」

「マリアンヌですか……。愛称はマリアですね」

「ベス、男だったらなんて付けるつもりだったんだ?」

「ん? ミュウトじゃ」

「ローガンは叔父が名付けるんだよな? ミュウトでも良くね?」

「叔父上のネーミングセンス次第ですかね……」

「こればかりはな、本人にお伺いを立てた方が良さそうだな」

「変な名前じゃ困ります。一生モノなんですから」

 これはデェート家に直接ウルルスが走った方が良いのかもしれない。ウルルスは職業柄色々な町に行っている。地図さえあれば目的地に最短距離で走れる一日も掛からず往復できるだろう。クロガネのお礼もまだだしとウルルスは蒸留酒数本を持ってデェート家に向かった。 

 ウルルスがひとっ走りして話をした結果。ミュウト・コルでもミュウト・デェートでも語呂が良いとローガンの子供はミュウトになった。

 マリアンヌとミュウトの名付け親になったベスはエールが切れると酒場までウルルスを走らせ追加のエールを買って来させた。

「今日は走ってばっかりだ……。ベスが上機嫌なのは良い事だ。明日地獄を見ても薬湯は作ってやらんがな」

「ご主人様は鬼畜ですぅ」






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