第144話 麻酔

 魔法士の家系は名家と知られる。魔法を使えるのも微量でも魔法士の血筋の者だけだ。一方で呪術士は魔法士以外の家系で魔法を使える様に努力した者たちの事で呪符などを持ちたりする。主な目的は暗殺なのだがそれは特に呪殺師と呼ばれる者たちだ。しかし、呪殺師は殆どが眉唾ものだ。呪殺と言う怪しげな術にすがるよりも医師の用いる毒を手に入れて毒殺にした方が手っ取り早いからである。

 しかし、医師や薬剤師以外で致死性の毒を用いてる者は殆ど居ない。国の法律で禁止されているからだ。主に毒を用いるのはもう助からない患者を安楽死の為だけで、暗殺で用いられている事はほぼ無いと言っていい。医者の用いる麻酔は今でもどのように人体に作用するのか現代医学でも分かっていない薬物であり。体重から逆算して経験則で使われているのが実情だ。

「ほら先生。麻酔の実験ださっさと飲め」

「こ、これ下手したら死んじゃう奴ですよね⁉」

「下手しなくても人間いずれ死ぬ。安心して飲めよ、貴重なデータになるんだ医者として本望だろ!」

「待って下さい! その薬を飲む前に遺書を書かせて下さい!」

「しょうがないな……。五分で書けよ!」

「うぅ、なんで事に……」

「ティアに色目使うからだ、直接殺さないだけありがたく思え」

「先生。私にそんな気は全く無いので。大人しくにユリアさんに靡けばよかったんですよ」

「あの私にも好みが有るのですが?」

「ユリア。先生が今にも死にたがってるかその辺で止めといてやってくれ」

「医者として死ぬなら本望です! 飲みます!」

「その量は止めとけ‼ 死んじまう‼」

 右手の指に布を巻いて、口に突っ込む。胃洗浄が出来ないので今はこうするしかない。思いっきり指を突っ込んで胃の内容物を吐かせる。

「この野郎。死ぬ気か‼」

「医者と死ぬしてなら本望です!」

「今のは単なる自殺だ、ボケナス‼」

「ウルルスがこんなに怒る理由が分かりますか⁉」

「それは……。自殺に高価な薬を使ったから……」

「馬鹿ですか! そんな事で怒ったりしませんよ! 先生が命を軽く考えたからです!」

「それは私も感じました!」

「すみませんでした……」

 ちょっとからかい過ぎた感はあるが、高い薬で死なれるのは腹が立つの。だが、命を軽く見たのが一番腹が立つ。

 最近発表された。医学書は革新的だった。自分のスケッチも論文も沢山乗っていてジャンヌ女史の医学書の作成の刺激になったならとても嬉しい。そのせいで先生が麻酔の実験を使用としたのは喜ばしい事だが、誰が実験台になるかで揉めた。ティアは絶対にダメだし、俺はティアの面倒が有るので、先生とユリアになったのだがティアに色目を使った先生が犠牲者になった。

「ユリアも最近人気だし。一番人気が無い先生に白羽の矢が立ったんだろうが」

「なんでウルルスさんが人気なんですか! おかしいじゃないですか!」

「俺は腕が立つし、そもそもが子に町唯一の回復術士だからな」

「ハッキリ言って人徳ですかね」

「「……」」

 ウルルスもユリアもそれ言って良いんだ、思った。

 

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