第126話 求婚
歓待の準備が終わった翌日にメルティア・ゲイツはやって来た。馬車から降りた従者は僅かに二人。男と女の護衛のみ、歩き方、目の動かし方だけで相当の手練れだと分かる。
「お久しぶりです。ウルルス・コル」
「出来るなら会いたくなかったよ、メルティア」
その言葉に抜剣しそうになる護衛をメルティアは手で制す。
「六年余り私から逃げ回っていたと言うのは本当の様ですね。お父様から貴方が定住していたと聞いた時は耳を疑いました」
「いずれは決着付けなきゃならないからな。俺にも色々あったのさ」
「ソフィアがそちらに付いたのは本当の様ですね。お父様の運至上主義にも困ったものです。この二人が居れば暗殺などされませんが……」
「その過信に付け込まれないようにの暗殺者を護衛にしたんだろ?」
「我らが居ればそのような事はあり得ない!」
「そうかい。お前らはもう俺の射程距離内なんだがな?」
「戯言を!」
「これ、なん~んだ?」
ウルルスの手には護衛が身に付けていた持ち物が握られていった。女の護衛の髪飾りだった。戦闘の邪魔だからと髪を束ねていた物だ。髪は今気づいた様に背中まで降りている。
「い、いつの間に……」
「相変わらず手癖が悪いですね」
「すぐに返すよ。ただ、俺に護衛の意味は無いと思え」
「仕方ないですね。要件だけ言いましょう。ウルルス・コル、私と結婚なさい」
ムードや恋慕の情も無い。簡潔な言葉だった。
「なぜ?」
「貴方が稼いだ翠金貨二百六十五枚は我が家の財産の三分の一に当たります。回収するのには結婚してしまう方が手っ取り早いでしょう」
「ホントにそっけないね、お前は……」
分かっていたが、本当に恋愛感情とか人の感情を産まれた時に母体に忘れてきたんじゃないかと思う。
「ま、政略結婚とかあるしな感情が無い方が生き易いかもな……」
「理解が早くて助かります」
「お前に提案に致命的な欠陥があるだが言っていいか?」
「なんでしょう?」
「俺に全くメリットがない」
「……。は?」
ポカンとしたメルティアの顔は結構見物だった。
「好きでも無い人間となぜ結婚しないといけないんだ? 顔はそこそこだけど性格破綻者のお前と結婚したらゲイツ家の残りの財産が手に入るから? 超要らないんだけど?」
「コイツ! 斬る!」
俺より早くロイが護衛の男を蹴り飛ばす。俺がやると殺してしまう可能性が有ったからだろう。十分ロイの攻撃も危ないんだが。
「長旅ご苦労さん。とりあえず中に入れば? 準備した甲斐が無くなるし」
女の護衛はもう一人の護衛の傷を診ているようだ。今なら容易くメルティアを殺れるが、後が面倒なので家族を引き連れて家に入る。
「来ないのか? それとも怖くて入れんか?」
「馬鹿にするな、これしきの事で恐怖など覚えるか!」
その割には足がプルプルしている。怖くて堪りませんと言っているのと同じだ。
「別に取って喰いやしないよ……。お前が良い子でいるならな?」
とりあえず初戦はこちらの圧勝だ。メルティアがこのまま引き下がるはずも無いのだが。
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