第125話 賭けのコツ

 帰って来た家人達が部屋に色々と持ち込んだ。高めのワイン、夕食用の食材、ワインにあうおつまみ的なモノ。酒は足りなくなったらウルルスが大事にしている酒蔵を開かなければいけないのでかなりのワインが用意された。料理にも使うし、多くて困ることはない。家人の金銭感覚は壊れ気味だ。

 広い家とは言え部屋数は少ない。金も入ったしそろそろ増築してもいいかもしれない。庭に客間を作るなり、二階を作るなりした方が色々と都合がいい。意外とこの家は来客が多い。将来を考えて子供部屋だって有った方がいいだろう。

「高いワインだな。これで文句言ったら問答無用で叩き出す」

「保存状態も良いわよ。当たり年のワインを買って来たわ」

「ブランデーでワインの当たり年は分かるんですよね、フェイ様」

「当たり前でしょ。当たり年以外のワインがブランデーになるんだもの」

「そうとも言い切れないんだが、その認識で大体合ってる」

「私は蒸留酒よりワインの方が好みなんですが」

「師匠の意見は聞いてないです」

「このグレードのワインならメル様も納得しますよ」

 三人でも姦しいのに今は専属護衛のソフィアも加わって五人だ姦しいのを通り越すのも当たり前なのだろう。

 メル様。本名メルティア・ゲイツが来るのは今夜のようだ。父親と同じ様に四頭立ての馬車で乗り付けるんだろうな……。思わずため息が出る。

「どうしましたご主人様? 最悪負けても嫁が増えるだけですよ?」

「そんな訳あるか……。自分以外の婚姻関係を解消させるに決まってるだろ」

「メル様ならそうするでしょうね」

「どうするのウルルス?」

「どうせ賭けを挑んで来るから返り討ちにする。ただな……」

「師父?」

「俺と勝負するとは限らないだよな……」

「そんなの有りなんですか⁉」

 父親のカジノ王は運至上主義だが、娘はもっと狡猾だ。狡猾にならざらるをえなかったと言うのが正しい。彼女自身の運の引きはそんなに強くない、賭けで生きて行けるほどの運は無いと言っていい。それでも一般人よりは上だが。

「搦め手に強いんだよ。ほら、ここにはちょうど五人いるから。五番勝負しやすいだろ?」

「ですがご主人様!」

「これは単なる可能性の話だよ。どんな手でも使ってくるってことだけは覚えて置け。自分の弱さを知ってる人間は強いぞ?」

「「「「「…………」」」」」

「戦いはもう始まっているぞ? 言われるまで気付かなかっただろ?」

「まさか、歓待しろと言う手紙もですか?」

「流れを掴む為だろうな」

「流れってそんなに大切ですか?」

「賭け事は八割方は流れだぞ? 運はその流れを掴みやすいってだけの代物だ」

「残りの二割は?」

「胆力だ。最初から負ける気でいたら勝てないし、逆に勝てると思い込いこんでミスをしない冷静さだ。それが出来ればブラフも見破れるし、挑発にも耐えられる」

「ご主人様はいつも勝つ気満々じゃないですか?」

「俺は流れを常に掴んでいるし、イカサマも見破れる。あとは相手の喉笛を食いちぎる瞬間を待ってるだけだぞ?」

「こ、怖すぎます……」

「師匠が常勝の理由が分かった気がします……」

「そうか? これくらい基本だぞ?」

「暗殺で鍛えた胆力ね……」

「まあ、賭けで死ぬ訳じゃないからな」

「私には死活問題ですぅ」

「ティアは勝負勘が致命的だからな」

「ならば今の内に既成事実だけでも!」

「もうあるだろうに……」

「子宝を下さい!」

「それは運だから……」

「今気づいたんですが」

「どうしたロイ?」

「ティアさんが妊娠しないの運が悪いからじゃあ……」

 その言葉にガクリと膝をつくティア。完全に盲点だったらしい。



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