第123話 添い寝
目が覚めると見知らぬ天井だった。昨日の事を思い出そうとすると頭がガンガンと痛む。
「み、水……」
動こうとすると右腕が誰かに抱き着かれている事に気付く。利き腕を封じられるなどと暗殺者失格だなと自嘲が漏れる。
「カリア。いい加減起きろ」
隣で右腕をホールドしていたのはカリアだった。ギルド長室に入った事までは覚えているが、その後の事は分からない。ベットに身を投げた瞬間に意識を手放したからだ。
「主様、おはようございます……」
「水をくれ。話はそれからだ……」
「向かい酒にします? ただのお水で?」
「冷たい水で頼む」
カリアは毛布を体に巻き付けた格好のままで部屋を出て行った。毛布の下は裸だ。前後不覚になっても抱いたのかと言う疑念が浮かぶが、それは無いなと頭を振ると頭痛で頭がふらつく。
「お待たせ、いたしました」
「ああ」
丁寧に氷まで浮かべた冷水を少しずつ飲む。徐々に体に活力が戻ってくるのが分かる。体にじわじわとしみ込んでいく水分。本当に二日酔いの時に飲む水ほど美味い物は無いと思う。気を利かせたのか柑橘系の汁と少しだけ塩が足されている。これは本当にありがたい。
「気が利くな……」
「父も二日酔いの時はそれを好んで飲んでいたのを思い出しまして」
「そうか、助かった」
父親はやはり父親かぁと納得する。自分は一度も愛を向けられた事はないが、自分の父親を反面教師にして産まれた子達には目いっぱい愛情を注ごうと思う。
「さてと、どう言い訳しようかな……」
「朝帰りですね」
「すぐに戻るつもりでいたからな、まさか一日費やすとは思わなかったな」
「お酒の勝負にしたから……」
「表で戦って暗殺ギルドの場所を知られる訳にはいかないだろ……」
「酒場での喧嘩など珍しくないでは無いですか?」
「一般人ならそうだろうけどな、暗殺者は軽犯罪さえ犯せないんだぞ、本当は」
「何故です?」
「警察機構に身元を知られるし、悪目立ちするからな」
「それは知りませんでした」
「俺はそうしているだけで、他がどうかは知らないがな犯罪を犯さない人間の方が多いのは確かだな」
「暗殺ギルドの場所を喋るような馬鹿はスカウトしていませんが……。リスクを減らす努力はしてほしいですね」
「古株は気を付けているんだが、新入りはその辺の事をまだ分かっていない事が多い。教育係が欲しい所だ」
「人選しておきます」
「出来るだけ威圧感の無い奴を選べよ? 無理やり言い聞かせても逆効果だからな?」
「主様が適任ですね」
「これ以上俺の仕事を増やすんじゃねぇ!」
「冗談ですよ」
「会う機会を増やそうとするな……」
「申し訳ありません」
添い寝は寂しさの表れだったかもしれない。仕事以外でここに来るのはほとんどない。
「教育係を教育しに来るさ……。名誉顧問の席でも作っといてくれ」
「は、はい!」
カリアの髪を撫でて立ち上がる。少しふらつくが活性魔法のお陰で体調は随分良くなった。これなら帰れそうだ。
「じゃ、手伝いが欲しければ使い魔を送ってくれ」
「はい。承知いたしました」
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