第122話 嫌われ者への洗礼
昔に起きた大戦の功績を挙げた貴族は王族の次ぐ身分だ。魔法士の名家はその下だが大富豪と同じ位の地位だ。細かい貴族の制度は忘れたし。三男坊以下は殆どが家から出される事が多い。紆余曲折あって冒険者ギルドに入るのが普通だ。付き人もまでもが暗殺者ギルドに入るのは滅多に無いケースだ。しっかり手綱を握っておきたい。
「ウルルスさん。こんな高い酒を奢って貰って、すいません」
「構わん。ギルド長が困ってたからな。酒場では余り自慢話はしない方がいいぞ?」
「武勲を誇って何が悪い!」
「暗殺者は武勲を誇らないんだよ。覚えとけ三下が」
「三下~ぁ! 表出ろ!」
「阿保かここは酒場だ、酒の強さで勝負しようぜ?」
「上等だ!」
「そっちは三対一でいいぞ?」
「舐められたモノだな? 酒代は全部お前の財布から出してもらうぞ!」
「構わんさ、お前達が一人一杯飲むごとに俺は一杯飲むそれでいいか?」
「負けたら、土下座で謝って貰うからな!」
「構わん。その代わり今後は酒場で自慢話をするのは、止めてもらうぞ?」
始まった酒豪バトル。酒場に居た者全員がウルルスに賭けた。これでは賭けにならないのだが、金銭のやり取りは無かった。負けた方が酒場全員に奢るという事で話はまとまった。
「既に酔ってるだろ、対戦は後日でもいいぞ?」
「別に今で構わない。マスター、エールをくれ」
「じゃあ俺はウイスキーを頼むよ」
飲み比べではエールの方が度数が低いので、ウイスキーを頼んだウルルスの方が圧倒的に不利だとゲニッツ達は思った。
「どうした? 怖気付いたか?」
ウルルスの言葉にグロッグがエールを一杯飲むと、ウルルスがウイスキーを一杯を飲み干す。これがゲニッツ、メリッサ、グロッグの順で何度も繰り返され、結果三人が酔い潰れてしまった。
「お酒が弱いなら初めから喧嘩売るなよ。阿保か。いや、紛れもなく阿保だったな」
「なんでそんなにピンピンしてるのか意味が分からない……」
「まだ行けそうだな? 飲むか?」
「しばらく酒は見たくない」
「カラクリは俺の酒が上物だっただけだ。安いエールは酔いが回るのが早い。お前らツマミも食べずに飲んでたからな。それも負けた要因の一つだ」
「今後、酒場で自慢話はしない事を全員の前で誓う。金も後日払う。済まなかった……」
ゲニッツ、グロッグ、メリッサの三人はそれだけ言うとヨロヨロと酒場を出て行った。酒場が一気に盛り上がる。誰もがウルルスの味方だった。全員生意気な新入りを快く思っていなかった証拠だ。
実はウルルスは肝臓に活性魔法を強く掛けて積極的にアルコールを分解していたのだが気付いている者は居ない。アルコールを分解したときに出来る副産物のせいで明日は一歩も動ける気がしない。今日はギルド長室のベットで眠るつもりだ。
ギルド長の出来るだけ穏便にと言うリクエストだったので今日は無理をしたが、出来るなら酒はチビチビと味わいかった。
「ウルルス、スッキリしたよ!」
アリアに思いっきり背中を叩かれた。思わず吐きそうになるのを必死で堪える。上物のウイスキーを吐くことは酒飲みとして許されない失態である。
「マスター、助かったよ……」
「ウイスキーを基準より薄く作った甲斐が有りますな」
エールは薄める事は出来ないが、ウイスキーを多少薄める事は出来る。新入り達は気付かなかったと思うが、酒場全員がグルだったとも言える。
「私もウルルス様が馬鹿にされた事に少し腹がったもので……」
「この業界で自慢話はご法度だからな」
「よし、みんな飲めよ。今日は新入りの奢りだよ!」
アリアの号令でそこら中で乾杯が始まる。
「「「「いえぇ~ぃ!」」」」
この業界で長く生きていきたいなら、同業者と仲良くなることだ。そんな奴も暗殺者の鎖を外れればウルルスの処罰対象になるのだが、今日はそんな事忘れて一刻も早く横になりたかった。
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