第116話 カジノ潰し

 カジノの金庫を空っぽにするのに三日掛かった。支配人は金策で近隣の町のカジノを走り回っていたらしい。道理でなかなか金庫が空にならないはずだ。支配人が土下座で許してくださいと言ってきたのでバーニーガールの子をオーナーにするならこれ以上は遊ばないでおいてやる、と言ったら二つ返事で了承した。

「さて、カジノ王はいつ来るかな」

「カジノ王を待っておいでで?」

「暴れてたら勝手に来るからさ、暇つぶしで遊んでた」

「暇つぶしでカジノを潰さないで下さい……」

「思ったより簡単だったな。やはり俺は天に愛されている」

「師父の運は神憑ってますからね……」

 この世界には黄金律と言う概念がある。その人間が生涯関わるお金の総量の事だ。ウルルスはこの値が異常な程に高い。昔占い師に見てもらったら一生お金に困らないと言われた事がある。実際、商人の護衛任務を放り投げて、暗殺者ギルドの追求のほとぼりが冷めるまで路上生活をしていた時も特にお金に困った事はなかった。

 生活に困るといつも誰かが銀貨を恵んでくれて、それを仲間内で分けて生活していた。縛られない生活もアリだなと思っていたところにギルド長が死んだという噂が耳に入った。まだ精神的に幼いと言えた三つ子の補佐を買って出たのは、彼女達に恩義が有ったからだ。

「カジノ王の馬車が来るまで何してようかな……」

 宿を借りて、夜にロイに施す調教は八割方済んでしまった。嬌声が漏れたのか宿屋の娘から熱い視線を受けたが、ガン無視した。

「カジノ王は気まぐれですからね。カジノが一つや二つ潰れただけでは来ないでしょう」

「名前を出すとすぐ拉致しようとするからなぁ。めんどくさ」

「お客様、お名前を聞いても?」

「ウルルス・コル。ただの暗殺者だよ」

「ウチのカジノが潰れてもおかしくないですね。カジノ潰しが相手ですから」

「変な二つ名は止めてくれる? もうこれ以上は要らないから」

「カジノ潰しが現れたと手紙を書いたら翌日にでも来そうですけど」

「分かった。もうそれでいいよ」

「では、その様に……」


 カジノ王はホントに手紙を出した翌日に来た。手紙は急ぎ便でも三日は掛かるのにどういう理屈か問いただしたい。

「久しいな、ウルルス殿!」

「相変わらず、五月蠅いなお前は……」

「カジノで遊ぶには私の娘と結婚するのが条件だと言ったはずだが? ついに覚悟を決めたか!」

「やだよ。お前の娘は見てくれは良いけど、性格破綻者じゃん」

「そこが可愛いのではないか!」

「お前の理論は分からん。最後の決着をつけよう」

「儂が勝ったら結婚。負ければ他の相手を探す。これでいいかな?」

「勝負方法はアンタが決めていいぜ?」

「そうか、私もそれなりに忙しい身分だ。短期決戦のカード引きで勝負しよう!」

「分かりやすくていい。支配人、新品のカードを用意してくれ」

「分かりました。おい」

 支配人の声にディーラは新品のトランプを持ってきた。

「じゃあ。支配人、ディーラ、俺、カジノ王が順番でシャッフルしよう」

「ほう、強気だな!」

「自分の運命が掛かった勝負で負けたことが無いんだよ」

「面白い。支配人気が済むまでシャッフルしろ、終わったらディーラに渡せ」

 シャフルは支配人、ディーラ、ウルルス、カジノ王がシャフルしてテーブルに置かれた。

「先攻後攻はどうする?」 

「ジャンケンで決めよう」

 ジャンケンの結果カジノ王が勝ち。後攻を選んだ。

「ふむ。では一枚引いて俺は伏せる」

「面白い、私もそうしよう」

 ウルルスは一番上を引いてテーブルに伏せる。カジノ王も一番上カードを引き。テーブルに伏せる。

「行くぞ?」

「掛かってくるがいい!」

 一斉にカードを表にする。ウルルスはスペードのエース。カジノ王はハートのキング。ウルルスの勝ちだった。

「むうぅ、おかしい。山札の一番上のカードはクラブの二のはず!」

「やっぱりイカサマしたか……」

 そお云うウルルスもイカサマしてシャフル中にスペードのエースを抜いて一番上から引いたように見せ掛けたのだが、

「私の負けだ。以後結婚の話はしないと誓おう!」

「ちなみに俺に子供が出来ても養子には出さんからな?」

「うぐ、見破られていたか……」


 

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