第108話 医学書の執筆

 朝食は卵が七つ見つかったので人数分のオムレツが作れた。ラムサスはウイスキーをだいぶ飲んだはずだが、二日酔いにならず白パンを三つも食べていた。ラムサスも教会の祈りはしない派だった。朝食後に妻に怒られるからと土産のウイスキーを持って帰って行った。

 今日は副町長の仕事ではなく、医院の仕事をするつもりだ。医院にある医学書をたくさん読む為だ。良くも悪くも医学書の知識は更新しないから間違った知識がまかり通っている事もある。なんで今まで読まなかったのかと少し後悔している。

「今日は医院に行くつもりだけど、ティアも来るのか?」

「なんです? なんだか来てほしくなさそうですね?」

「ティアが来ると医学書読む暇が無さそうだからな……」

「診察は先生にいつも丸投げしてるじゃないですか!」

「そうじゃないと先生の経験値にならんだろ?」

「それは……。そうですけど……」

「来てもいいけど、俺は医学書を読むからな。ティアは先生とユリアの補佐だ」

「わ、分かりました……」

「ロイ。フェイとローガンを頼んだぞ」

「お任せください、師父」

「じゃ、行ってくる」

「行ってきます」



 今日も医院は大盛況だ。それはティアとマリアの看護服の威力が高いせいだ。診察に来るのはほぼ健康体なので診察は先生に任せてゆっくり医学書を読む事にする。先生の持っていた医学書はほとんどが手書きで古いモノだと分かる。そこに追加の走り書きが書いてあるので大変読みにくい。本は個人の物なので走り書きしようが落書きしようが勝手だが、間違って覚えている箇所が何個もある。これでは間違った処置で死人が出そうで怖い、早めに医学書を完成させよう。しかし、ウルルスは医師としての経験が少ない回復術士だ。先生の名前で出しても医者になったばかりの若造の著書なんて誰も買わない。これはどうしたら良いのだろう? さすがに大物の名医師に伝手は無い。先生が師事した人を頼ってみるしかないが、本来なら回復術士と医者は患者を取り合うからあまり仲が良いとは言えない関係だ。

「先生を師事した医者が回復術士嫌いだったら詰みだな……」

「なんの話ですか?」

「医学書の執筆でもしようと思うんだが、回復術士の書いた医学書なんて誰も買わないだろ? だから先生の師匠に代筆をお願いしたいんだよ」

「それは無理ですね。大の回復術士嫌いですから」

「無理か……。とりあえず先生の名前で売り出すか」

「止めて下さい。師匠が町に乗り込んできます」

「いいじゃないか、それくらい」

「ウルルスさんは師匠の怖さを知らないからそんな事が言えるんです!」

「それは俺より怖いのか?」

「……。苛烈さは似てますかね。喧嘩で怪我をした患者は診ませんから」

「それは気が合いそうだな」

「師匠とウルルスさんが意気投合したら恐ろしいですね」

「会いに行こうと思うんだが、名前は?」

「ジャンヌです。王都の病院では有名ですよ。手術が大好きで医者の間では血塗れジャンヌって呼ばれてます」

「へー。仕事熱心なんだな」

「その評価は初めて聞きました……」



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