第99話 郵便物

 定住してから色んな人から郵便物が届くようになった。暗殺者ギルドの連絡は鳩か鷹だからそれはカウントしない。あれは使い魔の一種だし、魔力の波動を覚えさせれば暗闇でも飛んでくる。夜に来るのは鷹では無く梟だが、よっぽどの急ぎの仕事以外で見かけた事が無い。

 普通郵便は五日もすれば届き、急ぎ便は三日で届く。暗殺者の仕事が無くなっても、ウルルスがなら郵便物を一日で届ける自信が有るのであまり将来の事を悲観した事が無い。たとえ足が一本無くなっても義足を使えばで馬に負けるはずもないと自負している。

 郵便物の大半はフェイ宛だ。ベスから引き継いだ情報網は辺鄙な田舎だろうと機能している。大抵返事はウルルスが町の郵便局まで持って行くし、急ぎの場合はその家までウルルスが走る事になるので随分と顔なじみが増えたように思える。

「叔父上が来ます……」

 青い顔でローガンが手紙を読み終えた。ウルルスも手紙の内容を見てみると、結婚式も上げずに懐妊した事に大層ご立腹で、端的に言えばローガンの伯父とウルルスと死合うという内容だった。手紙の体をした果たし状だった。

「伯父上は結婚式に呼ばれるモノだと思い込んでたみたいです。それを反故にされて妊娠までしている事に激怒してるみたいです……」

「大変じゃないですか! ローガンさんの叔父さんが殺されてしまいます!」

「殺すつもり無いんだけど……」

 ティアの中の評価を今一度確認する必要があるみたいだ。

「師父が負ける事は無いと思いますが、落としどころが難しいですね」

「そうね。素手で剣士に立ち向かう事を叔父さんは良しとするかしら?」

「う~ん。剣は使えない事は無いけど、素手より数段落ちる。力量が分からないから手加減もしにくいな……」

「相手は殺す気でいますからね、手加減なんてされたら逆上するんじゃないでしょうか?」

「めんどくさいわね」

「めんどくさいですね」

「伯父上をめんどくさい奴扱いは止めて下さい。真面目な良い人なんです!」

「真面目で良い人はお腹の子の父親を殺そうとしないと思うんだけど?」

「それは……。可愛さ余って憎さ百倍って言うじゃないですか……」

「普通、憎さ万倍でもそんな事しないと思います!」

「ちょ、直情的な人なんです……」

「やっぱり、めんどくさい人ですね」

「そうね。めんどくさいわね」

「もう。めんどくさいから、殺してしまいましょう」

「だから、殺さないって……」

 物騒な事に慣れてしまっている家族がちょっと怖い……。自分のせいだとしても、これは酷い。

「ローガンの叔父さんを殺さないように気を付けるよ」

「師匠……」

「なんとかなるだろ。これでもランドルフ古流剣術の技は一通り知ってるつもりだ」

「……。叔父上も奥義や秘技は使わないと思います」

「不安要素はそこだけだな……。まあ、避けられると思うけど」

「避けようと思って避けられればいいのですが……」

「不吉な事言うなよ……」





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