第89話 副町長の家で
歓迎会を開くと話していたので野ウサギと鹿肉を購入して。ワインも買っておく。今日は元副長の家の厨房を使う事にする。多分家具はあっても調味料や鍋の類は持って行ってしまっているだろう。ウルルスは食料品をルドルフには調理用品を持ってもらって家までたどり着いた。
「はぁ、重かったです……」
「おいおい、大丈夫か? 身体強化魔法使えば良かったんじゃないか?」
「苦手なんですよ。兄上と違って」
「なら今後は筋トレしながら活性でも使うんだな」
「活性も苦手で……」
「まさかの攻撃魔法特化の後方火力型か?」
「すみません。その通りです……」
詩の才能が無かったら、平民を好きになってなければ、コル家を継いだ方が良かったのだろうなぁと、ウルルスは思う。人生にたられば、は無いので庶民の生活に慣れてもらうしかないのだが、
「筋力付けろよ~。書類整理は案外疲れるからな、書類は意外と重いから」
「はい。分かりました」
素直なのが美徳だな。褒めるべきところだが、海千山千の曲者ぞろいの名家の当主には向いてない。やっぱり家を出て正解かも知れないと思い直す。
「本当は貴族の令嬢でも貰って家を強くするのが名家の正しい在り方、なんだろうがルドルフには向いてないな。家を出て正解だよ」
「なんでしょう、素直に喜べません……」
「性格ひん曲がってなければ、名家の当主になれないって事さ。ルドルフは素直だからな、そこにミリーも引かれたんだろし……」
「そうなんでしょうか……」
「え? 確認してないのか?」
「こんな素敵な詩集を作る人が悪い人のはずが無いです、とは言われましたが……」
「そうか、今日はその辺を肴に酒を飲むとするか!」
「なんで急にイキイキし始めるんです!」
「久しぶりに弟をからかって楽しいから、だ!」
「兄上はその辺変わってないですね……」
ルドルフは諦めた顔で玄関の扉を開ける。
「お帰りなさい、アナタ」
「た、ただいま」
やっぱり家に誰か待っててくれるっていいもんだよな、と傍から見ていたウルルスは思う。ミリーのアナタ呼びとは誰の仕込みだろう。
「これは誰の提案だ?」
「モチロン。私です!」
手を挙げ精一杯主張するのはティアだ。普段はご主人様呼びだが、一度やってみたかった事を二人にやらせたのだろう。
「私は旦那様の方がしっくり来ると思うのだけれど……」
「家を出たんですから、様付けとかは無粋ですよフェイ様……」
「私もティアさんに一票入れました!」
ルドルフはアナタ呼びがよほど衝撃過ぎたのか硬直している。ミリーも恥ずかしそうだ。これは良い酒が飲めると確信する。ティアに食料品を渡し、座り心地の良さそうな椅子を陣取る。
「あれ? 珍しくワインですね。まあ、私と師匠とご主人様とルドルフ様しか飲めないですけど……」
「兄上、こんな小さい子に酒を飲ませたんですか……」
「酒飲みの素養があってびっくりしてるよ」
「ですが、どうみても成人前でしょ?」
「ルドルフ様が私に手を出したの成人前じゃないですか……」
なかなか物凄い爆弾放り込んでくるな、この子。これはルドルフに色々聞きださないと、だな。
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