第77話 養蜂家

 養蜂で採れるハチミツは高級品だ。貴族以上の身分でしか口にする事が出来ない。養蜂家達はその技を秘伝として隠した。しかし、異端者の楽園にやって来た養蜂家は惜しみなくその技を町民達に教えた。そのお陰で異端者の楽園では冬以外季節には花が咲いている。観賞用という事もあるが、花の蜜を集めさせる為と野菜の受粉を促す為である。一説によると蜜蜂が全滅すると野菜の約八割の作物が収穫できなくなるそうだ。その事をウルルスが町人に教えると養蜂家は非常に大切にされた。

「なんでそんな事知ってたんだ? ウルルス」

「俺は疑問に思った事はとことん調べる主義なんだよ。養蜂家は暗殺者並みに秘密主義なんだが、やはり酒の力は偉大だわ。知ってる事ペラペラ話してくれたよ」

「その秘密をバラされて養蜂家のジョセフは起こらなかったか?」

「逆に感謝されたよ。こうなるなら隠すんじゃなかった、ってね」

 墓守はため息をついてネコとの遊びを続けている。

「仕事終わったから帰って良いか?」

「どうせ明日も来るんだろ?」

「暗殺の仕事が入らなかったらな」

「いい加減、辞めたらどうだ?」

「俺は死ぬまで暗殺者だよ」

 深い深いため息を付いて墓守は視線をこちらに向けると、

「家族は納得してるのか?」

「主な収入源だから文句言えない感じだな」

「一般家庭なら銀貨二枚でひと月暮らせるだろうが……」

「金貨二枚の仕事はしくじった事ないしな」

「しくじったらウルルスは今ここに居ない訳だしな」

「いや、逃げ帰った事ならあるぞ?」

「何の仕事だ?」

「あまり言いたくないけど、教会の最高司祭は三回目で殺せた」

「なんで?」

「ガードが固かった。隙も無かった。自分が殺されるような事をしていると云う、自覚があった」

「それは、難しいな」

「俺もその頃はまだ若かったしな。頭を使うことを思いつかなかった。何とか搦め手で殺せたよ」

「ちなみ、その最高司祭ってジョモローか?」

「異端者の楽園の町長がその名前を知ってると思わなかった」

 教会のトップは教皇だ。最高司祭はその次に偉い。ジョモローはその地位を利用して私腹を肥やし、男だろうが女だろうが幼子の穴を掘るのが大好きな変態だった。

「昔、狙われた事があってな……」

「親に教会に仕える事で徳を積めるとでも言われたか……」

 王国民のほどんどが、教会の教えを信じている。異端者の楽園はその教会の教えに反した者が多い。結婚式は上げられないが、町長の墓守が夫婦と認めれば夫婦になる。一夫多妻だった元副町長もその類だ。

「養蜂家はなんで教会の教えに反したんだ?」

「ああ、男色家同士の夫婦だからだな、夫婦と呼んで良いのか分からんが、里子を欲しがっていたな」

「王都で孤児でも拾ってこいよ」

「嫌だ、断る」

「この町に孤児は居ないからな、どうしたもんか……」

「お前の子供を里子に出せ」

「おい、ふざけんな! 俺の子供は絶対やらんぞ!」

 俺が死んだらそういう事もあるかも知れないが、俺の目が黒いうちはそんな事はさせない。絶対にだ。



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