第76話 失踪届け
「ウルルス、ちょっといい?」
ほんの少しだけお腹の膨らんできたフェイに呼ばれた。
「なに?」
「あなたの実家の人でレミントン・コルって人いる?」
「いや、聞いた事ないな。家を出てから産まれた子なら分からないけど」
「年齢が違うからそれは無いわね」
「何の話だ?」
「王都でレミントン・コルを探すのがブームらしいのよ」
「なにそれ、意味わからん」
フェイの話ではそのレミントン・コルは三十代半ばで、ある日を境に失踪したらしい。家族が心配して警察機構に失踪届けを出したそうだ。かなり裕福な家らしく有力情報には高額の謝礼金が出るそうで、噂に噂を呼び王都でレミントン・コル探しがブームになりつつあるらしい。
「なんだ? 一枚嚙みたいのか?」
「私の推測と聞いて欲しいのだけれど……。これウルルスの事を探してないかしら?」
「……。どういうことだ?」
「ウルルスは良く偽名でレミントンを名乗るじゃない。この失踪届けは何かの網で、ウルルス・コルを探している気がするのよね」
「情報屋の勘か?」
「えぇ、なにか匂うのよこの話……」
「なにか分かったら教えてくれ。ちょっと副町長の仕事してくる」
「行ってらしゃい」
副町長の仕事と言っても要望を入れる箱は置いてあるし、字が書けない町民が町長に直談判する事も多い。ウルルスがこなすのはほとんど書類の整理と処理だ。町長である墓守は判子を押すだけでいい。
要望を書類に起こし、どうすれば解決するか考えて有力者の意見を仰ぎ、町長に判子を押させる。これが主な仕事だ。
色んな町を渡り歩いたウルルスは、その良いところだけ真似をして問題が発生したら町人達に役割を振って問題解決に当たらせた。すると、町人ににも責任感が生まれ、それは結束力になった。派閥を生む結果に成ったが、問題のない町など、どこを探しても無い。この町はまだまだ育つ余地がある。
町長は完全にお飾りに成ったが、墓守と言う人生の最後を看取る者として改めて尊敬され始めた。
仕事場は墓守の家の机を使わせえてもらっている。なんとなく仕事を家に持ち込みたくないのだ。二階で仕事をしていると墓守は大抵、一階で飼い猫と遊んでいる。名前はカフェだそうだ。
「墓守~、開けてくれ~」
「なんだ今日も来たのか、仕事熱心な奴」
扉を開けて開口一番これである。覆面の下の表情は分からないが、心なしか嬉しそうだ。
「聞いたかウルルス。人探しの話」
「フェイにちょろっと」
「有力情報で金貨三枚だそうだ。豪気な話だな」
「金額までは聞いてなかったな。俺の一回の仕事より多いのかよ、凹むわ」
「暗殺の仕事は幾らなんだ?」
「基本は金貨二枚。難しい奴だとそれなりに」
「へ~、そうなのか。思ったより人の命って安いな」
「銀貨三十枚で受けることもある」
「一番安かったのは?」
「銀貨十五枚」
「人の命は儚いな」
しみじみといった風に言ってるが、内心面白がってるに違いない。声に嬉しさが滲んでいた。
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