第73話 副町長就任
副町長一家が異端者の楽園を去ってから一週間後にウルルスの副町長就任式が執り行われた。墓守はいつもの様に覆面姿で就任状を読み上げている。今この場に居るのは町の有力者と家族と呼べる同居人たちだけだ。
「ここにウルルス・コルを副町長として任命する」
「謹んでお受けいたします」
前はこんな仰々しくなくて済んだんだが、こっちの方が皆が納得すると押し切られた。従わなかったら、寝顔見たのバラすと脅されもした。
「では、宴会場に向かおう、皆もう飲み食いしているはずだ」
「はぁ……。自分の力量が恨めしい」
墓守にしか聞こえない声でそう呟く。
「持つ者の義務を果たせ、腐らせるには惜しい」
「持たざる者の気持ちを汲むくらいしか出来ないよ、言っとくけど」
「それで充分さ」
墓守が笑っているのが雰囲気で分かる。あの美貌で笑ったら、さぞかしモテていただろう。いや、トラブルの種だったに違いない。
「これは女性陣に顔を見せない方いいかもしれない……」
「ウルルスが人の寝顔なんて見るから悪いんだろ」
「もう何十回も謝ってるだろ……」
「誠意が足りない」
この上司の下で働くのはやっぱり早計だったかもしれない。
「おめでとうございます! ご主人様!」
「おめでとう、ウルルス」
「おめでとうございます、師匠」
「おめでとうございます、師父」
ティア、フェイ、ローガン、ロイ達家族が祝ってくれるのが唯一の救いだ。
「ありがとう、みんな」
忌憚なく礼を述べる。有力者達は一足早く建物を出て行っていた。たぶん用意された酒が無くなるからだ。
「せっかく酒を用意してもらってなんだが、俺は自分で栓を開けた酒しか飲まない主義なんだが」
「それでもウルルスの酒好きはこの町で知られている。みんな急ピッチで飲んでるだろうな」
「町の血税をこんな事に使っていいのだろうか?」
「みんな理由を付けて酒が飲みたいだけさ。気に病む必要はない、元々は自分の金なんだから」
「どう考えても翌日悪い二日酔いになりそうな安い酒でしょうね……」
「ウルルスがいつも買ってくるお酒が異常なのよ……」
「お腹の子に触りますし、絶対飲みません」
「もう成人年齢を越してますから私は飲みます」
四者四様の答えが返って来た。これからは酒のグレードを少し下げよう。いくらカジノで稼いだとしても、湯水のように使えば無くなるのだから。
「みんなの前での就任挨拶は考えてあるね?」
「まあな、自己紹介代わりに何故前の副町長がクビになって俺が据えられたかを簡単に面白おかしく話すつもりだ」
「らしいといえば、らしいが。それでいいのかい?」
「どうせ酔っぱらい共に高尚な話をしても翌日には忘れてるよ」
俺の予想どおり半分以上の酔っ払った町民は俺の就任挨拶で大爆笑した。俺が言うのもなんだけど、大丈夫か? この町。大らかなのは良い事だと思うけどね。
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