第72話 早朝

 朝の水汲みを終えて、町でパンを買い。朝食を作っているうちに起きてきたティアとロイに墓守の所に行って来るを旨を伝えると。朝食を取らずに墓守の元へ向かった。埋葬前のダーマスが墓守の言う芸術的な死者の冒涜された姿が見たかった。

 墓守の家の荷台に放置されていたダーマスは全裸で身体中に悪口が書かれ、ケツの穴に花が刺さっていた。確かにある意味芸術的だ。死者の冒涜以外に目的が無い状態だった。墓守が怒るのも分かる気がする。

「面白い姿にされたな、ダーマス」

 返事が無い事は分かっていたが、声を掛けずにはいられなかった。ティアの溜飲が少しでも下がったなら生きたまま運んだ甲斐が有ったと云うものだ。

「邪魔するぞ、墓守」

 扉に鍵が掛って無かったので勝手に入る。一階にはベットは無い。たぶん二階だろうと階段を上がる。

「これはまた、秘密を握ってしまったかな……」

 墓守は覆面を着けずに寝ていた。その寝姿は朝に目が覚めて横に居るティアの寝顔並みに破壊力があった。これは、男共が放って置かないはずだ。覆面はその美貌を隠す為の物だ。

「先に報酬は貰ってしまったし、仕事を片付けるか……」

 昨日は計算の途中で帰ってしまったので、その続きからだ。椅子に座っているとネコが机の上に上がってきた。

「ご飯の催促なら飼い主に言いな、ネコのエサなんて作った事が無いんだ」

「なぁ~」

 書類の山の近くで寝てしまった。起こすの忍びなく、空いてるスペースで計算を始める。ソロバンでもあればもっと簡単だったかしれないが、無い物ねだりしてもしょうがない。頭の中で暗算すると計算に不備が見つかったので直しておく。

 カリカリとしばらく羽ペンの音が止むことは無かった。出来るなら起き出す前に仕事を終えたかった。

「ふえ? 何の音ら?」

 まだ二十代にもなっていない墓守が呂律の回らない舌で呟く。

「なんれ、ウルルスが居るんら?」

「もうとっくに日は昇ってるぞ、墓守」

 しばらく体を起こしたままボーっとしていた。時間と共に墓守の瞼が徐々に上がっていく……。

「ウルルス、私の寝顔を見たな?」

「お詫びに仕事を片付けているだろ」

「もういい、見られたものはしょうがない……」

「可愛い寝顔だったな」

「黙れ」

 まあ、その美貌なら男からは言い寄られるし、女からは嫉妬されるだろう。ティアを手に入れる為に事故を装って両親を殺されるくらいのトラブルはあったのは想像がつく。

「私の寝込みを襲わなかったのはお前が初めてだ。ウルルス」

「ティア並みの美貌だからな、それなりに自制は効くさ」

「あの子も随分苦労したみたいだな……」

「そうだな。冒険者共の性処理係になる寸前のところを成金貴族に助けられて、その貴族との賭けに負けて奴隷に落ちる位には苦労してる」

「それはただ賭けが弱いだけでは?」

「その自覚が有ったら、借金苦で俺に拾われて無いから微妙なところだな、実際」

「世の中、巡り合わせか……」

「そういう事だな。決算の計算間違ってたぞ、墓守」

「ああ、それは副町長がわざと間違えたんだろうな。アイツも借金で首が回たないくなる一歩手前だからな」

「そんなに子育てって金かかるもんなのか?」

 副町長は貴族でも無いのに一夫多妻で子供も多い。掛け持ちの仕事は俺が把握してるものでも三つある。

「私に子供は居ないから分かる訳ないだろ?」

「そりゃごもっともだな」

「だからと言って町の税金をかすめ取る奴はウチの町には必要ないな……」

「強制退去ですか、町長を敵に廻すと怖いなぁ」

 俺は一応名家の生まれだから複数妻を持っても平気なのだが、異端者の楽園ではそんな特権は役に立たない。ここは教会の教えに反した人間が作った町なのだ。

「金は稼いで使ってなんぼだからな」

「アイツの妻たちの浪費癖が直らん限り副町長は酷使される。逆に感謝して欲しいくらいだ」

「文字の読み書きと計算と交渉術が得意な奴、他に居たっけ?」

「私の目の前に一人居るがな……」

 割と目がマジだ。暗殺者と医院専属の回復術士、それに副町長の仕事まで増えたら子供が成人する前に過労死すると思う。

「他当たってくれ、俺は割と忙しい」

「今度お前の家に行って私の素顔を見せてから、ウルルスは寝顔まで見たって言ったら、どうなると思う?」

「悪魔かお前は」

 絶対断れない奴じゃんそれ……。






 

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