第53話 帰路
町長の仕事は多岐に渡る。それを己の裁量で決めるのだ、その心労は日に日に蓄積されていく。普通の町長なら秘書とかにやらせるんだろうが、この町にはその秘書が居ない。
「たまには息抜きも必要だよな……」
伸びをして、片付けた書類を纏める。後は判子を押せばいいだけにしてある。墓守の心労を考えての配慮だ。王都行きもガス抜きになればいいのだが……。
「暗くなってきたな、ティアを迎えに行くか……」
「何この大惨事……」
「ウルルス、安心してください。重傷者は既に入院済みです!」
「看護婦が怪我人作ってじゃねえょ……」
医院の前には焦げ跡や氷の残りがある。どんだけ暴れたんだ……。
「帰るぞ。夕飯はたぶんローガン作だ」
「それは期待できますね。着替えてきます!」
「先生、死なせるなよ。うちの信用問題になる」
「は、はい!」
火傷ど凍傷で死ぬ人間はいないだろが……。とれあえず病状を見に行く。
「いてぇよう」
とりあえず、声が出せる元気があるなら大丈夫だろ。
「先生、鎮痛剤は出すなよ。結構いい値段がするかるからな」
「ですが……」
「それに気休めしか効果がない」
「それならせめて回復魔法を……」
「ティアに手を出してあれくらいで済んでるのはほどんど奇跡だぞ? そんな奴らに回復魔法を使う義理が無い」
「そうですか……」
「近いうちに人員を増やす予定だ。腕は期待するなよ?」
「え? そうなんですか?」
「先生一人で回せんだろ」
「それはティアさんが手伝ってくれれば……」
「やめておけ、病床が常に満杯になるぞ」
「その、魔法を使わなければ……」
「うちのティアが攫われるからダメだ」
「そうですよね……」
「お待たせしました!」
看護服を脱いでもティアの魅力は少しも衰えない。そう思うのは身内びいきではない。先生が目を奪われている。これはいよいよ重症だ。
「またな、先生。気が向いたらまた来るよ」
「お疲れ様でした」
「あ、はいお気をつけて」
「なあティア。先生に将来一緒に医院を手伝って欲しいって言われたらどうする?」
「断ります。プロポーズみたいでキモイです」
「本人からしたら遠回しのプロポーズなんだろうがな」
「なおさらキモイです」
「それ絶対先生に言うなよ、この町から居なくなる」
「キモイはだめですか? なら何て言えばいいんです?」
「そうだなあ、私には心に決めた人がいるので、とか」
「それ、絶対ご主人様の事じゃないですか……」
「いやぁ、先生はだいぶ鈍いからな」
「ご主人様も相当ですよ……」
「俺は始めから好意しかアピールしてないぞ?」
「それは、そうですね……」
「ティアの方がよっぽど鈍いじゃないか」
「変態に言われたくないです!」
「俺のどこが変態なんだよ……」
「洗いっこしたがったり、縛られて興奮するところですかねぇ」
「あ~。ギリギリアウトだわ俺」
「今度鞭で叩いてあげましょうか?」
「それは純粋に嫌だ」
「なんだ。これじゃあご主人様を変態と呼べません」
「今度絶対泣かせてやる……」
「期待してます」
これは誘導尋問ではないだろうか……。そう思うのは久しぶりに頭を使って疲れているからだと思いたい。
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